ヒュッケバイン家の最強武器召喚
ただの棒だと思った、デストンファー。
それは俺の服を切り裂き、風圧を巻き起こした。
「――ぐッ!」
っぶねえ。
振り向くと、そこは場外。高所すぎて震える。
「ほう、私のデストンファーを耐えるとはな」
面白おかしそうに口元を歪めるウルク。なんて怪力女だ。
しかし、覚醒無人島開発スキルのおかげで助かった。
俺は咄嗟の判断で、即席の石のガードレールを作った。今や背後でバラバラと砕けているが、足止めにはなった。
周囲の獣人たちは少し驚いていた。
「……ウルク、油断するな。その少年は不思議な力を持つようだ」
「分かっている。彼は人間にしてはやる方だ」
筋肉質な男と会話をするウルクは、その助言に素直に従い身構える。……やはり、高ランクなだけあって一筋縄ではいかないようだ。
だが、いつまでも付き合っていられない。暇もないんだ。
覚醒無人島開発スキルを発動。
木製の槍を数本生成、それを投擲した。
「いけええッ!」
「なんだ、この木杭の数々……!」
トンファーで破壊されるが、それでいい。そちらはカモフラージュなのだから――!
「更にこれをお見舞いする」
風属性魔法スキル『サンダーボール』を発動し、俺はゲイルチュールで打ち付けた。それは、瞬間でウルクに激突した。
「ぐ、あああああああああ…………!」
【7】→【5】
撃破判定!
これで残るは【4】、【3】、【2】。
「……バカな。ウルクがやられた、だと……」
さっきウルクに話しかけていた獣人がビビっていた。恐らく、ゴリラ系。
「さあ、残り三人だ。まとめて掛かってこい」
「四位の俺様が出るしかないようだな」
腕をブンブン回して向かってくるゴリラ顔の男。こうして対峙すると、凄い迫力だ。早期決着が望ましいな。
そう思っていたが。
「クソゴリラ、邪魔だ」
と――【2】のフードの男(?)がゴリラ男の頭をそのまま舞台に押し付けていた。
『ドゴォッ! ――メリメリメリ……』
凄まじい轟音が響き、そこに小さなクレーターが出来ていた。……おいおい、仲間割れかよ。
「ぼごぉぉぉ…………」
【4】のゴリラ男は敗退したようで、ランキングが一気に下がっていた。どうなってんだ、こりゃ。
「なんで味方を?」
「このゴリラは、我らヒュッケバイン家に属さない男。邪魔だったから排除した。それだけだ」
「そうなのかよ。背後から攻撃して満足かよ」
「ああ……この戦いに卑怯もクソもない。強い者が全てを手に入れ、弱い者は奴隷になるだけだ」
予想外の展開だなぁ、おい。
「ラスティさん、いきなり【2】ですよ……」
「そうだな、スコル。こいつを倒せば終わりだ」
厳密に言えば【3】がいるが、背の低い小動物みたいな少女。どうやら戦う気はないようだ。ニコニコスマイルで静観している。
「僕の名はマキシマス。マキシマス・ヒュッケバインだ」
フードを取る男――いや、美少年だった。
中性的な顔立ち、美しい金髪に赤い瞳。
それに、特徴的なウサギ耳。
ウルクと同じだ。
「そっちの【3】はいいのか」
「彼女は、僕の義妹でね。普段は心優しいんだ……ずっと【3】をキープしている」
どうやら必要な時しか戦わないらしい。ならば、この【2】を相手すれば終わりってことか。好都合だ。
「マキシマス、とか言ったな。お前を倒させてもらう」
「……君こそラスティといったかな」
「……なぜ」
「君の相棒のエルフさんが名前を呼んでいたのさ」
「そうか。そうだ、俺の名はラスティ。ラスティ・ヴァーミリオン」
ゆっくりと舞台を歩くマキシマスは、腰に携えている鞘から剣を抜いた。
「さあ、来るがいい」
「なんだ、普通の剣じゃないか」
「そうだ。普通の剣だ」
俺は遠慮なく接近し、ゲイルチュールを振った。
マキシマスの剣を呆気なく折ってしまった。
「……なっ。簡単に折れた」
「そうさ。僕は剣使いではない」
「なに?」
「接近させたのはわざと。これを耐えられるかな、ラスティ!」
魔力を爆発的に増大させるマキシマスは、右手に巨大な斧を生成していた。
俺と同じく、武器召喚か――!
しかし、なんだこの巨大な斧!
「……こんなものォ!」
「無駄だ! 喰らうがいい、我が最強の“大戦斧エンデュミオン”を――!!」
軽々と斧を向けてくる。
俺はゲイルチュールでガードするが――こ、これは! ぐぅ!!
「ぬ、あああああああああああ!!」
破壊的な物理攻撃によって俺は吹き飛ぶ。
場外ギリギリで立て直し、覚醒無人島開発スキルを発動。舞台を拡張し、足場を作った。
「この舞台に道を作るとは……厄介な能力だな」
「……大戦斧エンデュミオン、なんちゅう威力だ」
つか、あの少年の背よりも大きいぞ。
あんなモンを軽々持ち上げるとは。魔力で編んでいるからか?
「ラスティくん、あれはあまりに危険すぎます!」
背後で見守るルドミラが叫ぶ。
ああ、あれは今までとは桁違いの強さだ。さすが【2】なだけある。
でもな、それでも諦めない。俺はまだ限界を超えていない。
あの大戦斧エンデュミオンさえ回避できれば問題ない。もしくは封じる。……やるしかないだろ!




