恋する令嬢のひざまくら
ギンヌンガガプでスコル似た少女を見たという。
だから、シオンは初めてスコルを見た時は驚いたのだとか。
「いや、まってくれ。スコルはずっと俺と一緒だ。多分そのギンヌンガガプへ行ったことはないと思う」
「本当ですか?」
俺は気になってキッチンへ向かった。
スコルに聞くと、キョトンとした顔をしていた。
「ギンヌンガガプ……ってなんですか?」
やっぱりな。
この反応はギンヌンガガプを知らない。
するとシオンは「見間違いだったのかなぁ」と困惑していた。
……いや、そうではない。
もしかするとナハトの探し人『黄金の聖女アイファ』なのかもしれない。
俺は以前、寵愛を受けし世界聖書でナハトの過去を見た。
その時、隣にいたのはスコルに激似のアイファだった。
もしかすると、この世界にいるのか――?
「すまん、スコル。なんでもないよ」
「変なラスティさんですねっ」
スコルは再び料理へ向かった。
すでに良い匂いがしている。
これはカレーだろうか。
早く食べたいな。
お腹が空いて倒れそうだ。
しばらくして晩御飯がテーブルに並べられた。
やはり『カレー』だった。
しかも野菜たっぷり。こりゃ美味そうだ――いや、絶対に美味いね。
スプーンを手に取り、俺はさっそくいただく。
「――んまッ!」
「よかった~! 上手くできました」
喜ぶスコル。その隣でストレルカも嬉しそうに微笑んでいた。
「やはり隠し味が効いたようですね」
「ほお~、ストレルカ。カレーに何か入れたんだ?」
「ドヴォルザーク帝国最高峰の赤ワインです」
なるほどねえ、だからこんな深みのある味わいになっていたのか。
美味すぎて手が止まらない。
気づけば俺は完食していた。
「はじめて口にしましたが、凄く美味しい料理でした!」
シオンはカレーを初めて食うらしい。へえ、そんな人もいるんだな。
「それは良かったです。――って、シオンさんってカレーを食べたことなかったんですね!?」
と、スコルも意外そうにしていた。
「はい。ギンヌンガガプにこんな高級料理はありませんでした」
「こ、高級料理ではないですけれどね」
少々困惑スコル。そうだな、カレーは一般家庭でも食べられいる料理。てか、ギンヌンガガプはどうなっているんだ……?
不思議すぎるが、地域の関係なのか――なんなのか。
お皿を片付け、その後はスコル達からお風呂に入っていった。
この時間だけはソワソワしてしまうな……。
「…………」
「どうされましたか、ラスティ様」
床で寝ていると、ストレルカが俺の頬を突いた。見透かされているな。
「……や、休んでいるんだ」
「ふぅん。今、お風呂にはスコルさんが入っていますけれど」
「ッ! そ、それがどうしたんだ」
「これから、わたくしも入ってきます」
「え……」
「洗いっこするんです。ラスティ様もご一緒にいかがですか?」
「――ッッ!?」
まさかのお誘いに、俺は心臓がバクバクしはじめていた。
え、ええッ!?
てか、三人は無理だろう。
お風呂は一応、一人用に設計されているからな。空間的に二人でギリギリだ。
「なんて冗談です。耳赤いですよ?」
「ストレルカのせいじゃないか……」
「では、お詫びにしばらくだけ膝枕を」
ストレルカは、俺の頭を持ち上げてその膝に置いた。
柔らかい感触とぬくもりが後頭部に。
……こ、これは。
「どうして……」
「お疲れでしょうから」
「癒してくれるってことか」
「そうです。スコルさんがお風呂に入っている間がチャンスですし。ほら、普段はあんまりこういうこと出来ませんし」
それもそうだが、ストレルカが膝枕なんて珍しいな。
しかしこれは寝心地が良いな。
このまま瞼を閉じれば――。
「わぁ!?」
と、シオンの声がした。
「……スマン。シオン」
「お二人ってそういう関係なんですか!?」
俺は否定しようとしたがストレルガが先に「はい、そうなんです」と答えてしまった。うぉい!?
あらぬ誤解をだな――いや、嬉しいけど。
「良いな~…。私も恋人欲しいです」
「シオンは付き合っている人とかいないんだ?」
そう聞くと「いないですよ~」と悲しみにくれていた。
こんな美人なのに意外だな。
しばらくしてストレルカとシオンも風呂を済ませた。俺も入って明日に備えた。
――さて、あとは寝て早朝にはコルキスを倒しにいく。




