無人島開発スキルでドラム缶風呂を!
空が闇に染まり始める頃、アルケロンは眠るように足を止めた。
今日はここまでか。
目的地である『エチェナグシア』まであと少しだったらしいが、日が落ちてしまったのなら仕方ない。
夜は危険モンスターも徘徊しているようだし、いちいち相手にするのも面倒だ。
今夜はアルケロンに建てた小屋で一泊だ。
小屋内は良い匂いが漂っていた。スコルがキッチンで料理をしているからだ。いつも以上に気合を入れているようだし、期待大だな。
晩御飯までは各々の自由な時間を過ごす。
小屋の外へ出れば、たいまつの明かりのおかげで視界は良好。さすが俺のスキル(自画自賛)。
更に、そこには俺の作った『ドラム缶風呂』。それに浸かるルドミラとハヴァマールの姿があった。
二つ設置したので、それぞれお湯に浸かって満天の星空を眺めているようだった。……気持ちよさそうだな。
「おや、ラスティくん。覗きですか」
「あー…、いや。お湯加減を聞きにきた」
一応、二人ともバスタオルを巻いているし、ドラム缶の構造のおかげで肩の辺りしか見えていない。てか、ルドミラはそもそも、いつもビキニアーマーだし……普段と変わりない光景だぞ。
「それにしても、ドラム缶風呂というのは初めての経験です。ラスティくん、このような知識があったとは……」
これは素晴らしい湯船であるとルドミラは、目を星のように輝かせていた。
「その昔、アルフレッドに用意してもらったことがあるんだ」
「そうでありましたか……スナイダー卿が」
ふと思い出して設置してみたが、好評を得たな。
ハヴァマールもとろけているじゃないか。
「…………ふぅ。兄上、このドラム缶風呂はヒトをダメにするのだなぁ……」
「そのまま寝るなよ~」
「うむ。ルドミラもいるから大丈夫なのだ」
あとで俺も入ろう。こんな幻想的な星空の下で風呂とか最高だよなぁ。
俺はいったん小屋の中へ戻った。
テーブルの上には美味そうな料理が並べられていた。……おぉ、和風きのこパスタ、ドラゴン肉のステーキ、海鮮スープなどなど。
もうほぼ完成に近そうだ。
「お待たせしちゃってごめんなさい」
「いやいや、全然。スコル、今日は凄いな!」
「えへへ。フルパワーで料理しちゃいました」
スコルは、元から料理スキルが高いが……これはまたレベルアップしたのでは?
驚きと共に、俺の腹が鳴った。ぐぅと情けなく。
「スコルの料理を前にすれば、誰でもこうなる」
「もう少しで出来上がりますから、座ってお待ちください」
「いや、手伝うよ」
「本当ですか。ありがとうございますっ」
どうせヒマだからな。
それに、テオドールの相手となるとボードゲームの『帝』になる。ほとんど負けっぱなしだったので、もうプレイしたくなかった。
そんなテオドールは、本を見ながら帝のシミュレーションをしているようだった。まさか、ガチ勢だったとは……。
――少しして、料理が完成した。
ルドミラとハヴァマールも風呂から上がって来たし、やっと晩飯だ。
それぞれ椅子に座ると、テオドールが仕切り始めた。
「主、願わくはこの晩餐を祝福し、また主の御恵みによりて我らの食せんとする、この賜物を祝し給え。我らの主エストレヤにより願い奉る。アーメン」
一同、ポカンとなった。
いつもそんな祈りを捧げたことあったっけ……。
「テオドール、皆さまがビックリしているでしょう」
ルドミラが軽く注意するが「食前の祈りさ」と当然であると、テオドールは飄々としていた。
「てか、エストレヤって?」
「知らないのか、ラスティ。エストレヤ教を」
「聖央教会の崇めている神様か?」
「そうだ。知らなかったのか……」
「知らなかった」
「おいおい。聖女スコル様がパートナーだというのに」
当然、スコルは知っている様子だった。そうだったのか。
聖央教会に興味がなかったというか、そもそも宗教に関心がないというか。
「まさかテオドールが信者だったとは」
「いや、私は“背教者”だ」
「は? それってつまり、追い出されたか自ら脱退したか……だよな」
「その昔、教えにそむいてしまってね」
アハハと笑うテオドールだが、ちっとも笑えないのでは……!?
一体、なにをしたんだか。
興味は尽きないが、今はスコルの作ってくれた晩御飯を食べる。
さっそくフォークを手にして、俺はパスタに手を伸ばす。
くるくると巻いて、そして口へ運ぶ。
んまぁぁぁ……!




