島国ラルゴは無事のようです
いつ振りだろうか。
島国ラルゴへ久しぶりに帰還を果たした。だが、今はもう深夜に近い。
今日のところは本拠地である『城』で一泊だな。
そもそも、テレポートした先が城だった。
「わぁ~懐かしい気分です」
楽しそうに城内を見渡すスコル。釣られるようにハヴァマールやストレルカも懐かしんでいた。
そうだな、ずいぶんと帰っていなかった。
聖戦がはじまって旅立ってから一週間以上は経過している。
中が無事だといいんだが。
少し歩いて大広間にたどり着くと見知った顔が現れた。
「おぉ! これはラスティ様ではございませんか!」
驚きのあまりだろうか、いつもより声量の大きいアルフレッド。相変わらずシワひとつない執事服に身を包み、優しい笑みを浮かべていた。
「アルフレッド、さっき帰ったぞ」
「そうでありましたか。スコル様、ハヴァマール様、ストレルカ様、エドゥアルト様もご無事でなによりです」
ひとりひとり丁寧に対応するアルフレッド。
「それで、変わりないか?」
「はい。島国ラルゴでは大きな事件はありませんでした」
「それならいいが」
「ところでラスティ様は、ドヴォルザーク帝国の皇帝になられたとか」
そうだった。まだ島国ラルゴでは正式発表はしていなかった。けれど、ウワサはあっという間に流れて周知されているだろうな。
アルフレッドが知っているくらいだからな。
「そうだ。本来なら別の人物を皇帝にしたかった。……いや、そのつもりだ。俺は長く皇帝の座に居座るつもりはないよ。島国ラルゴが大切だからね」
この国のことを一番に大切にしたい。スコルと共に作ってきたこの島国を。
「それは良かったです。島民も喜ぶことでしょう」
「それより、ドヴォルザーク帝国の元老院が怪しい動きをしている」
俺は、これまでのことを話した。
元元老院議長マルクスのこと、その弟子であるらしいクラウスのこと。元親父の腹心であるディミトリーの謀略。
アレグロ枢機卿の暗殺。
新約・世界聖書が狙われていること。
事情を話すとアルフレッドは驚愕していた。
「元騎士の騎士クラウス・リヒトブリンガーですか。まさか議員になっていたとは……」
「知っているんだな」
「もちろんです。子供だった彼を訓練したのはこの私ですからね」
「なんだって!?」
「リヒトブリンガー家は、代々皇帝に仕えている聖騎士でした。しかし、近年は思うような功績も立てられず、目立った評価もありませんでした」
どうやら、クラウスに才能がなかったらしい。そんな彼に訓練をしてくれと父親から懇願されてアルフレッドは応じたようだった。そんな経緯があったとはな。 それからクラウスは成長して、ルドミラに認められるほどの実力になったようだ。
その頃になると野心が芽生えたとか。
クラウスは、当時の元老院議長マルクスの護衛騎士となってたそうだ。
「そういうことか。そのあとはマルクスの思想を受け継いだってところかな」
「恐らくはそうでしょう。ラスティ様、このままでは大変なことになるかもしれません。もし、マルクスの支配を重きに置いているのなら、クラウスは危険です」
アルフレッドは、若いころにマルクスの抱いていた理想だとか思想だとか聞かされていたらしい。詳しいことは聞くまでもない。
世界の『支配』だからだ。
「さっきヤツとディミトリーを逃した。この周辺の無人島にいるはずだ」
「そういうことでしたか。では、島民にも協力してもらえるよう要請してみます」
「そりゃ助かる。今日のところは寝るよ」
「分かりました。みなさまのお部屋は常に清潔にしておりますので、そのままお使い下さい」
さすがアルフレッド。毎日、清掃は欠かさずか。
そんなわけで各々の部屋へ向かった。
今日のところは寝て明日に備える――。




