黄金の聖書
「――というわけだ」
ナハトに得られた情報を話すと、彼は震えていた。
涙を堪えているようにも見えた。
「黄金の聖女アイファ……やはり、この世界にいたんだな」
「教えてくれ、ナハト。アイファとは君の大切な人なんだよな?」
「そうだ。彼女は俺の『トレジャーハンド』のスキル、金の宝箱から現れた聖女。長い旅を共にし、そして最果ての塔で……彼女を失くした」
どうやら、ナハトは別の世界で聖女アイファと共に冒険を繰り広げていたようだな。だが、なにかしらのトラブルに巻き込まれてアイファを見失ったと。
「どうやって来た?」
「俺の世界にも世界聖書が存在したんだ。あの聖書を通して来たんだ。もっとも、こちらの聖書は……聖書と呼べる代物ではなかったがな」
あれは趣味の悪い『黄金の聖書』だと、ナハトは溜息交じりに笑う。
黄金の聖書か。
名称だけなら立派に思えるが、内容がヒドイってことかな。
少なくとも、ナハトをこっちの世界に飛ばすほどの力があるってことのようだが。
「聞いたことがあります」
沈黙を保っていたストレルカが口を開く。
「なにをだ?」
「ラスティ様。聖書には“七つの種類”があると」
「なんだって……!?」
七つもあんなモンがあるのかよ。
この世界で確認できているのは『世界聖書』と『新約・世界聖書』の二冊のみ。
どちらも、ドヴォルザーク帝国が管理しているものだ。
だが、それ以外だって……?
あんな強力な力を持つ本がまだあるというのか。
「そ、そういえば……アレグロ枢機卿から教えてもらったことがあるんです」
ぽつりとつぶやくスコル。
そうか、スコルは聖女だから何かしらの情報を持っているのか。
「世界聖書のことか?」
「はい。確かに七冊存在します。それは枢機卿がおっしゃっていましたから……聖魔大戦がどうとか……」
聖魔大戦。
伝説の物語だ。槍の王のお話だが……御伽噺ではなかったのか。
「聖魔大戦だと……! この世界にも聖魔大戦があったのか!」
声を荒げるナハトは、スコルに詰め寄っていたので俺が割って阻止した。
「やめろ、ナハト。怖がっているだろ」
「……っ! すまない。だが、聖魔大戦はこちらで起きた大戦争だぞ!」
「なに?」
「なぜこっちで大戦のことが知られているんだ……」
それは俺にも分からん。てっきりアレは作り話と思っていたんだがな。……そういえば世界聖書には、アカシックレコードという能力がある。
過去・現在・未来を閲覧できるという究極のスキル。
なにか関係あるのかもしれないな。
というか、あのスキルを使えばいいじゃないか!
俺はスコルに耳打ちした。
「スコル、世界聖書のアカシックレコードを使ってみないか? 魔力はあるだろ?」
「……は、はぃ。問題ありません」
妙に顔を赤くするスコルは、妙に嬉しそうだった。なぜ!?
「よし、やってみよう」
うなずくスコル。ナハトのもとへ向かい、声を掛けた。
「あの……ナハトさん」
「……」
「その、わたし力になれるかもしれません」
「え……」
「アカシックレコードを使ってみます」
「アカシックレコード?」
「もしかしたら、聖魔大戦とかナハトさんやアイファさんのことも読み取れるかもしれません」
「本当か!」
「やってみます」
世界聖書を召喚するスコル。膨大な魔力が流れはじめ、ページが捲れていく。これで“答え”が見つかるといいが――。




