寵愛を受けし世界聖書 - オムニア・ウィンキト・アモル -
いったんナハトの家というか塔の中へ。
俺はシックザールについて詳しく聞いた。
「ヤツのことを教えてくれ」
「……そうだな。こちらのことを話していなかったし、いい機会だから全部話そう」
椅子に腰かけ、俺とスコルはナハトに視線を送る。
少ししてナハトは語り始めた。
別の異世界のことを――。
彼の体験談によれば、もともと小さな村でキコリをしていたようだった。十五歳になって、父親の勧めで冒険者に。
ギルドに登録し、パーティに加入。
しかし、入ったパーティが最悪だったらしい。
雑用をさせられ、荷物持ちの毎日。
最終的に無能の烙印を押されて『追放』を受けた。
パーティと別れた後に能力が覚醒。
金の宝箱を生成する『トレジャーハンド』を身につけたということだった。
その時に魔剣ヘルシャフトを入手。防具も全てSSS級で固めたという。更に不思議なことに金の宝箱から『聖女』が現れた。
それが“黄金の聖女アイファ”ということだ。
「宝箱の中から人が……!?」
俺は驚く。そんなことがあるのか……。
「そうだ、ラスティ。アイファは俺の能力で出現した少女。それから長い旅を共にし、世界の果てにある巨大塔トロイメライに到着した」
道中で寄ったシックザールを倒すためにと、ナハトは悔しそうにしていた。
どうやら、シックザールはアイファをしつこく狙い、最終的にナハトの父親を殺したらしい。その恨みを果たすためにトロイメライを目指したようだった。
なんてこった……そんなことがあったとは。
だが、巨大塔トロイメライでシックザールは白銀の世界聖書を発動。この世界にやってきた。
その時、アイファをさらわれたようだが。
「あの、アレグロ枢機卿――いえ、シックザールはどうしてアイファさんをさらったのでしょう……?」
スコルは恐る恐るナハトに聞いた。
「この世界に来る為だろう。アイファは特殊な転移スキルを所持していたからね」
「そうなのですね」
「ああ。恐らく、力をかすめとってこの世界に来たのだろう。そして、七つある世界を一つにする為に世界聖書を集めている」
そういえば、シックザールはそんなことを言っていたな。共和政にするだとか、そんなことを。
余計なお世話すぎるぜ。
この世界にはこの世界の秩序と安定がある。
ようやく魔王を倒し、様々な敵を排除したというのにな。
「シックザールはこれからどう行動すると思う?」
「良い質問だな、ラスティ。ヤツはきっと俺の世界と同じで巨大塔を作るだろう」
「トロイメライか」
「そうだ。多分、巨大塔を作ることで七つの世界をリンクさせるのではないかと思う」
「どういうことだ?」
「俺は一度だけ『寵愛を受けし世界聖書』という聖書に触れたことがある」
寵愛を受けし世界聖書……なんだか、とんでもない名前の聖書だな。
彼の世界にあるダンジョンで大ピンチ陥った時に、最後の力を振り絞って生成した『金の宝箱』。それをアイファが開けると、その聖書が入っていたという。
「それを読んだわけか」
「いや、触れただけだ。管理はアイファに任せていたからな」
「ふむ……」
どうやら、本当に聖書もいくつか存在するらしい。いつからバラバラになっていたんだ? てか、もともとはひとつだったのかも怪しいが。世界が七つであるように聖書も七つセットなのだろうか。
くそう、集めるのが面倒だな。
きっとこのままでは悪さにしか使われない。特にシックザール。ヤツは確実だ。
スコルの持つ世界聖書だって欲していたはずだ。
ひとまず、ある程度は理解できた。
そろそろルドミラの報告があるはず。……お、帰ってきたかな?




