追放されし大賢者
「そうか。点と点は繋がった」
意味深な発言をするシチリアは、俺の方へゆっくりと向かってくる。
周りはどうでもいいらしく、戦いだけを望んでいるようだ。
なぜ俺にこだわる……?
戦ったところで、双方にメリットなんてないだろうに。
でも、国柄なのなら仕方ない――か。
「分かったよ、シチリア。お前を倒せばいいんだな」
「そうだ。仲間は下がらせるがよい」
「心得た」
俺はルドミラに合図をした。
みんなを下がらせたが――スコルだけは俺の腕にしがみついた。
「わ、わたし……離れたくありません!」
「スコル……気持ちは嬉しいよ。でも、勝たねば先へ進めないんだ」
「……でも。でも」
かなり前から心配してくれていたんだな。
俺というヤツは、いつも肝心な部分に気づかない。
「ありがとう。勝って必ずスコルのもとへ戻る」
「約束ですよ……!」
「ああ。だから、ルドミラの傍を離れるなよ」
「はいっ」
俺の言うことを素直に聞くスコルは、ルドミラの方へ走っていく。
……さて、俺はゲイルチュールを召喚した。
よし、使えるな。
マキシマスのせいで召喚できなくなっていたが、今は大丈夫だ。問題ない。
「ラスティ。世界の秘密を知りたくば、この私を倒せ」
背中から白い翼を広げるシチリア。……コイツは“天使”なのか――?
まさか、あのステンドグラスは彼女本人か!
少し驚いたが、冷静に考えればこの『アルキメデス』は俺たちとは違う世界の国。その世界では天使はありふれた存在なのかもしれない。そう考えることにした!
「望み通り、ぶっ倒してやるさ!」
最近マイブームの『サンダーボール』を生成し、俺はゲイルチュールで打った。
超高速でサンダーボールは、シチリアに命中した。……よし!
――ん?
「……なにかしたか、ラスティ」
「お、おい。マジかよ」
シチリアは、ピンピンしていやがった。
魔法防御耐性が高いのか!
伊達に【1】ではないってことか。
密かに覚醒無人島開発スキルを発動していると――。
「ラスティ様。その女王は、獣人族の中では異質です」
「そうなのか、エドゥ。つまり、天使ってか?」
「――いえ。彼女からは複数の種族を検知。これは……『キメラ』の属性」
なッ。
キメラだって……?
つまり、簡単に言えばウサギやゴリラ、イヌやネコなど多種が混ざり合った獣ってことか。たぶん、天使の翼も合体したものか。
「そこの賢者……なぜ分かった?」
冷たい表情と瞳でエドゥの方を向くシチリアは、妙に不快感を露わにしていた。……痛いところを突かれたって感じだな。
「ソウルフォースは万物であり、理。真実しか語りません」
「そうか。お前は厄介だ……城外から追放する!」
指を向けるシチリアは、そう叫ぶ。
すると、エドゥの姿が一瞬にして消えた。
こ、これは『強制転移』じゃないか――!
俺もかつてアントニン(元親父)から喰らったことがある。というか、俺自身も国の管理者だから、今は国に滞在している場合は『追放』が使用可能だ。
つまりこれは管理者権限というわけだ。
「そんな、エドゥさんが……」
あわあわと焦るスコルは、目を丸くしていた。
俺も正直、追放は予想外だった。
だがしかし、相手は『女王』だ。しかも、ここは王政だからな。王が絶対だ。
「シチリア! 俺の仲間に手を出すんじゃねぇ!」
「ならば勝つことだ」
目を赤くするシチリアは、いきなり怪光線を放ってきた。ちょ、目からッ!
「こ、このォ!」
ひょいっと回避したが、怪光線が背後の壁を貫いていた。な……なんちゅう威力。あんなモンを喰らったら俺の心臓が貫通していたところだ。
どうやら、キメラってのは本当らしい。
厄介な!!
「では、これはどうかな」
左手を向けるシチリア。五本指の爪が全部飛んできた。今度は鋭すぎる爪が吹き矢のように飛んできやがった。
なんだそれ!!
「サンダーブレイク!」
風属性魔法スキルでカバーしていくが、一本の爪が俺の頬をかすめた。
ピッと裂傷。負傷した。
……この程度なら…………む?
体が、おかしい。
「気づいたか、ラスティよ。その爪は巨人も秒殺する“猛毒”なのだよ」
「な……んだと」
クソッ、早くも毒が回ってきやがった。こんなの反則だろッ。
つか、死ぬ……!
「おいおい、ラスティ。だから、不老不死になっておけと。まあいい、受け取れ!」
笑みを浮かべるテオドールは、数えきれないほどの解毒ポーションを投げつけてきた。てか、多すぎ!
いや、ツッコんでいる場合ではない。俺は大至急でポーションを飲んだ。
「――ふぅ。あっぶねえ! 助かったぜ、テオドール」
「それだけあれば、また毒を喰らっても平気だろう」
「なるほどな、考えたな」
爪攻撃はもう出来ないってわけだ。
つか、秒殺の猛毒だったはずだが――結構耐えたな俺。毒耐性なんてあったっけな? まあいい、それよりも。
反撃開始だ。




