聖央教会の賢人
もう少し情報収集を進めようとしたが、テオドールが足を止めた。
「ラスティ、私は一度お店の様子を見に行きたい」
ドヴォルザーク帝国に展開しているお店が気になるらしい。
錬金術師のお店だけでなく、鍛冶屋もやっているし、モンスターペットショップも経営しているという。
そうだな、テオドールは“トリプルジョブ”という異質な存在。
気づけば世界中にお店を展開しているようだった。
この帝国でも数店舗はあるようだ。しかも、最近はフランチャイズ展開も始めたのだとか。実はテオドールって凄腕の経営者なんだな。
「解かった。許可する」
「助かるよ。では、また決まったら教えてくれ。連絡はエドゥのテレパシーで頼む」
颯爽と去っていくテオドール。
更に、ナハトも背を向けていた。
「悪いが、俺も街へ行く」
「ナハトも用事か?」
「俺は俺で情報収集だ」
「そうだな、手分けした方がいいかもしれない。頼む」
「ついでにアイファも探す」
「ああ、それが最大の目標だからな」
「……ラスティ。ありがとう」
ナハトも行ってしまったが、問題ないだろう。あとで合流すりゃいいさ。
二人のことは後にしてスケルツォを探さねば。
再び通路を歩いていると、奥から慌ただしく人が走ってきた。その人物はスコルを存在を認めると跪いていた。い、いきなりなんだ?
スコルも困惑していた。
この妙に神々しい衣装の男はいったい……。
「ニルス殿ではありませんか」
キョトンとした表情でルドミラは、その人物の名を口にした。ニルス? やっぱり知らないな。
「ルドミラ、このスコルを勝手に崇めている人物はいったい?」
「彼はニルス・ガーゼ。聖央教会の賢人ですよ」
「な、なんだって!」
そうか。以前会ったギルド『サラマンダー』に所属していたボルトの服装にちょっと似ているな。アイツも聖央教会のプリーストだった。
なるほど、アレグロ枢機卿――いや、シックザールが聖職者どころか、世界を破壊したがっていたヤバイ男だったんだ。
このニルスという男は、教会の存続に危機感を憶えているといったところだろう。だから、聖女であるスコルを……どうする気だ?
「聖女スコル様。我が聖央教会へ来ていただけませんでしょうか」
「え……」
「世界が今、黄金の輝きに満ちようとしております。これは伝説に聞く、聖女の奇跡。スコル様が発動された偉大なる神秘と見受け致しました」
な、なにを言っているんだ……この男。
そんなわけないだろう。
世間で起きている黄金化がスコルの力だとか、そんなの妄言だ。彼女にそんな力はない。俺がずっと隣で見てきているのだからな。
「待ってくれ、ニルス」
「陛下。我が聖央教会は、枢機卿を失い……新たな枢機卿も決まらず混乱状態。もはや、教会の存続危機でございます。なれば、世間的にも評判が良い聖女スコル様を教会のトップに……」
「却下だ」
「……しかしですな。黄金は広まっております。黄金を帝国のものにすれば、一生安泰でしょう」
いやいや、これだけ黄金が広まってしまっているんだ。その価値は自然と暴落中のはず。そのうち文鎮にしかならなくなるだろう。
「スコルは黄金とは無関係だ」
「そ、そうです。ラスティさんの言う通りです。わたしはそんな力ありません」
本人も否定した。
これにはニルスも口を噤んだ。
苦悩を浮かべながらも、次第に泣き崩れた。ちょ、えぇ……。
「終わった。もう聖央教会は……潰れてしまう…………うぅ」
大の男が大泣きしてるよ。
いや、聖央教会が無くなるのはそれはそれで困るんだけどね。
なんとかしてやりたいが、スコルは渡せないね。
「少し考えさせてくれ」
「解かりました、陛下。よろしくお願いします」
もはや、ニルスに生気などなかった。生けるゾンビのような足取りで彼は、のそのそと歩いていく。大丈夫かなあ。
しかしそうか、帝国でもいろいろ問題が起きているんだな。
解決してからエチェナグシアへ向かうことになりそうだ。




