新聖女スキル『ホーリーアーク』
凶悪な目つきを俺たちに向けるサーベルウルフ。
数はざっと10体ってところだろうか。
なかなかに多い。俺が腕をまくって出ようとするとスコルが前へ出た。
「たまには役に立ちたいんです。いいですか?」
「解かったよ。無茶はするな」
「はいっ!」
率先して戦いたいと申し出るなんて珍しい。ここはスコルの気持ちを尊重し、任せよう。俺はエドゥにも手を出すなと指示を出した。
「だ、大丈夫なのですか……聖女様ひとりで」
心配な表情でドルコス男爵は見つめていた。てか、足元ガクガクと震えてるな。そんなに怖いのなら小屋で待機していて欲しいのだが、戦況が気になるのだろう。
俺はとくに注意はしなかった。
視線をスコルに定める。
ヨダレを流し、お前を食い殺してやる――みたいな恐ろしい目つきのサーベルウルフ。おっかないな……。
『ガルルルルゥ……!』
そんな威嚇にスコルは、足が竦んでいた。
でも、大丈夫だ。
やると言った以上は、最後までやり遂げてくれるはず。
そうでなくとも、最終的には俺が守るけどさ。
やがて、サーベルウルフ複数体はスコルに襲い掛かった。
「ホーリーアーク!!」
お、これはスコルの得意とする聖属性魔法スキルか!
――って、アレ。
いつもの『ホーリークロス』ではない……?
もしかして、新しいスキルを習得していたのか!
その『ホーリーアーク』は、巨大な十字を作り出して範囲攻撃をした。とんでもない範囲だぞ、これは。
一撃でサーベルウルフ10体を浄化してしまった。
ちょうど日が沈みかけて逢魔時。空は闇夜に染まる寸前だった。だから、スコルの放ったホーリーアークは強烈な閃光となり、綺麗な花火のような光を分散させた。
てか、凄まじい威力だな、これ。
[ホーリーアーク][Lv.Max]
[魔法スキル]
[効果]
聖女専用スキル。
範囲攻撃による聖属性魔法。
非常に強力な一撃を与え、浄化する。
「スコル、お疲れ! 新しいスキルを覚えていたんだな!」
「そうなんです。ちょっとレベルアップしまして……えへへ」
照れくさそうにするスコルは、けれども嬉しそうに微笑んだ。その笑顔があまりに可愛くて、俺は胸がドキドキした。
……こ、これは。
「…………」
しかし、エドゥがジ~っと見つめてきた。そんな見つめられても……!? ま、まさか妬いてる?
エドゥは表情の変化に乏しいんだから、そんな目で抗議されてもなぁ!
それとも、あの稀に見せるキャピキャピモードになってくれればね。
◆
サーベルウルフの討伐は完了。
少しばかりアイテムも入手し、アイテムボックスへ収めた。あとで帝国へ戻ったら売却だな。
小屋へ戻ってスコルがご飯を作ってくれた。
煮込み料理だ。
タマネギ、ニンジン、ドラゴン肉、カブ、キャベツなどなど野菜たっぷりの料理。これは良い匂いで美味そうだぁ。
「はい、どうぞ~」
お皿を受け取り、スプーンを使って野菜を一口。ん~、味がしみ込んでいて美味いな。肉もホロホロで口の中で溶けるようだ。
やはり、料理スキルを磨いただけあってスコルの作る飯は最高だな!
「……こ、これは! 宮廷料理並みの味ではありませんか!」
ドルコス男爵も、久しぶりに食べるらしいマトモな料理に驚嘆していた。そうだろう、そうだろう。
マズいとか言ったら俺がぶっ飛ばすところだ。
「そ、そんな。わたしの料理なんて……」
「ご謙遜を。聖女様が料理が得意とは驚きました」
そのまま料理をかっこむドルコス男爵。腹減ってたんだな。
その隣で静かにポトフを味わうエドゥ。普段から口数が少ないからな、コイツはこれでいい。
美味すぎる料理を堪能したのち、少し眠くなってきた。
少し横になっているとスコルが俺の体を擦った。
「あ、あのぅ……」
「ん? スコル、どうした」
「体を清めに川へ行ってきます。み、見ないでくださいね」
恥ずかしそうに風呂へ行くと告白するスコル。そ、そうか。こんな野宿の旅では風呂なんてないからな。俺の無人島開発スキルで作ってやりたいが、この小屋の材料でほとんどを消費してしまった。
木材に戻せば作れないこともないが、ドルコス男爵とエドゥに悪い。
「解かった。気をつけてな」
「ありがとうございます」
小屋の扉を開け、外へ向かうスコル。近くの川で水浴びをするのだろう。
心配だが、大丈夫さ。新しいスキルも覚えていたし。あのスキルならボスモンスターもワンパンだ。
「ラスティ様、自分もお風呂へ」
「構わないよ。スコルを守ってやってくれ――って、ここで脱ぐな!?」
ハラリと落ちていくエドゥの服。下着姿になっていた。
「ダメ、ですか?」
「ダ、ダメだ。外で脱ぎなさい」
「そうですか。覗きは禁止ですよ」
……その場で脱いでおいて、なんの警告だよ、それは?
って、下着姿のままで外出してるし!
エドゥめ……やれやれ。
この賢者の服は畳んでおいてやるか。
少しすると、小屋の外から声が聞こえた。スコルとエドゥがなにか話しているらしい。
『――エドゥさん、お肌キレイです……』
『スコル様も女神様ようにお美しい。おっぱいが大きくて羨ましい』
ブッ!?
な、な、なにを話しているんだよ、エドゥよ!
けれど、こ、ここまで声が鮮明に聞こえるとは想定外。このまま耳を澄ませてみるかな。
『あぅ……! エ、エドゥさん。どどど、どこを触って……!』
『……げへへ。スコル様、かわいいー☆』
うぉい! エドゥのヤツ、こんな時にキャピキャピモードじゃないか! なにしてんだよ! 変態オヤジかよ!
助けに行こうにも、向こうは裸のはず。
くそう、無理だ!
どうすりゃいい~~~~~~!?




