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無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ 【コミカライズ企画進行中】  作者: 桜井正宗
世界聖書編(最終章改二)

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絶望の婚約

 気になったので声を掛けてみた。


「あの~」

「なんですの?」


 こちらを振り向くことなく、商品を見つめて彼女はそう短く答えた。こっちを見ないな。

 あの金の腕輪を買おうとしていたのか。……し、しかも高いぞ、アレ。露店にあんな家が建つような高級レアアイテムが売られているんだな。


 金の腕輪は『マリーゴールド』というものだった。なにやら魔力関係の効果もあるようだけど、詳しくは分からなかった。


「君、クラウスの婚約者なのかい?」

「え……。そ、そうです!」


 頬を赤く染め、分かりやすい反応を示す。


「そのクラウスのことでちょっと聞きたいんだけど」

「ええ、いいですよ。――って、あなた!」


 ようやくこっちへ振り向き、俺の顔を見るなり女性はポカンとしていた。


「俺はラスティ。君は?」

「へ、陛下……! も、申し訳ございません。ご無礼を」

「いや、いいんだ。それよりもクラウスのことを教えてくれ」

「その前に自己紹介を。わたくしはヨハンナと申します。お父様はカストネル伯爵です」


 カストネル伯爵……うーん、聞いたことはないな。

 あまり表に出ないタイプの貴族なのかもしれない。それとも偶然、俺とは会ってないだけか。


「よろしく。こっちはスコル」

「ああ、聖女スコル様ですね。存じております」


 ヨハンナは、丁寧に挨拶を交わす。


「よろしくお願いします」


 スコルも同じように深々とお辞儀をした。



「それでヨハンナ、クラウスのことなんだけど……」

「はい。彼とは婚約のお話を進めていただいているところです」

「ということは恋人ではあるのかい?」

「いえ、その……少し特殊な事情がありまして」


 妙に焦っているというか、歯切れが悪いというか。ヨハンナは動揺に近い態度を見せていた。なんだ、この妙な感じ。



「どういうこと?」

「実は、彼はわたくしの他にも二人女性をキープしているようなのです」

「マジか」


「……はい。なので奪われる前に、わたくしが何としても婚約を交わしたいのですっ!」


 今度はメラメラと燃えるヨハンナ。おぉ、なんだかキャンプファイヤーよりも燃えているな。

 しかし、三人の女性と関係を持っているとはな。あの男、いったい何を考えているんだか。



「ところで前元老院議長マルクスと子弟関係にあったと聞いた」

「ええ。クラウスは弟子でした。本来なら、彼が元老院議長になるハズでした……」


「なに?」


「ですが、陛下がテレジア様を推薦されたので、その願いが叶わず。しかし彼は諦めるつもりはなく、今は議員に成り上がりその日を夢見ているみたいです」



 ……なるほど、だから議員としてあの場にいたわけか。

 マルクスが消え、自分の番が来たと思ったが、俺が先にテレジアを指定してしまったからな。その野望は消え失せたわけだ。

 もしかしたらマルクスのしようとしていた共和政への移行だとか、思想やら影響を受けているかもしれんな。


 ナハトが言っていた。


 世界聖書(ウルガタ)を手に入れ、世界を支配しようとしているとかな。失敗しようとも“第七スキル”を発動すると。


 もし『破壊と再生(メメントモリ)』が使用されたら、古代魔導兵器インドラの比ではない、とんでもない事態が起こるかもしれん。そうなる前に止めねば。



「ありがとう、ヨハンナさん」

「いえいえ。でも、あの……クラウスはどうかしたのでしょうか?」

「いや、ちょっと知りたかっただけ」

「そう、ですか」


 ヨハンナさんは、やや心配そうな表情を浮かべる。俺も今はなんとも言えない。ヤツがもし本当に何か企んでいるのなら……。




 しかし、この後すぐに“絶望的”な光景を目の当たりにするのだった。




 クラウスに会いたいということで、ヨハンナさんも一緒に元老院へ向かうことに。到着早々、クラウスは無表情で彼女を見つめ、金の腕輪『マリーゴールド』をその場で捨て、足で踏みつけていた。



「しつこいぞ、ヨハンナ」

「…………クラウス。ウソでしょう……?」


「君とは婚約しないと言ったはずだ。ゲームに負けたんだよ、君は」


「……うそ、うそよッ!!」



 これはいわゆる婚約破棄――ではないが、それに近しい行為か。しかし、こんな風に冷たく突き放すとはなんて野郎だ。


 その場に泣き崩れるヨハンナさんが気の毒で可哀想だった。



「おい、クラウス。贈り物を捨てることないだろう」

「……これは陛下。お見苦しいところをお見せしました。しかし、これは我が婚約を賭けた絶望のゲーム。邪魔をしないでいただきたい」



 冷徹に笑うクラウスは、そのまま横を通り過ぎていく。なんてヤツ!


 こいつ、ドヴォルザーク帝国から追放してやろうかと思ったが――。

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