妖刀と魔剣
アレグロ枢機卿――『シックザール』の名は、ドヴォルザーク帝国中に広がった。
枢機卿が生きていること、帝国を陥れようとしていることなど知れ渡ると、民から困惑の声が漏れ始めた。
まさか、聖央教会のあの人が。
シックザールの信者たちも失望しているようだった。それがルドミラからの報告だった。
「――以上です」
あれからナハトの塔から移り、スターバトマーテル城内。その広間。
俺は全員を集めて、シックザールこそが真の悪者であるとみんなに伝えた。
「マジか。ラスティ、彼は枢機卿ではなかったのだな」
信じられんとため息をつくシベリウスは、頭すら痛めていた。そういえば、ケガは治ったようだな。良かった。
「むむ。では、兄上。余らが同盟国に伝えたことは……」
「すまんな、ハヴァマール。悪いんだが、改めて『シックザール』が犯人であると通達して欲しい」
「んなッ! ……仕方ないかぁ。ストレルカと共に行ってくるのだ」
二人にはグラズノフ共和国、エルフの国ボロディンとその他の国々へ行ってもらう。今度はエドゥも連れて行ってもらう。彼女と共にテレポートした方が早いだろう。
「エドゥ。ハヴァマールとストレルカを頼む」
「了解しました。もし必要であれば、このアイテムをお使い下さい」
[アベオの花]
[効果]
名前の書かれた者を最大三名まで召喚する。
この花の効果は一度きり。
使用後は消失する。
「ほう、アベオの花ねえ。白い花とは幻想的だ」
「自分、ハヴァマールさん、ストレルカさんの名前を記入しておきます」
なるほど、そうすれば即座に三人を呼べるわけだ。便利なアイテムがあるものだな。
三人には通達を任せた。
エドゥは、ハヴァマールとストレルカを連れてさっそく飛んでくれた。
そっちは任せたぜ。
「残る俺たちはドヴォルザーク帝国内と周辺を探す。シベリウス、騎士団総出で頼む」
「承り。では、迅速に」
ニカッと白い歯を見せながら爽やかに去っていくシベリウス。こういう時は頼りになるな。
さて、あとはコイツが動いてくれるかどうか。
「スケルツォ」
「もちろん、陛下の要請があれば私も動きましょう。今までは“聖戦”の儀式が終わらなかったので自由に動けなかったのです」
ロイヤルガーディアンとしての行動制限があったらしい。知らなかったぞ、それ。
だが、これで百人力。
なぜなら、ルドミラも今回は共に行動するからだ。
「ルドミラもいいな?」
「はい。ラスティくんとお供でき光栄です!」
万遍の笑みとはこのことか。嬉しそうに笑っているルドミラは、予想外にも可愛かった。いつも美しいと感じるのに、それが乙女のように映るとは。
「スコル、テオドールも頼むぜ」
「わたしも全力でがんばりますっ」
「君の頼みなら断れないよね。嫁には悪いが、今回は一大事だ」
珍しくテオドールも乗り気だ。
きっと、錬金術師のお店を建てたいのだろうな。昨日、頼まれたしな。
無償で動いてもらう気はない。もちろん、がんばったみんなには報酬を渡すつもりだ。
あとは元老院。
テレジアとゲルンスハイム帝領伯にも協力を仰ぎ、シックザールを捜してもらう。
これで直ぐに見つかるだろう。
さっそく行動に移そうとすると「ちょっと待った!」と声が響いた。
「お前は……」
「俺を忘れていないか、ラスティ」
「ナハト。そうだな、お前も一緒だ」
「ありがとう。そして、これを託す……!」
「……え?」
これは『妖刀テレジア』じゃないか……! つか、刀になっていたのかよ。
[妖刀テレジア]
[詳細]
ドヴォルザーク帝国の元老院議長テレジアが『刀』になった姿。
一撃必殺スキル[第六天魔王煉獄殺]を発動可能。
物理・魔法攻撃力 + 6666666。
スキルには三分間のクールタイムが存在する。
「そこで本人に渡してくれって言われてな」
「なぜ自分で出てこない?」
「さあ、なんだか今回の事件で責任を感じているそうだ」
それで恥ずかしがって刀のままなのか。可愛いところあるな、テレジア。だが、この刀なら負ける気はしない。彼女は“最強”だからな。
――にしても、これで『妖刀』と『魔剣』が揃ったな。




