鏡文字のエルフ語
ストレルカの船に乗り込み、周辺の島を渡り歩く。
しかし、どこもかしこも『無人島』で何もない。ジャングルのように草木が生え、多少モンスターが徘徊しているだけ。
クラウスたちはどこへ行った……?
エドゥに魔力探知をしてもらうものの、引っ掛からない。もしかしたら、魔力をゼロにしている可能性があるという。
だからこそ『召喚呪符』のようなアイテムを使ったのだろうな。
「……ダメです、ラスティ様。彼らの魔力を追えません」
珍しく残念そうな表情を落とすエドゥ。無念とまで口走り、相当悔しさを滲ませていた。本当に珍しいな。普段のエドゥは、表情をあまり表に出さないからな。
だが、それでも諦めるつもりはない。
なにか良い方法がないかと船の中で考える。
「むぅ~」
「もう五つほどの島を回りましたが、クラウス議員は見当たりませんね」
船を操りながらもストレルカは次の島を目指す。器用だなぁと思いつつも、俺はうなずいた。
「そうだな。逃げ隠れされていると思うと腹立たしいよ」
「島国ラルゴは被害を受けましたし、なんとしてでも報いを受けて欲しいですね」
その通りだ。直ぐに見つけ出さねば、もっと被害が出るかもしれない。
島国ラルゴだけではない――ドヴォルザーク帝国や他の国も狙われるだろう。そうはさせない。
なにか良い方法はないものかと思案を続けていると、スコルが俺の服の袖を引っ張った。
「どうした?」
「あ、あのぅ。わたしの『世界聖書』では何とかならないでしょうか……?」
「世界聖書か。そういえば、特殊なスキルがいくつも使えたよね。人を探す魔法とかあるのかな?」
「ちょっと探してみますね」
「頼む」
世界聖書を開くスコルは、真剣な眼差しでページをめくっていく。
すると、あるスキルが目についたらしい。
「これなんてどうですか?」
それは世界聖書のかなり最初のページに記載されているスキルだった。
[アカシックレコード Lv.10]
[効果]
歴史を保存したり読み取る力。
世界聖書の基本的スキル。
このページがなければ世界聖書は使用できない。
「ん~、これは微妙かな」
「そうですかぁ……」
しょぼんと落ち込むスコル。いかん、こんな顔されるとは思わなかった。
「そ、そういえば解読できていないページがあったよな?」
「あ、はい。分厚いので全部読み切れていないんです」
「そうだったか。じゃあ、新しいスキルが出てくるかもな」
「一緒に読んでいただけませんか?」
もちろんだ。スコルの世界聖書が読み解ければ、新しいスキルでヤツ等を探せるかもしれない。少しの可能性でもいい、賭けてみたい。
船の甲板の上で世界聖書を広げ、スコルと共にページをめくっていく。とはいえ、書かれている文字は『エルフ語』なので、俺は読めないが。
ドヴォルザーク帝国に伝わる“古代ルーン文字”のようだが、似て非なるものだ。エルフ語は、更に遥か太古の……まるで最古の古代文字。
ああ――でもそうか。エルフは長寿だからな。
必然と文字が古いのかもしれない。
「どうだ?」
「う~ん……。この辺りは、わたしでも読むのが難しい古い文字ですから」
困惑するスコル。先のページほど古代文字なのか。普通逆な気がするが……む。
「なんか後半から文字が“逆”になっていないか?」
「は、はい。これは鏡文字ですね」
「嘘だろ。ただでさえ難解なエルフ語を鏡文字って……ヤバすぎだろう」
「これは読むのが大変ですぅ」
涙目になって訴えかけてくるスコルは、少々ギブアップ気味だった。なんでこんな文字を使っているんだか……!
「聞いたことがあるのだ」
にゅるっと現れるハヴァマールに、俺とスコルは驚いた。どこから沸いて出てきた!?
「なにを?」
「ある偉人が秘密を読み解かれぬよう、あえて鏡文字を使ったという逸話を」
「そうなのか」
「うむ。まさか世界聖書に記されているとは思わなんだ。これは余も手伝うしかなさそうだな」
「マジで!」
「任せるのだ、これでもエルフ語は読める!」
し、知らなかった。ハヴァマールがエルフ語を読めたとはな。人員は多い方がいい、新たなスキルを獲得するため、そして、クラウスを探す為にも世界聖書を解読するしかない――!




