白銀の世界聖書 - アルゲントゥム -
魔剣ヘルシャフトをナハトに返し、俺は即座に『+10覚醒ヴェラチュール』を武器召喚。
アレグロ枢機卿は不敵に笑いつつも、ゆっくりと歩いてくる。
「陛下……いや、ラスティよ。お前は本気で皇帝として帝国を守る気か?」
「何を今更。まあ最初は気乗りしなかったさ。でも聖戦で決まった以上は、最後まで責任を持つ」
そうだ。かつて無人島だった『島国ラルゴ』も、そして生まれ故郷であるドヴォルザーク帝国も――全部、俺が守る。
「そうか。お前も支配を望むか」
「違う! 俺が望むのは自由だ」
「果たして現状が自由と呼べるかな。元元老院議長マルクスが言っていたように、共和政にすべきなのだよ」
「もしかしてお前が吹き込んだのか!」
「そうとも。我が世界も、この世界も全て共和政にすべきなのだ。民が選び、独裁を避けて権力者を選定する。私は何も間違ったことは言っていない」
そのままの意味なら問題ないだろう。だが、コイツ等は明らかに“暴力”に訴えていた。マルクスは『古代魔導兵器インドラ』を使ったんだぞ……!
それのどこが共和政なのか!
結局は恐怖で支配して、従わせているだけじゃないか!
そして多分だけど、ナハトも俺の意見と同じはず。
「ふざけるな、シックザール! なにが共和政だ! 貴様は俺の世界を散々かき乱し、巨大塔トロイメライを建造し……世界を我が物にしていたじゃないかッ!」
と、ナハトは語気を強めて言った。
やはり、別の世界では悲惨なことになっていたんじゃないか。
「ああ、そうとも。あの世界は私のモノになった。だから、次の世界に移った……! いや、世界はもともとは“ひとつ”だったのだ。それを世界聖書で再びひとつに纏めようというのだ! 何が悪い!」
なんだって……世界がひとつだった?
もしかしたら、ナハトがここに来れたのも偶然ではないのかもしれない。そういえば、さっきスコルが世界聖書のアカシックレコードで過去・現在・未来を読み取っていたな。
そうか、その謎が解けたんだな!
あとで教えて貰わねば。
「枢機卿、お前が何を企んでいるのか知らんが……俺は今の時代が好きなんだ。好き勝手はさせないぞ」
「ほう? ラスティ、お前はこんな不完全な世界でいいのか!? 魔物が無限に出現しつづけるこんな危険な世界でいいのか!?」
「勝手に決めつけるな。もういい、お前を倒すだけだ! アレグロ枢機卿――いや、シックザール!」
俺はその場で+10覚醒ヴェラチュールを投げつけて、風属性魔法スキル『サンダーボルト』を放った。
光の速さでぶっ飛ぶ槍は、シックザールの胸を貫通しそうになったが回避された。しかし、その直後にサンダーボルトが嵐のごとく走った。
「やるな、ラスティ! だが、我が『白銀の世界聖書』の前では、その程度のスキルは無効化されるのだよ。――ディスペルッ!」
[ディスペル]
[効果]
あらゆる魔法スキルを解除・無効化する。
1回の使用で膨大な魔力を消費する。
一部特殊なスキルは解除・無効化できない場合がある。
くそッ! ディスペルかよ!
俺のサンダーボルトが弾け飛び、無となった。
ということは、魔法スキルは使えないってことか……!
「ラスティ! ジックザールは、あの白銀の世界聖書でディスペルやら厄介なスキルを使ってくる。俺はそれで敗北した」
なるほどね。SSS級魔剣持ちのナハトが負けるわけだ。
まさか元枢機卿が“世界聖書”を所持しているとも思いもしなかったが。多分、リザレクションの力も、あの本を頼っているに違いない。
くそう、面倒な野郎だ。
「じゃあ、物理攻撃でいくしかないよな!」
「なにも分かっておらんな、ラスティ!」
「なに?」
「精々がんばってみるがいいさ」
コイツ! いいさ、俺は接近戦もそれなりに出来るんだからな。
「まて、ラスティ。ここは俺がいく。お前はその間に対策を考えてくれ!」
「ナハト……解かった!」
そうだな。ナハトに動いてもらい、シックザールのスキルを見極めてからでも遅くはないな。スコルもいるんだ、慎重にいかねば。




