危険エリア突入! 数字のナゾ!
「ディオファントスさん、それは本当ですか?」
誰よりも先にスコルは聞いてくれた。
牛の角を持つ優男は、アゴをしゃくり……見透かすような瞳を向けて「ああ、私は見たんだよ。銀髪の少女をね」とスコルにずっと視線を送っていた。
そんな目でスコルを見るんじゃない。
と、言いたいところだが有益な情報だ。
俺は体が自然に動き、ディオフォントスに飛びついていた。
「おい、お前! アイファを見たんだな!?」
「なんだい、君。悪いが、そういう趣味はない」
ひょいっと回避するディオフォントス。しかし、それでも俺は食い下がる。
「このアルキメデスにいるんだな……!」
「ふぅん。君の探し人かい」
「そうだ。俺の仲間の大切な人なんだ」
ナハトとアイファとの関係を深く知っているわけではない。だが、少し前に『寵愛を受けし世界聖書』で二人の“過去”の一部を見た。
そう、最果てのダンジョン『星の巨大塔トロイメライ』攻略。
星帝シックザールとの戦いまでだ。
「なるほど。しかしどうかな」
「……どういう意味だ」
「この王政アルキメデスに足を踏み入れた以上は、王が絶対だ」
「だから意味がわからん!」
このディオフォントスという男、なにが言いたいんだ?
「この国は『カースト制度』なんだ。私のような“数字”を持つ者は上位カースト。普通の獣人族は真ん中あたり。そして、大体の人間は下位カースト。奴隷の対象だ」
「で?」
どうでもいいと、俺はそんな風に返事を返した。
「分らんのか。そのアイファという少女は“奴隷”にされていてもおかしくない――ということだ」
その瞬間、俺はまた自然とゲイルチュールを召喚していた。
ディオフォントスの首筋に穂先を向ける。
「……それ以上、くだらんことを言ってみろ。首が吹き飛ぶぞ」
「……ッ! 人間のクセにやるではないか」
そこまでにしておかないと、ルドミラも加勢してくる勢いだぞ。
ディオフォントスは殺気を感じ取ったのか、降参したかのように態度を改めて距離を取った。
「教えろ」
「城の方角だ。パリンプセスト城……私はそこで見た」
「城か。よし、向かう」
「一応、忠告しておく」
「なんだ?」
「頭上の数字に気をつけることだ」
頭上? なんのことやらな。
さっぱり分からないので、そのまま酒屋を出た。
スコルとルドミラも『頭上』のことが気になっているらしく、お互いの頭を確認していた。しかし、なにもない。
「なんのことでしょうね?」
「さあ、スコル様の美しい金の髪しか靡いておりませぬ」
と、二人とも不思議そうにしていた。
しかし、城に近づいた途端に変化した。
「お、おい。ルドミラ、それ」
「え?」
俺は、ルドミラの頭上に【8900】という数字が浮かび上がっているのを指摘した。さっきまでなかったハズなのに!
「8900ですか……? なんのことです?」
「さあ? スコルの方は【9999】とあるな。ルドミラより高いぞ」
スコルは慌てながらも、俺の頭上も見てくれた。
「え、え~? そうなのですか。あ、ラスティさんも……え。【9999】って書いてありますよ!」
「む? 9999?」
首を傾げていると、階段の奥から獣人が現れた。彼らにも【1300】だとか【2255】だとか書かれていた。
奴らはニヤニヤと笑みを浮かべながらも、俺の方へ向かってきた。
「雑魚が!!」「こりゃ、鴨がネギどころじゃねえ~! お宝背負ってきやがった!」「やっちまおうぜ!」「こんな雑魚ならぶっ倒せる!!」
なんだか自信満々に突撃してきたが、俺は風属性魔法スキル『サンダーボルト』を降らせて一掃した。
「「「ほぎゃああああああああああああ!!!」」」
ビリビリ、バリバリと獣人の男三人を粉砕。
丸焦げになって黒煙を上げていた。
なにがしたかったんだ?
「あ! ラスティさんの数字……一気に【4300】です!」
下がってる?
つまり、これはレベルではない。
そうか!!
この数字は“順位”なんだ。この先にあるイベントってわけか! つまり、頭上の順位が高ければ高いほど上位カーストというわけか。
なるほど、カースト制度とはこの事か!
ルドミラが地味に順位が上がっている理由は、さっきの酒屋で戦闘をしたせいか。あそこはイベント区域内だったのか?
ともかく、城の周辺で行われている対人イベントで順位を上げるわけだ。
そんな危険エリアにアイファも――?
敵をぶちのめして行くしかなさそうだ!