北の領地:ドヴォルザーク領エチェナグシア
いつの間にかアルケロンは移動を始めていたようだ。
小屋全体が振動によって揺れ動いていた。
ズシンズシンと響く音で目覚め、みんな起床。――いや、ハヴァマールだけはハンモックで眠ったままだった。この騒音でよく寝られるな。
部屋にルドミラの姿はなかった。
まさか、外でずっと警備を?
気になって小屋の外へ出てみた。
すると、フクロウに手紙を送っていたところだった。
「頼んだぞ、ストームアウル」
「――リョウカイ」
羽ばたいていくフクロウを見送るルドミラは、こちらに向いた。
「おはよ」
「おや。おはようございます、ラスティくん。起きられていたのですね」
「まあな。で、誰に手紙を?」
「隠す必要はありませんね。実はルーシャスに」
「そうだったのか。そういえば、レオポルド騎士団で何か話していたよな」
俺は何を話していたのか内容は知らない。特に追求もしなかった。きっと話してくれると信じていたからな。
その時が今、きたようだ。
「ええ。異国の国ヤマトに動きがあったようで」
「ヤマトに?」
東にあるという異文化の国。温泉だとか和食料理だとか有名らしい。そこで何が起きているんだ……。
「彼らの国は、突然現れた国と小競り合いになっているようです」
「なんだって?」
「敵は大量の『投石器』を使う者たちで、正体は不明」
そんな国が現れたのか。
これもまた七つの世界の影響か。そういう敵対関係となる国が現れてもおかしくはないが、ここにきてヤマトと衝突か。
「ヤマトの国は大丈夫なのか?」
「はい。彼らもまた武装集団。『種子島 』なる銃という武器を使うそうです」
銃だって?
アルフレッドから聞いたことがあるな。一瞬で敵を駆逐するという、トンデモ兵器があると。ドヴォルザーク帝国や俺の島国ラルゴで使う大砲よりは小さいが、相手が人間なら瞬殺だと。
魔法を放つよりも遥かに楽だという。
本当にそんなものが実在したとはな。
そして、気づけばアルケロンが足を止めていた。眼前には街が広がっていた。黄金の街だ。
【北の領地:ドヴォルザーク領エチェナグシア】
小屋からテオドールが顔を出していた。
「ついに到着したようだな、ラスティ」
「ああ、ここが……マジで金ピカだな」
「これは美しいが、残酷だな」
なにもかもが金色一色じゃないか。こんなことになっているとは……恐ろしい。
スコルも俺の元へ駆け寄ってきた。
「おはようございます、ラスティさん」
「おはよ、スコル。ここが『エチェナグシア』だ」
「……こんなことって」
酷い有様になっているエチェナグシアを見てスコルは悲しんでいた。
ここはレイナルド伯爵の領地であり、ドヴォルザーク領でもある。だから皇帝である俺がなんとかしないとな。
だが、この状況をディスペルで何とかできるかどうか。
「うぉ、なんだこりゃあ……!」
ようやくハヴァマールもお目覚めのようで、街の姿に呆然となっていた。
よくみれば人間やモンスターの金の像もチラホラ。逃げ遅れた人たちだろうな。
「ハヴァマール、ディスペルで治せるか?」
「うーむむぅ。さすがの余もこれは厳しそうなのだ。魔力がいくつあっても足りんだろうな」
と、険しい表情を浮かべるハヴァマール。だよなぁ。
人間でさえ一人、二人が限界だからな。
街単位なんて、相当な魔力がないと黄金を解除できないだろう。
なにか良い方法はないかと模索していると、ルドミラがボソッとつぶやいた。
「金鉱山ダンジョンしかないかもしれない」
「ルドミラ?」
「ラスティくん。ダンジョン調査はいかがでしょう? なにかヒントが得られるかも」
「そうだな……それしかないかな」
ここから、それほど遠くないようだし探ってみるか。その間にも何か思いつくかもしれないし。
ひとまず、金鉱山ダンジョンを目指すことに――む?




