魔王の生み出した大蛇ミドガルズオルム
世界ギルドを立ち去り、シックザールではなくスケルツォの気配を追う。アイツの魔力なら捉えられる。
「……!」
既に膨大な魔力が漂っていた。これだ。これは間違いなくスケルツォたち。テオドールとナハトも戦っているはず。
「ラスティくん、みなさん戦闘中のようですね」
「ああ、どうやらシックザールと遭遇したのかもしれん」
急いで通路を走っていく。
気配の方向へ向かっていくと、ドヴォルザーク帝国の外壁あたりで巨大な爆雷が上がっていた。
スコルを足を止め、空を仰ぐ。
「あ、あれは……なんですか!?」
「スケルツォの大魔法だな」
アイツは“轟雷の魔女”だからな。本来の力が出せるフィールドなら、たとえシックザールでも苦戦する相手のはず。
走って現場に駆け付けると、外側にある荒野フィールドに大穴が穿たれていた。な、なんて巨大な……!
まるで湖が水を全て失ったような……とんでもないな、こりゃ。
「みなさんの姿がありませんね、ラスティくん」
「そうだな。いったい、どこに――」
微かに残る魔力を追っていくと、スケルツォの姿があった。大穴の前に立っていた。
「来られたのですね、ラスティ様」
「なにがあった……!」
聞き返すと、スケルツォは突然その場に倒れた。俺は彼女が地面に激突する前に支えた。
ん、これは……血!
「おい、スケルツォ!」
「……も、申し訳ございません。ナハトとテオドールさんを“封印”されてしまいました」
「なんだって……!?」
「あの男……シックザールは予想外の行動を――ぐっ」
ウソだろ。スケルツォほどの大魔女が負けた……?
ロイヤルガーディアンだぞ。なのに、なぜ……!
このままでは死んでしまう。スコルに頼み、治療を頼んだ。
「ヒールをします……!」
スコルは腰を下ろし、スケルツォにヒールを施す。
そんな中でもスケルツォは話を続けた。
「き、聞いてください。ラスティ様」
「馬鹿、死ぬぞ」
「この情報を頭に入れてください」
「……解かった。なんだ?」
「シックザールは、トロイメライの完成を急いでいるようです。世界を全て繋げると……そして、作り直すと言っていました」
なんだって……!
それはつまり……!
世界聖書の第七スキル『破壊と再生』の成就ってヤツか。
自分の世界にならないなら、新たに創り直す。それがヤツのやり方なんだ。
必要な人間だけを傍に置き、必要な人材だけを生かす。そんなところだろう。
……認めるかッ!
「ラスティくん、話しはここまでです」
黄金の槌『覚醒アマデウス』を構えるルドミラは、最初から魔力全開だった。……つまり、強敵が――シックザールが現れたのか?
『…………グ、グゥゥゥゥ』
ズンっと張り詰めるような空気に支配され、俺はゾッとした。な、なんだこりゃ……!
邪悪なモンスターみたいな気配だぞ、これは。
大穴から現れたのは……うわ、何だこの巨大なウネウネ……!
這い出てくるウロコのある黒い物体。
ま、まさか、これは……!
「魔王ドヴォルザークのペットの一匹、ミドガルズオルム……! 封印が解けたのか」
と、青ざめるルドミラ。どうやら知っているらしいな。
[ミドガルズオルム]
[詳細]
魔王ドヴォルザークの生み出し大蛇。
世界を飲み込むとされている。
鱗は非常に硬く、通常の剣では歯が立たない。
デッドリーブレスはあらゆる生物を融解させる。
「ルドミラ。このモンスターのことを?」
「はい。存じております。魔王ドヴォルザークの支配が強まったある時代に生み出された最強の大蛇。この場所に封印したのを思い出しました……」
「なんてところに!」
その封印が丁度解けて現れてしまったのかよ。
「当時はこれを倒せる方法がなかった。なので封印したのです」
「そうだったのか。だが、なぜ封印が解けた?」
「この大穴のせいでしょう」
つまり、スケルツォとシックザールの戦いで偶然にも――ってことか。
「申し訳ございません、ラスティ様」
「お前が悪いわけじゃない、スケルツォ。悪いのはシックザールだ」
とにかく、この大蛇を倒さないとドヴォルザーク帝国がめちゃくちゃにされちまうぞ。 さっそく『妖刀テレジア』を構える。
「お待ちを」
「ルドミラ! しかし!」
「ラスティくんは体力の温存を。ここは私が……勇者としてヤツを仕留めねば」
「そうか。解かった! 頼んだぞ!」
猛スピードで走り抜けるルドミラは、黄金の槌『覚醒アマデウス』を軽快に振るう。どうやら、本調子が出てきたようだな。
今のルドミラなら、きっと勝てるはずだ。




