王政アルキメデス
アルケロンがバーサーク状態になってくれたおかげで、直ぐに到着してしまった。
凄まじいスピードというか、爆走だった。
小屋が吹き飛ぶかと思ったが、テオドールの接着剤のおかげか、その心配はなかった。
そして、以前と同じハーピィの住処に近い場所に到着。
そこを通り過ぎ目的地に到着した。
【王政アルキメデス】
あるはずのない場所に“大国”があった。
海に広がる陸地。
本来そこは、ただの海のはずだ。
さすがの俺でさえ、ここの辺りの地理には覚えがあるぞ。それは当然、ルドミラも同様だった。
「……この国はいったい」
はじめてみる光景に驚くルドミラ。
というか、みんなそんな感じだった。
「マジかよ。この国、ほとんど“獣人”じゃないか」
ナハトもアルキメデスに驚愕していた。
歩行者の八割は獣人だったからだ。
犬系や猫系が多いな。
獣人といえば『ドム』を思い出すな。アイツは殺されてしまったが。
「ど、どうしましょうか、ラスティさん」
俺の服を引っ張るスコル。
その表情はちょっと不安気だった。
「そ……そうだな。迫力に圧倒されてしまっていた。とりあえず、アイファの情報を探らないとな」
このアルキメデスにいるらしいことは確か。
かなり目立つ容姿をしているし、獣人がほとんどのこの国なら直ぐ見つかるかもな。
「この場合、二手に別れた方がいいんじゃないか?」と、テオドールが提案。俺はそれに同意した。そうだな、この人数のパーティなんだ。ひとつにまとまっているより、二手の方が効率がいい。
「そうしよう。俺、スコル、ルドミラだ」
「では、こちらはエドゥとナハトだな」
そう納得するテオドール。
チーム分けは決まったな。
みんなも納得したので、パーティを二分割。
俺たちは酒屋で情報収集。
テオドール達は城の方を探ると言って向かっていった。
あっちは任せよう。
「それでは、私たちは酒屋へ、ですね?」
「そうだ、ルドミラ。――って、妙に顔が近いぞ」
「すみません、ラスティくん」
微笑んで離れるルドミラ。今日の彼女は妙に機嫌がいいように見える。でも、それはいいことだ。
さて、酒屋へ向かうか。
馬鹿みたいに広い大通りを歩く。
相変わらず獣人族が行き来している。人間族が珍しいのか、彼らはこちらを睨むように見つめてくる。
目つきがちょっと怖いな。
【王政アルキメデス:酒屋シチリア】
酒屋は昼にしては薄暗く、客層も良いとは言えなかった。
俺たちが中に入った途端に目つきの悪い獣人が一斉に振り向いた。
「…………」「おい、見ろよ」「なんだァ? ガキじゃねえか」「おい、子供の入る場所じゃねえぞ」「噛み殺されてぇのか!」「まて、あっちの女騎士は美味そうだ」「おぉ、ビキニアーマーとはな」「肌の露出がすげぇなオイ」「真っ白な肌だ」
なぜかモテモテのルドミラ。
対してスコルは、まったくといって興味が向けられてなかった。エルフの需要はないのか。まあ、俺としてはありがたいが。
「ルドミラ、人気だな」
「…………」
圧倒的な視線を受け、ルドミラは居心地が悪そうどころか堂々として――むしろ、獣人族共に殺気を放っていた。
「……!?」「お、おい」「なんか怖いぞ、あの女騎士」「やべえな」「見ない方がいいな」「ああ、うん」「ひぃっ……人殺しの目だ!」
あーあ、さっきまで機嫌が良かったのにな。
でも、おかげでやりやすくなった。
俺はカウンターへ向かい、酒屋のマスターらしき虎顔の男に話しかけた。
「あんたがマスターだよな」
「そ、そうだが」
「この辺りで人間の銀髪の女の子を見なかったか? 俺の隣にいるスコルに似た少女だ」
「…………う、うーん。見てませんねぇ」
と、虎顔のマスターは困惑。
となると、この客の中に情報を持った奴がいるだろうか?
その時、ルドミラの背後に不審な影が。あれは、さっき怯えていた獣人族の男の一人。ゴリラ顔の野郎だ。まさか背後から襲う気か!
「女騎士! 俺の奴隷になってもらおうか!!」
酔っ払いのゴリラ野郎は、卑怯にも背後からルドミラを襲っていたが――当然、彼女は気配を察知。覚醒アマデウスで男の腕を叩き折り、ぶっ飛ばしていた。
「てやァ!」
「ぶぶばぼぼばあああああああああぁ…………!!」
ズ、ドォォォン……そんな凄まじい轟音を共に、酒屋の壁を貫いていってしまった。
静寂の中でルドミラはベルリオーズ金貨を酒屋のマスターに渡していた。
「主人。これでどうか許してください」
「い、いえ……とんでもない! あのゴリラ野郎は、種族問わず女性のお客さんにセクハラしていたクソ野郎なんで」
そんな野郎だったとはな。
しかし、アイファの情報が――お?
客の中から他とは違う身なりの獣人が現れた。なんだこの男。顔はほとんど人間だが、牛の角を生やしていた。
「我が名はディオファントス。君たちが探している少女に覚えがある」
なんだって……!




