世界聖書に記された黄金の聖女
スターバトマーテル城内のバルコニーにスケルツォの姿があった。
あんなところで街並みを見つめていて、どうしたのやら。
「帰ってきたぞ、スケルツォ」
「おや、ラスティ様。それにスコル様。そして、ルドミラとエドゥ様も」
それぞれに挨拶を交わし、スケルツォは聖母のように微笑んだ。
美しすぎて絵画になるレベルだ。
「知っているとは思うが――」
「ええ、ご存じですよ。“黄金”ですね」
全くもってその通りである。
言われなくとも、スケルツォは理解しているようだった。ここまで噂になっていれば、知らぬ存ぜぬというわけにもいかないよな。
「話が早くて助かる。今、シベリウスに頼みマップを調達してもらっている。エチェナグシアのね」
「エチェナグシアですか。北にある領地ですね」
「レイナルド伯爵に泣きつかれてね」
俺は、島国ラルゴであったことを事細かく説明。スケルツォは直ぐに理解を示し、今度は真剣な眼差しを俺に向けた。
「世界は今、危機的状況にあります。このままでは滅茶苦茶になるでしょう」
「どうすりゃいい」
「原因は『黄金の聖女』で間違いないでしょうね」
「知っていたのか」
「世界聖書に記されていましたから」
「そ、そうだったのか!」
俺、世界聖書の中身をまともに読んだことがないからなぁ……。
アレ、てか。
聖書は“エルフの聖女”しか読めないはずでは?
俺はスケルツォを凝視。すると、気づいたのか「以前、スコル様に翻訳して戴いたのです」とサラリと言った。いつの間にそんなことを。
「じゃあ、スコルは『黄金の聖女』のことを?」
「あ、えっと……その、スキルのアカシックレコードで見ました。でも、わたしにはよく分からなくて」
しょぼんと肩を落とすスコル。そんな気を落とさなくても。
そうか、世界聖書に記されていたとはな。
アカシックレコードで過去・現在・未来が見通せるとはいえ、凄いな。てか、未来を視ればこの世界がどうなっているか解かるんじゃ……?
「ラスティ様。未来は常に変化するもの。そうなるとは限らない」
「俺の心を読むなって、エドゥ」
この大賢者様には敵わんな。
でもそうだよな。
未来なんて誰にも解からない。
「とにもかくにも、エチェナグシアへ調査しに行くしかないでしょうね」
「そうだな。スケルツォ、引き続きドヴォルザーク帝国を頼むよ」
「はい。それがわたくしの使命でございますから」
これで後はシベリウスを待つだけ――お、来たか。
「待たせたな、ラスティ! マップを持ってきたぜ」
「仕事が早いな」
「俺はもともと門番だったからな。こういう雑用はお手の物だぜ」
そこ、威張るところだろうか……?
まあいいや。
シベリウスのおかげで北側のマップを手に入れた。これでエチェナグシアへ向かえるぞ。
……って、このマップおかしいぞ。
「シベリウス、これは……」
「ん――え?」
マップには基本的に魔法が施されているから、世界と同期しているようだ。つまり、世界の状況がそのまま反映される仕組み。
この北限定マップも、北に特化したものだが――とてつもない違和感があった。
第三皇子時代、俺は暇さあれば世界マップを眺めていたから、解かるんだ。
「知らない国があるぞ」
「な、なんだこりゃあ!?」
さすがのシベリウスもマップを見て驚いていた。
やはり、七つの世界が……!




