ゴールドダンジョンの真実
まさか、こんな古典的な手に引っ掛かるとはな。
「ラスティ。シックザールはこの大穴に落ちたのか……?」
俺の元へ駆け寄ってくるナハトは、激しい動きをしていたせいか汗を垂らしながら深淵を覗く。
「そうだ。これは俺のスキルで設置した穴だ。特別だから深いぞ」
「……なるほど。お前というヤツは恐ろしいな。だが、シックザールはすぐに戻ってくるぞ」
「ああ。この程度でやられないとは思っているさ」
これはあくまで時間稼ぎ。
スコルを守る為のな。
――さて、そろそろ戻ってくる頃合いだろうか。
深淵の中から気配が猛スピードで上がってきていた。この魔力は、シックザールで間違いない。
穴から現れた影は、銀の渦を纏い出現。
「くだらぬ技を!」
「時間は稼げたさ。――いくぜ!」
俺は『鉄』を消費。今度は“釘の雨”を降らせた。これも物理攻撃なのでディスペルで無効化はできない。
「おのれ、面倒なスキルだ!」
白銀の世界聖書を発動させ、スキルを発動させるシックザール。突風が巻き起こり、俺の釘の雨を吹き飛ばした。……そんな魔法スキルも使えるのか。
「この程度なら吹き飛ばすだけで十分だ」
「――隙あり!!」
いつの間にかシックザールの背後を取っていたナハト。マジか! 一瞬すぎて何も見えなかったぞ。
「くッ! ナハト!」
「以前の俺と思ったか、シックザール! あれから更に『金の宝箱』を開封しまくって、装備を強化したんだ――!」
そうか!
だから、あの塔にはゴールドダンジョンが存在し『金の宝箱』が無数に設置されていたんだ。
ナハトはこの戦いを想定し、ずっと備えていたんだ。全てではないが謎は解けた。
「ぐッ」
ギリギリのところで回避するシックザール。頬を僅かに刃が掠めていた。おぉ!
「チィ。惜しかった!」
「まさかこの私に傷を……!」
ナハトは更に連続して攻撃を仕掛けていく。
俺も鉄を消費して即席の剣を生成。鍛冶スキルを持っているわけではないので、かなり不格好だか……ダメージくらいなら与えられるさ!
接近して、シックザールを挟み撃ちにした。
これなら!!
「ナイスだ、ラスティ!」
「ナハト、同時攻撃だ!」
ナハトの魔剣ヘルシャフト。そして、俺の鉄の剣が同時にシックザールに。
これならヤツは逃げられないだろう!
大きなダメージを負うことは必至。
全力で振りかぶると――。
突然、まばゆい光に包まれ視界を奪われた。――く、うああああああッ!?
「白銀の陽光!」
くそ! なにも見えねえ!
シックザールの野郎、逃げる気か……!
しばらくして視界が戻ると、そこにはシックザールの姿はなかった。
「くそっ、逃げられたか!」
地面に魔剣を突き立てるナハトは、悔しそうに唇を噛んでいた。という俺も、まさか逃げられるとは思わず困惑するしかなかった。
あの男、引き際を弁えているというか……単に命が惜しかったのか。
だが、人数さえいれば勝てる可能性があると分かった。
直後、ルドミラたちが到着。
「ラスティくん!!」
「ルドミラ、こっちは平気だ」
「聞きましたよ。アレグロ枢機卿が生きていたと!」
「そうだ。あの男が全ての元凶だ。そして、ナハトの追い求めている人がそこにいるはずだ」
「……そうでしたか。で、ヤツは?」
「逃げた。逃走されるとは想定外だ」
「なるほど、では直ぐにレオポルド騎士団にこのことを説明しておきましょう。彼らも動いてくれるはず。元騎士団長の顔パスで何とかなるはずですから」
「解かった。ちなみにアレグロ枢機卿の本当の名はシックザールだ」
「理解しました。それでは」
と、元気な笑顔を見せるルドミラは、さっそくと騎士団へ向かっていった。よし、これでシックザールを見つけやすいぞ。
世界ギルドにも協力してもらおう。




