大賢者の贈り物
暑い。体が焼けるような……ヒドイ暑さだ。
俺は、アレからどうなった?
ナハトの記憶を見ていたような気がした。
いや、見ていたんだ俺は。
その前はシックザールの“封印”で――ああ、そうだ。俺は封印されたんだ。
ここは天国か? 地獄か? それとも、それ以外の亜空間か。
瞼を開けると、そこは……。
「――がはあああああああああああッ」
激しい攻撃を受け、宙を舞うシックザールの姿があった。
え、これはいったい、どういうことだ……?
ん。よく見ると魔剣ヘルシャフトが。つまりナハトの一撃だったのか!
「ありがとう、ラスティ。おかげで封印が解けたぜ!」
「え、封印が? なぜ?」
「なぜって『寵愛を受けし世界聖書』が助けてくれたからだ」
お前の手元に『聖書』があるだろ? と、ナハトは指さした。視線を落とすと、俺はいつの間にか本を手にしていた。
な、なんで俺が……?
いつ、どこで入手した?
だが、おかげでナハトやテオドール、島国ラルゴの住人達が戻ってきていた。
「うぉ!? なんだここ!! って、ラスティじゃないか」
「テオドール! 詳しい説明は後でする。ラルゴの人たちの避難誘導を頼めるか!」
「……な? ここはラルゴなのか?」
「そうだ。俺たちは封印されていたんだ」
「ふ、封印? そや、ドヴォルザーク帝国で戦っていて――ああ、そうだ。あそこに倒れている男に謎の魔法を……あれが封印か」
「そうだ。俺とナハトで決着をつける! 頼むぞ!」
「了解した。こっちは任せろ」
住人はテオドールに任せた。
彼は即座に錬金術師の力を発揮して、植物を使って住人たちを城へ案内してくれていた。よし、こっちはバッチリだ。
「ナハト、俺と一緒に」
「もちろんだ、ラスティ」
魔剣ヘルシャフトの一撃を喰らい、腹部から血を流すシックザール。ついにダメージを与えた……!
「…………ぐ、ぬぅ」
負傷した腹を抑えながらシックザールは立ち上がり、唇を噛んでいた。
「俺たちを舐めすぎたな」
「おのれ……。なぜ、寵愛を受けし世界聖書がこの世界に存在しているのだ……!」
ありえないと何度も連呼するシックザールは、明らかに不快な表情をしていた。なぜだ、なぜこの聖書だけは嫌がっているんだ……?
それにしても、どこから出現したんだろうな。この聖書。
『それは自分がラスティ様に与えたからです』
森の中に声が響いた。
この少女の声……まさか!
空から何か降ってくる……ああ、まさか!
直後、シックザールの体が吹き飛び木々に激突していた。
「ごふぁぁっ!?」
少女は地面に降り立つと、真っ先に俺の方にきた。
「エドゥ、来ていたのか」
「はい。ハヴァマールさんとストレルカさんをスターバトマーテル城へお送りしましたので。それから異常な気配を島国ラルゴで感知……まさか、シックザールがいたとは」
淡々とした口調でエドゥは答えた。
彼女にとってもシックザールの襲来は想定外だったようだ。
「大賢者エドゥアルト様……」
「ナハト。ここまでよく戦ってくれました。おかげでラスティ様を封印されずに済みました」
「いえ、俺はなにも。アイファの為に全力を尽くしているだけです」
「それでいいのです。それがラスティ様への利にもなっているのですから」
いったい、どういうことなんだか。
エドゥの考えていることはいつも解からん。
俺に聖書を与えたって?
いつそんな“贈り物”をしてくれたんだか。
あとで詳しいことを、じっくり聞かないとな。
話している場合ではないと、俺は動こうとしたが。
「ラスティ!! お前だけは封印してやるッ!」
性懲りもなくシックザールは俺に襲撃してきた。コイツ、また!
だがしかし、エドゥの『ソウルテレキネシス』によって吹き飛ばされていた。
「近づくな」
「ぐおおおおおおおおおおおお!?」
さすが大賢者。エドゥのソウル系スキルは強力すぎて手も足も出ないな。
形勢逆転。
俺、ナハトそしてエドゥ。三人ならヤツを倒せる……!




