ぷちライトニングボルト習得
ディスペルは発動しなかった。
いや、効かなかった……が、正しいか。
「ハヴァマール。これは……」
「ダメなのだ。やはり、黄金は“特殊”なのだ……」
「マジか」
「けど、諦めるのは早い。兄上の力が必要だ」
「え、俺?」
どういう意味なのか聞くと、ハヴァマールは俺の“雷”がカギだという。ということはスキルか。
サンダーブレイクだとかサンダーボルトだとか、その辺りだろうか。
しかし、それをどうしろと。
「簡単なのだ。例えば、この女の子の場合は頬に電気を浴びせるのだ」
「なにィ!?」
「大丈夫。スキルレベルを調整すれば威力は抑えられる」
「し、しかしだな。それでも危ないと思うが」
「仕方ないのだ。久しぶりに兄上にスキルを与えるのだ」
「マジか」
「その名も『ぷちライトニングボルト』なのだ!」
「ぷちライトニングボルト?」
[ぷちライトニングボルト][Lv.1]
[効果]
このスキルはLv.1しか存在しない。
指先から極小の電気を発生させる。
マッサージにもピッタリ!
「習得完了なのだ!」
「これで治るのか?」
「いいか、兄上。金の電気の伝導率は高いと言われている。兄上の雷神の電気、そして余のディスペルを掛け合わせれば『特殊』といえど解除できるかもしれん」
理屈がよく解からないが、治せる可能性があるということか。
試してみる価値は……あるか。
てか、小さな女の子に向けるのはちょっと気が引けるというか、大丈夫かなぁ……。大怪我させないといいけど。“ぷち”だから大丈夫か?
「あ、汗が凄いですよ、ラスティさん」
「……」
スコルが心配そうに俺の顔を覗き込む。
風属性魔法スキルを最小限に抑えて発動できるか心配だ。
そのことを打ち明けると、スコルは俺の右手を優しく握りしめてくれた。
「大丈夫ですよ。ラスティさんならできます」
「……そ、そうだな。がんばるよ。ありがとう、スコル」
励まれて俺は一歩前へ踏み出すことができた。
やってみよう。
まずは、ハヴァマールのディスペルだが――先ほどの一回で魔力がゼロ。ここからは、スコルの出番だ。
世界聖書のソウルコンバージョンで、今回はスコルの魔力をハヴァマールに供給。これで魔力は回復。
再びディスペルを発動するハヴァマール。このタイミングで俺が威力を最小限に抑えた『ぷちライトニングボルト』を使用。マリナの頬に浴びせた。
『ビリッ!』
と、僅かに電気が流れて……黄金が解除され…………た?
『ポロリ』
黄金が取れた!!
「わぁ、治った! お兄ちゃん、ありがとー!!」
マリナという女の子は涙して喜んでいた。父親も同様に感謝していた。
「ありがとうございます、ありがとうございます!!」
「よ、よかったよ」
上手くいった!
手順こそ面倒だが、俺、ハヴァマール、スコルの力を合わせればなんとかなるな。とはいえ、今のところ一人一人が限界。全員を一気に治すには膨大な時間が必要だな。
「成功だな、兄上!」
「ああ、ハヴァマールとスコルのおかげさ」
「ふふーん。もっと褒めるのだ!」
俺は、ハヴァマールの頭を撫でた。
猫みたいにゴロゴロして可愛い奴め。
スコルにも同様に頭を撫でた。おまけでエドゥの頭も撫でておいた!
「……あ、あぅ。嬉しいです、ラスティさん」
「スコルの魔力供給がなければ、ディスペルは使えなかったからな」
「いえ。でも、わたしの魔力もそれほど高くなくて……」
「そうだな。限度はあるよな」
「はい。あと治せて二人か三人ではないでしょうか」
だよなぁ、上手くいったけどあまりに非効率すぎる。もっと一気に治せればいいのだが……。
しかし、今は“治せる”と解かっただけでもヨシとしよう。
しばらくして、ルドミラとルーシャスが戻ってきた。
ルドミラはこの状況を見て困惑していた。俺は治せることを説明。
「さっきマリナという女の子は治せた」
「さすがラスティくん。しかし、この状況は芳しくないですね」
「このままでは、もっと被害者が増える。その前にエチェナグシアで原因を探る」
「はい。ナハトとテオドールも間もなく合流するでしょう。いよいよ出発ですね」
そう話している間にも、テオドールが帰還。
あとはナハトだけだ。
そろそろ来るはずだが……気配がまるでなかった。……なにかあったのだろうか。心配だな。




