追放されし黄金の聖女
帝国を追放されし黄金の聖女は、星帝シックザールの暴虐により両親を惨殺され、魔力を奪われた。
いつも笑っていた彼女――アイファが今日だけは涙を流し、その場に崩れていた。
「…………っ」
ライゼフューラー帝国の前。
アイファは全てを思い出した。そして、俺も。
* * * * * *
「――ああ、またか」
瞼を開け、目覚めると先に起きていたスコルが首を傾げた。
「ラスティさん、おはようございます。……どうかしたのですか?」
「いや、ちょっと夢をね」
「もしかして悪夢ですか?」
「そうでもないけどね」
寵愛を受けし世界聖書の影響だろうか。シックザールの封印から脱出してから俺は、毎晩のように夢を見ていた。
不思議なことに毎日だ。
ナハトとアイファの旅の記憶。
それが流れ込んでくるんだ。
「落ち着かせてあげます、ラスティさん」
微笑むスコルは、まるで女神のように俺を抱擁。柔らかい体に包まれ、俺は気持ちが一気に楽なった。
少しして扉をノックする音が。
『お休み中のところ申し訳ございません、ラスティ様』
この声はアルフレッドだ。
俺は直ぐに返事をした。
「入っていいぞ」
「では、失礼して――んぉっ!?」
この状況を見てアルフレッドは固まっていた。
ですよねー…。
スコルが大胆に俺を抱きしめているとか、さすがに気まずい。俺も気まずい……。
「……あわっ! ご、ごめんなさい…………」
顔を真っ赤にするスコルはなぜか謝りながら俺から離れた。恥ずかしかったのだろうか、背を向けてもじもじしていた。……可愛い。
それにしても、アルフレッドがこんな早朝に訪ねてくるなんて珍しい。ということは緊急の案件だな。
「なにかあった?」
「ええ。島国ラルゴは今や多くの住人がおります」
「そうだな。多分、人口三千人は超えている」
「ですが、皆さんお困りのようでして……その、水が出ないと」
「水が?」
「はい。今朝のことです。生活用水の井戸を使おうとした住民が異常に気付いたようです」
その人は、井戸を覗いて驚愕したようだ。
なぜなら、そこには……“なにもなかった”からだ。
つまり、井戸は枯れてしまったんだ。
「おい、マジかよ。そりゃ大問題じゃないか!」
「ですので、ご報告に参った次第です」
「解った。アルフレッドは引き続き情報収集を頼む」
「承りました。――では」
丁寧にお辞儀をして去っていくアルフレッド。その一寸も乱れぬ姿勢に毎度ながら感服するね。さすが俺の執事だよ。
それにしても、水が出ないか……。
水源に何かあったのだろうか。
無人島開発スキルで覗いてみると【水源:異常】とあった。……なんだって?
「なにか解ったのです?」
「いや、正確な情報は。現地へ行くしかない」
「では、わたしも」
「もちろんだ」
準備を進め、部屋の外へ。
廊下でハヴァマールとすれ違った。
「兄上!」
「おう、ハヴァマール。俺とスコルは水源調査に向かう」
「そうなのか! 余はルサルカさんの様子を見に行くのだ」
「そうだったな。これからも仲良くしてやってくれ」
「了解なのだ! ではでは!」
元気よく去っていくハヴァマール。友達がいるのはいいことだ。
城を出ようとするとストレルカが門の前で待機していた。
「ラスティ様。水に関することなら、このわたくしを連れていくべきではありませんか?」
「なんだ、聞いていたのか~」
「大精霊オケアノスを通せば水関係は手に取るように」
そうだったな。水というか海の大精霊オケアノスと契約するストレルカは、とにかく水属性魔法に強い。ならば、彼女はパーティに必須だろう。
「よし、ついてきてくれ」
俺は歓迎した。
ストレルカは太陽のような笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。スコルさんもよろしく」
「はい、ストレルカさん。一緒に調査しましょう!」
今日は俺含め三人で水源を調査する。
まずは街中にある『井戸』を見に行くか。




