上級監督官、交代に名乗り出る
スコルの世界聖書にある魔力供給スキル『ソウルコンバージョン』を使えば、魔力は問題ない。
ハヴァマールに魔法解除スキル『ディスペル』をしてもらい、黄金を解除。
ディスペルは魔力消費量が膨大だから、供給さえすればこの場の被害者だけでも治せるかもしれない。
俺に出来ることは、魔力をスコルに吸収してもらうくらいか。とはいえ、俺は魔法使い系ではないから……悲しいかな、そこまで魔力が高いわけではないんだよな。
「決めたぞ。ハヴァマールを連れ戻す。エドゥ、お願いできるか?」
「解かりました。ですが、ストレルカさんの負担が増えるので、交代要員がいた方がよろしいでしょう」
「いいこと言うじゃないか、エドゥ」
それもそうだ。さすがにストレルカ一人に任せっきりは可哀想だ。となると――そうだな。代わりに……誰がいいんだ? まるで思いつかないぞ。
今のパーティ、誰かひとりでも欠けるとダメな気がしている。
となると――。
「この僕かな」
男の優し気な声がして振り向くと、そこには友人が爽やかな笑みを浮かべて立っていた。
「シベリウス! お前、いいのか……?」
「上級監督官としての責務は真っ当しているさ。それに今は、スケルツォにドヴォルザーク帝国を任せている。つまり、僕の手は空いているわけさ」
ちゃんと仕事しているのか心配になるが、本人がそういうのならお言葉に甘えよう。
シベリウスとハヴァマールを交代させる。
俺は、エドゥにテレポートで彼を連れていくように指示を出した。
「了解しました。では、上級監督官シベリウス殿を連れて参ります」
「頼んだぞ、エドゥ」
「では、三分程度で戻りますので」
エドゥは、シベリウスのマントを摘まんでテレポート。一瞬で光となり、消え去った。行動が早くて助かるな。
しばらくはレオポルド騎士団で待つことにしよう。今はそれしかできない。
「ハヴァマールさんを連れてくるんですね」
「ああ、ディスペルしかない。スコル、準備が出来次第、頼むぞ」
「は、はいっ。がんばりますっ」
今はひたすら待つ。
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三分後。本当にエドゥとハヴァマールが帰ってきた。
「ただいまなのだ、兄上!」
「おかえり、ハヴァマール」
「シベリウスと交代したのだが、急な要件なのだ?」
「そうだ。事情を説明するとだな――」
俺は黄金のことを、ざっくりハヴァマールに説明。ディスペルをして解除できないか頼んでみた。
するとハヴァマールは腕を組み、難しそうな表情で空を仰いだ。
「ん~、やってみないと解からないのだ」
「妙に自信なさ気だな」
「うむ。ディスペルといえど万能ではない。スキル説明欄にもある通り“一部特殊なスキルは解除・無効化できない場合がある”と書かれておるのだ」
……た、確かに。
黄金が『特殊』だとすれば……解除できないということだ。
ディスペルでも無理なのか。
だけど、諦めるわけにもいかない。
試してダメなら次を考えればいい。
「やれるだけはやろう」
「そうだな、兄上。では、誰かひとり連れてきてくれなのだ」
「おうよ」
んー、そうだな。この場にはざっと百人はいる。この中で選べと言われると……難しいが。
「…………うぅ」
突然、目の前の女の子が倒れた。
その子は頬に黄金が付着していた。
「マリナ! マリナ!!」
その子の父親が必死に声を上げていた。
よし、あの子を助けよう。
「ハヴァマール、まずはディスペルを頼む」
「任せるのだ」
マリナという女の子の元へ向かい、俺は父親に話をした。
「その子を治せるかもしれない」
「本当ですか……!」
「試させてくれないか」
「もちろんです! あ……聖女のスコル様! もしかして、あなたが奇跡を!?」
「いや、違うんだ。治療してくれるのは俺の妹のハヴァマール。この猫耳メイドだ」
「……こ、このメイドが?」
そりゃ見た目は、ちょっと子供だから不安にはなるだろうけどね。
しかし、それよりもスキルが肝心なのである。
ハヴァマールは、マリナに手を伸ばし『ディスペル』を発動。
……どうなる?




