赤色閃光の聖書 - プロキシマ・ケンタウリ -
壁をぶち抜いていくシックザールは、森の奥深くへ消えた。
ルドミラの反撃がここまでとは!
「よくやった」
「いえ。シックザールにダメージを与えた程度です……」
「それでも十分さ。ここから先は俺がやる」
「ですが」
「大丈夫だ、ルドミラ。お前はスコルを守ってやってくれ」
「解かりました。では、いったん回復に回ります」
となれば俺の出番だ。
妖刀テレジアを握りしめ、壁の穴を通ってシックザールを追っていく。
今なら僅かな魔力を感知できる。
そうだ。アイツの気配は捉えられないが、戦えば微量な魔力はどうしても流れ出る。それを対策するなんて大賢者でも難しい。
あそこだ……!
「覚悟しろ、シックザール!」
「……ラスティ、貴様。まだ分からんか……!」
「知るか!」
妖刀の一閃を放つ俺。その攻撃をシックザールは『古の王家の白銀盾』で防御する。
さすがに堅いな……!
「この世界を一つにせねば世界は終焉に向かうのだぞ」
「そして、新しい世界に作り変える……それがお前の目的だろうがッ!」
そうだ。この男は自分の、自分だけの理想世界を作りたいだけ。その先に、俺や俺の仲間たち……ドヴォルザーク帝国、グラズノフ共和国、エルフの国ボロディンなどの未来は含まれていない……!
なら、それは間違っている!
「なぜ解からん。解かろうとしない! ナハトもそうだ。この不完全な世界を完璧にする為だぞ。それの何がいけない……!?」
古の王家の白銀盾で俺の妖刀を弾くシックザール。コイツ、剣というよりは盾使いじゃないか――!
「……ぐッ」
「ようやく察したか、ラスティ。そう。私の剣はほとんど飾りだ。本命は盾なのだよ!!」
古の王家の白銀剣を盾に融合させ、その状態で攻撃を繰り返してきて俺は驚いた。
そうか、あれは元々ひとつなのだ。
あれこそがシックザールの本当の戦い方なんだ。
これでは無人島開発スキルで鎖やトラップを仕掛けても防がれるか……。
ならばここで大技を決めるか!
「……シックザール、これでッ!」
「膨大な魔力……ラスティ。お前の力は計り知れんな! あのナハトを上回る存在だ。素晴らしい……素晴らしいが、ここまでだ」
「なにッ!」
シックザールは『赤色閃光の聖書』を取り出していた。ま、まさか……俺を“封印”する気か――!
「魔力がないとは言っていない。お前を封印する……さらばだラスティ!」
聖書の中から赤い閃光が放たれ、更に赤い腕が無数に伸びた。な、なんだこりゃ……!
俺の足や腕に絡みついてきやがった。不気味すぎる!
「このォ!」
「無駄だ。一度ソレに絡めとられれば脱出は不可能。封印されるしかないのだ」
マズい、封印されちまう!!
チクショウ、こんなところで!!
「くそがああああああああああッ!」
「フフフ、アハハハハ……藻掻いても足掻いても無駄だ。お前はもう終わりだ。聖書に封印され、世界の変わる様を見届けているがよい」
体が、アツイ。
ク…………吸い寄せられていく。
魂すらも奪われるような。
ダメだ!!
この世界を渡してなるものかッ!
「…………第六天魔王、」
「貴様! まだ動けるというのか!! ならば全魔力を赤色閃光の聖書に!!」
俺は負けねえ。この男を道連れにしてでも――!




