黄金の宮殿『ヴァルハラ』
毒を解除した俺は、ゲイルチュールを剣形状のシグチュールへ変化させた。
あの爪を叩き落すなら剣の方がいい。
予想通り、シチリアは毒爪攻撃を放ってきた。
俺は剣で応戦。爪を地面へ払った。
「ここまで上り詰めただけはある」
「褒めて貰っても嬉しくねぇよ」
妙に大人びた笑みを浮かべるシチリア。少女にしては落ち着きがありすぎる。……女王だからかもしれないけど。
次の攻撃に移ろうとするが、異様な気配に俺は足が止まった。
……なんだこの胸騒ぎ。
「あ! ラスティさん、上です!」
スコルが叫ぶ。俺の頭上に“なにか”ある――!
視線だけを上に向けると、そこには巨大な魔法陣があった。これは……! あのシチリアの魔法スキルなのか!
これは回避せねばマズイと直感した。
直ぐに移動を開始するものの、魔法陣が頭上に落ちてきた。……落ちてくるのかよ。
俺は成す術なく、そのまま“暗闇”に囚われた――ようだ。
・
・
・
「――ぐ」
記憶が正しければ、ここはアルキメデスのパリンプセスト城のはず。
しかし、瞼を開けて見た光景は違ったものだった。
お、おいおい……ここ、どこだよ。
なんだ、この暗闇の中。
まさか、俺は死んだのか……?
以前にも似たような世界に取り込まれたことがある。
あそこは『冥界の狭間』だった。元クソ親父が言っていたから間違いない。また、同じ場所に来たのか。
「なにをしているのだ、兄上」
「え……。この声、ハヴァマールか!?」
暗闇がいきなり晴れると、今度は白い空間の中にいた。そこには、いつものメイド姿のハヴァマールの姿があった。
今まで姿を消し、声だけの存在になっていたが――どうしてここに。
「なに、してるんだ……?」
「それはこっちのセリフなのだ。まさか兄上が“こっち”に姿を現すとはな、驚いたぞ」
腕を組み、意外そうにするハヴァマール。いや、そう言われてもな。
「ここはアレか。ハヴァマール専用空間ってところか」
「うむ。我が『ヴァルハラ』なのだ」
ヴァルハラ?
どこかで聞いたような……。
俺は疑問を感じて首を捻った。そんな中でハヴァマールは微笑む。白い空間は、更に色を変えて黄金色に染まった。……って、なんだこりゃ!?
黄金の宮殿……だと。
信じらんねえ。
まるで神話時代の――。
「ヴァルハラ……お前、ここでずっとゴロゴロしていたのか」
「失礼なっ。この場所で余はずっと世界を見守ってきたのだ」
「なるほどな。どこにいるかと思ったが――凄いなこりゃ」
「黄金の起源はここだ」
「……なんだって?」
今、世界を揺るがしている事件の根源ってことだよな?
「すまん。もっと早く言うべきだったのだ」
「そ、そりゃ……驚いたけど。関係あるってことか」
「さあ、そこまでは。しかし、今は悠長に話している場合でもなかろう」
その通りだ。早くシチリアを倒してアイファの情報を聞き出さねば。
とはいえ、どうやって戻ればいいんだかな。
「帰還方法は?」
「よくぞ聞いてくれた。ちなみに、兄上は死んだのではなく、強制転移へここで来たようだな」
「……そうなのか?」
「どうやら、兄上には“転移”に関する呪い的なものがあるのかもしれぬ」
そんな呪いは嫌だなぁ。
しかし、過去に似たような事象が起きている。因果関係があるのだろうか。あって欲しくねえなぁ。
「まあよい。きっと無人島開発スキルが覚醒したせいもあるのだろう」
「そういうことかな」
「多分な。さて、帰る方法は簡単だ。この先に出口がある」
「あんのかよ!」
ハヴァマールについていくと、宮殿の近くに扉だけの物体があった。黄金の扉だ。こんなモンがあるとはな。
「ここを通れば下界へ帰れるぞ」
「下界って……。てか、ハヴァマールも一緒に帰ろうよ」
「それは無理なのだ」
「なぜだ」
「余はまだ魔力が戻っておらぬ。余はまだ天の声としてここにいるのだ」
「そうか。ちょっと残念だが、ここへは来れそうだな」
「永遠の別れではない。余は常に兄上のココにおる」
胸のあたりを指さすハヴァマールは、ヒマワリみたいな笑顔で笑った。そうだな、それなら寂しくない。
俺は黄金の扉を開けた。
◆
【パリンプセスト城】
『――ズウウウウウゥゥゥゥン』
俺のいたであろう場所には大穴が出来ていた。アレを受けていれば俺は木っ端みじんだったわけだ。
シチリアは勝利を確信していた。
だが、俺は彼女の頭上にいた。
落下する中で俺は、覚醒無人島開発スキルを発動。
鋼鉄チェーンで体をグルグル巻きにしてやった。
「な、なんだこれはああああああ!?」
「お前の負けだ、シチリア!」
「ラスティ、貴様! 生きておったのか……!!」
焦りながらも身構えるシチリアだが、もう身動きはできない。これが最大のチャンスだ。
「ぷちライトニングボルト!」
ビリッとシチリアを痺れさせた。
さすがの俺も、こんな少女を本気で倒せるわけがなかった。しかし、これで十分だ。
「ぐ、う……」
パタリと倒れるシチリア。
俺のランキングは【2】→【1】へ。
これで決着はついた。




