新約・世界聖書の効果
スターバトマーテル城を飛び出し、無駄に段数の多い階段を降りていく。
下まで降りてそのまま元老院へ。
走って建物まで向かうと、その瞬間には人間が吹っ飛んできた。それは建物の塀に激突。衝撃で破壊された瓦礫に埋もれた。
「…………」
お、おい……いったい、誰が吹っ飛んできた……?
「あ、兄上! 今吹っ飛んできたのはルドミラなのだ!」
「なに!?」
急いで瓦礫を取り除くと、そこには負傷して倒れているルドミラの姿があった。な……ウソだろう。ルドミラがやれるなんて。
「ラスティさん。ルドミラさんを治癒します!」
「解かった。頼むぞ、スコル!」
「はいっ」
急いでヒールを施してくれるスコル。黄緑色のオーラがルドミラを包み、そして傷を癒した。……よし、これで傷は癒えた。
しかし、気を失っているのか意識を取り戻す気配はなかった。
「スコルとハヴァマールはここでルドミラを診ててくれ」
「解かりました!」
「了解なのだ」
俺はゲイルチュールを召喚して構えながら元老院へ向かった。
いったい、中で何が起きているんだ……?
それに、ナハトはどうした?
建物内に入ると異様な気配を感じた。
なんだ、この異常な魔力。
会議室へ入ると、そこにはナハトを踏みつけるモラヴィアニの姿があった。なぜ……いや、やっぱりこの女が!
「モラヴィアニ議員、これはどういうことだ!」
「……来られましたね、陛下」
冷徹に微笑むモラヴィアニは、ナハトの背中をグリグリと踏みつける。しかも彼だけでない、テレジアとゲルンスハイム帝領伯も床に伏せていた。どちらも意識がなさそうだ。
この女!
「ルドミラを吹っ飛ばしたのはお前か!」
「ええ、そうです。私がやりました。世界聖書の第七スキル『破壊と再生』を成就する為に……!」
そうか、コイツがクラウスとディミトリーを焚きつけていた真犯人。恐らく、マルクスとも関係が深いと見た。
でなければドヴォルザーク帝国を陥れるような真似をするはずがない。
「クラウスとディミトリーは……」
「そうですよ、陛下。あの二人は私の操り人形です。もちろん、元・元老院議長マルクスの思想を強く受けていますけれどね」
「そうかよ。なら、お前を倒せば今度こそ解決ってわけだ」
地面を蹴って俺は接近していくが、モラヴィアニはナハトを強く踏みつける。
「…………ッ!! か、構わん。ラスティ! 俺に構うな! アイファを助ける為なら……命など惜しくないッ!」
意識を取り戻していたのか、ナハトはそんな風に叫んだ。……バカ野郎。命を粗末にするな。お前を待っている人がいるなら尚更だ。
「うるさいハエですねえ!」
何度もナハトの背中を踏みつけるモラヴィアニ。美人議員の面影はなく、ただただ邪悪だった。コイツは人間じゃない……悪魔だ!
「……ぐっ、あぁ!」
痛みと苦しみに悶えるナハト。
「この程度で私に歯向かうとは片腹痛い!」
「やめろ、モラヴィアニ!」
「やめませんよ。騎士団長もたいしたことはなかったし……陛下、あなたもきっとゴミでしょうね!」
モラヴィアニがどんなスキルを使うか知らんが、ルドミラを吹き飛ばすほどだ。油断はできんな。
「お前を倒す!」
「陛下、あなたを倒せば……ドヴォルザーク帝国は私のもの! ここで死んでください!!」
本を取り出すモラヴィアニ。ま、まさか……あれが『新約・世界聖書』か! ナハトの言う通り、本当にモラヴィアニが所持していたんだ。
[新約・世界聖書]
[効果]
ドヴォルザーク帝国の『法律』を記す書。
三つのスキルを使用可能である。
①法律作成
新たな法律を作る。
作成は元老院の[議長][議員]に限る。
投票を経て賛成多数で可決される。
ドヴォルザーク帝国のみ対象。
この法律は、皇帝の場合は例外なく免責される。
法律作成は、皇帝に拒否権がある。
②六法全書
法律作成で作った法律をリストに加え、管理する。追加・削除が可能となる。このスキルの使用権限は[皇帝]と[議長]のみ。
③ジャッジメント
犯罪者を裁判なしで裁く魔法。
非常に強力な光属性魔法攻撃を行う。
対象が法律に違反している場合、威力を10倍にする。悪質な場合は20倍。重犯罪は30倍。死刑相当は[死刑判決]を与え、即死させる。
こ、これが新約・世界聖書の効果……!




