金の宝箱を召喚する最強スキル『トレジャーハンド』
通路を歩いていると、いつもの美しい黒いドレスに身を包むスケルツォの姿があった。丁度いいな。
「ラスティ様とスコル様。それにエドゥ様も」
ひとりひとりに丁寧に挨拶をするスケルツォは、落ち着きのある態度で俺の元へ。
「話がある、スケルツォ」
「ええ、耳に入っております。クラウス議員とディミトリー議員が共謀し、アレグロ枢機卿を暗殺。今度は島国ラルゴ周辺に『偽者』が現れたとか」
そうか、既に知っていたか。
おそらく、モラヴィアニ議員あたりが情報を共有してくれたってところだろうか。
ならば話が早い。
「これから偽者議員の世界規模の討伐を実施する」
「それしかないでしょうね。わたくしも出来る限り協力したいです」
珍しく表情を暗くするスケルツォ。普段は凛としているコイツがこんなに顔を曇らせるなんて……。
「やはり、枢機卿か」
「はい。アレグロ枢機卿は、ドヴォルザーク帝国の為に敬虔な祈りで献身的にその身を捧げてきました。そんな彼が暗殺など……」
ギリッと音が聞こえるくらい歯を噛む。
そうだな。彼はドヴォルザーク帝国『聖央教会』の枢機卿で、多くの人々を導いていたと聞く。
先ほど街中を通ってきたが、悲しみに暮れている人々もいた。
「事は重大だ。スケルツォ、頼んだぞ」
「全身全霊をかけて」
胸に手をあて頭を下げるスケルツォは、闘志を燃やしていた。いいぞ、その意気だ。
◆
――そういえば、元第一皇子、第二皇子……つまり、バカ兄貴たちがやらかした違法建築というか、適当な仕事のせいでドヴォルザーク帝国の建物は今にも崩壊寸前なのだ。人々の住む家は『危険』な状態である。
そっちの方もなんとかしなければならない。
そうだ、木材が不足していて……だから俺は樵であるナハトを頼りにいったんだっけな。
きっとルドミラが彼を見てくれているはず。そろそろ様子を見に行くか。どのみち、上級監督官のシベリウスは不在だからな。
どこへ行ったのやら。
「行こうか、スコル」
「はいっ」
スコルと共にスターバトマーテル城を後にする。
そのままナハトの住む“塔”を目指す。
また到着して早々に魔剣ヘルシャフトで襲われないといいけど……。
塔に到着すると、片手斧で薪を割るナハトの姿があった。どうやら、元気になったようだな。
こちらに気配に気づくと警戒感を露わにしていた。
俺をそんな危険動物みたいな目で見ないで欲しいね。
対してスコルには妙に優しい視線を流していたように見える。おい、俺のスコルをそんな目で見るんじゃねえ。
「…………ラスティ・ヴァーミリオン」
「久しぶりだな。ナハト・クライノート」
「!!」
フルネームで呼ぶと、ナハトは一気に後退して片手斧を構えた。
「なんだ、名前くらいで」
「どこで知った……?」
「ん、大賢者のエドゥアルトから」
「……ッ。エドゥ様では仕方ない」
「やっぱり知り合いか」
エドゥは『彼はこの世界の住人ではありませんから』と言っていた。その意味が分からなかった。
でも、今ならなんとなく……。
コイツが何者か分かるような気がする。
先ほどのスコルを見る目。あれは……まるで。
「ならば俺の本当の力を見せてやる」
「な、なにを……!?」
ナハトは急に左手を伸ばし、掌を翳す。
刹那で巨大な魔力を込め、その場に“箱”を召喚した。こ、これは……ゴールドダンジョンにあった『金の宝箱』じゃないか!
あの時は厳重にロックされていて開封は不可能だった。
まさか!
「俺の特殊能力は『宝箱』の生成能力。中身からSSS級のアイテムを取り出し、自由に使えるのさ」
な、なんだその便利すぎるスキル!
見たことも聞いたこともない。まるで俺の『無人島開発スキル』のような万能さじゃないか……!
ナハトは重苦しい口調でそれが『トレジャーハンド』という力であることを示した。
[トレジャーハンド]
[??????スキル]
このスキルは『ナハト・クライノート』専用スキルである。スキルの売却・譲渡は一切できない。
左手を向けると【金の宝箱】を召喚する。
この中身は全てSSS級アイテムであり、確定で入手できる。
宝箱は最大100個まで召喚できる。
スキル使用時、大量の魔力を消費する。
「こ、これがお前のスキル……」
「そうだ。この金の宝箱の中から武器を取り出し、もう一度お前と戦う」
自動的に“カチャリ”と宝箱の蓋が開いた。ナハトは、その中から『フランベルジュ』らしき剣を取り出した。
あの波打つ刀身は間違いないだろう。
[+10アークフランベルジュ]
[攻撃力:139000]
[効果]
武器ランク:SSS級
アークドラゴンの牙を合成した両手剣。
対象を高確率で『致命傷』する。
装備者の剣術スキルが最高値の場合、攻撃力が追加で100%上昇。更に追加で二回攻撃となる。
な、なんて剣を取り出しやがった。こんなの卑怯だろう! ――とは言っていられないな。ええい、この決闘受けるしかない。勝って今度こそナハトには大人しくしてもらう。




