地属性ペットモンスター『ゴーレムウルフ』
ルーカンという、ちょび髭の騎士は眉を吊り上げながらも、俺を睨みつけてくる。そんな恨まれるようなことをした覚えはないんだがな。
腕を組み、遠くを見つめていると俺の前にスコルが。
「ラスティさんは悪人ではありませんっ」
ぷんぷんと怒るスコルは、迫力はないものの俺を庇ってくれた。……正直、めちゃくちゃ嬉しい。
「なんだ、エルフ……って! ボヘミア様……?」
「……え」
聖騎士の男は、そんな名前を口にしていたが――むろん、スコルはポカンだ。誰だ、ボヘミア様って? 聞いたことないな。
とにかく、この状況は好ましくない。
「おっさん。悪いが、俺たちは先を急いでいるんだ。見逃してくれ」
「見逃すかアホ! ラスティ、お前は世界を歪めた張本人にして大罪人である! よって、公開処刑だ」
「ふざけんなッ」
ワケも分からずいきなり罪人扱いとか、それこそ冤罪だ!
まるで身に覚えもないしな。
「我が主への……それ以上の侮辱は許しませんよ」
聖剣を抜くルドミラは、聖騎士に殺気を放っていた。こんな時の彼女は恐ろしいぞ。
「……っ! お、女騎士。見たところ、この世界の聖騎士のようだな……」
「その通り。私はラスティくんに身も心も捧げ、守護すると誓った騎士。ですから、彼を連れてなどいかせません」
ルドミラは、戦闘態勢となる。
すると背後の聖騎士たちが慌てて身構えていた。
一触即発の状況になった。このままでは大規模戦闘になりかねん。場所を変えた方がよさそうだな。
俺はエドゥに耳打ちした。
「場所を変えてくれないか。強制転移で」
「もちろん、可能です」
「アルキメデスに迷惑は掛けたくないのでな。――そうだな、アルケロンの付近でいいだろ」
「では、さっそく強制転移を発動します」
俺たちとルーカン達を一斉にテレポートするエドゥ。
視界が瞬時に切り替わり、気づけば荒野の上にいた。アルキメデス国外のアルケロンが待機している場所だ。
「な、なんだここは!?」
「ル……ルーカン隊長。我々は獣人族の国にいたはずでは……」
「強制転移なんて高位のスキルを使えるとはな」
ちょび髭とその他の騎士は、この状況に混乱していた。この人数を一気に強制転移させるなんて、あんまりない状況だからな。
「ルーカン、俺を連れて行きたいなら、そこのルドミラとエドゥ、そしてテオドールを相手にするんだな」
「おいおい、ラスティ。私も含まれるのかい」
面白おかしそうに笑うテオドールは、既に“テイマー”として動き始めていた。地面からオオカミ型のゴーレムを召喚していた。ゴーレムウルフってところかな。
そして、ナハトも魔剣ヘルシャフトを鞘から抜いていた
「こんな馬鹿共はさっさと倒すぞ。アイファを探す方が優先なのだからな!」
まさにその通り。
この三馬鹿に構っているヒマなどないのだ。
「どうしますか、ルーカン隊長!」
「相手は四人ですよ!?」
部下二人が怯えていた。
視線で指示を仰ぐものの、ルーカンは「ええい、構わん! ヤツ等を全員捕えろ!」と叫んだ。
本当に馬鹿だったか。
「せっかくだ。私のゴーレムウルフを試そう」
指を鳴らすテオドールは、ゴーレムウルフを仕向けた。
予想以上に素早く動く狼のフォルムをしたゴーレムは、まずは部下二人に突撃。体当たりを決めていた。
「ぐおッ!?」
「があア!!」
凄いぶっ飛ばしてる!
二人の男たちは、かなり吹き飛んで地面に倒れていた。
コイツはすげぇ。
「テオドールさんのウルフさん、凄いですね!」
「ありがとう、スコル様。あのペットはかなりお気に入りでね。あの通り、全身が岩だから固いし、ボディが崩れ落ちても砂を食べて元通りなのさ」
なんて便利なゴーレム! いや、ウルフ!
おかげで後は隊長のルーカンだけとなった。
コイツをどうしてやろうかな。
「……ク、クソ! ならば、隊長の私が戦うしかないだろ! ラスティ、男らしく決闘しろ!!」
「マジかよ」
こんな時に騎士道精神かよ。
付き合ってらんねぇ~…。
情報を引き出そうとも思ったが、これ以上は面倒だ。
「そっちが来ないなら、こっちから行くぞおおおおおぉぉぉ……!」
うぉい!
決闘はどうした!
いきなり剣で切りかかってくるとか――無人島開発スキル『落とし穴』発動だ!
「うぉら!」
「へ――うあああああああああああああああ…………!」
ぴゅ~んと落とし穴に落ちるルーカン。
見事に落ちたな。
やっぱり、馬鹿なのかもしれない。
◆
アルケロンに乗り込み、いったんドヴォルザーク帝国へ戻ることに。ストレルカとも合流したいしな。
しばらくは、またアルケロンの甲羅の上で生活だな。
巨大亀の上で俺は、遠ざかっていく落とし穴を見つめた。……あ、ルーカンが這い上がってきた。しかも、すげぇキレてる。
追いかけてくるのかなぁ。
「……また会ったら詳しく聞くか」
「どうしたのですか?」
隣にやってくるスコル。
金色の美しい髪を靡かせ、小さな手で押さえていた。そんなさり気ない仕草に、俺は少しドキッとした。
「スコル、カファルジドマ大帝国について知りたい。世界聖書で調べられないかな?」
「アカシックレコードならきっと分かります。時間が掛かるかと思いますが、やってみますね」
「おう、頼む」
それまでは、のんびり過ごすしかないな。




