天国か地獄か
再びアルケロンは動き出す。
ラピス・ラズリ討伐後、ようやくエチェナグシアを目指し始めた。
シベリウスから貰った地図によれば、現在地から半日ほどで到着するようだった。
到着時間まで計算してくれるとは、便利な魔法地図だ。
未知の国アルキメデスも気になったが――今は寄っている場合ではないな。
小屋の中にある椅子に座り、のんびりしているとルドミラが前に座った。なんだか乙女のように桃色の髪に触れて。
「あと半日ですね」
「ああ、さっさと黄金の原因を突き止めねばな」
「……その、申し訳ありません」
突然、謝るルドミラ。意味が解からなかった。
「どうした? 謝罪される覚えはないぞ」
「最近、あまり力を発揮できなくて」
なにか気にしている様子だな。
いったい、どのことを言っているのか見当もつかない。
「というと?」
「……モラヴィアニの時や、先ほどのボスモンスター討伐も不甲斐ないところを見せてばかりで……」
なるほど、そういうことか。
ルドミラは最近、活躍できずに申し訳ないと言いたいわけか。
そんなことはない。
今まで俺をずっと支えてくれている。
おかげで助かっている場面も多くあるし。
そのことを伝えると、ルドミラはホッとしていた。
「というわけだ。別に気にしてはいない」
「よかった。ですが、私の勇者としての力は弱まっているようです。それはエドゥやテオドールも同じようですね」
と、ルドミラはテオドールに視線を送っていた。
「ルドミラの言う通りでね。私も力が衰えているんだ」
「そうだったのか……!」
テオドールでさえ弱体化しているのか。
もしかして、神器エインヘリャルの不老不死が弱まっているのだろうか。
「現在の世界のせいでしょうね」
困ったとルドミラはため息を吐く。そうか、七つの世界がリンクした影響か。
以前に比べると色濃くなっている。
世界は確実におかしな方向へ向かっている。
天国か地獄か――それは解らないが、どちらにせよ止めねば未来はないと俺は思った。
「元に戻すしかなさそうだな」
それしかないと意見が一致していると、テオドールは普段は見せないシリアスな顔を見せて語り始めた。
「ラスティ。私はね、この世界が好きなんだ。数百年以上見守り続けてきた、この世界がね」
「俺もだよ。これ以上、滅茶苦茶にされてたまるか」
「もう家族を失いたくない。魔王ドヴォルザークのような世界にしてはいけない」
「……テオドール」
「私はその昔、大勢の家族を失った。魔物に襲われてね……何度も憎み、倒してきた。しかし、世界はよくならない」
どうやら、昔からいろんな女性と結婚してきたらしい。
子供にも恵まれて幸せな生活を送っていたようだが、いずれも魔物に襲われて失ったという。
やがてテオドールは、独り身に。
孤独に錬金術師の活動をしていると、ついにルドミラとエドゥと会ったようだった。それから勇者パーティに加入したと。
それから世界を救うために立ち上がったようだった。
「俺が変えてやるさ。元通りにしてみせる」
「頼もしいな、ラスティ。だけど、君なら出来てしまえそうだと思える」
「俺の取柄なんてそれくらいさ」
「――ふむ。ラスティ、君になら『神器エインヘリャル』を託してもいいかもしれないな」
「え」
「私はもう十分長生きした。嫁三人とも囲まれてるしな! あの三人と共に人生を楽しもうと思う」
急に表情を変え、そんなことを言い出すテオドール。
「いや、俺は別に不老不死に興味なんて……」
「いいのか? スコル様は生粋のエルフ族。寿命が違うんだぞ。先に逝って泣かせてもいいのか~?」
ニヤッとした表情でテオドールは、詰めてくる。い、痛いところを突いてくる。てか、気にしないようにしてたのに!
でもそうだよなぁ。
エルフは何百年、何千年も生きる長寿と聞くし……人間である俺とは違うよな。
「そ、そりゃ……スコルとは一緒にいたいさ」
「なら、私の神器を受け取れ。死なずに済むぞ。ただし、殴られても斬られても痛い。痛みだけは克服できん」
「そういうものなのか、不老不死って」
「ああ。それに完全な不死でもない。割と死ぬ」
「マジかよ」
「体をバラバラにされたり粉々にされたり……氷漬けにされたり、石化すれば死んだようなものさ。封印という手もあるし」
そりゃそうだけど。
神器エインヘリャルは、あくまで寿命を延ばすものと考えた方が良さそうだな。
興味がないわけではないが、今は保留にしておこう。
「やめとく」
「では、ラスティ。君が消え去った後は、スコル様の相手は私が――」
「ふざけんな!」
「冗談だ」
……やっぱり、神器もらっておこうかな。




