魔剣を持つキコリの少年
故郷である島国ラルゴへの帰還を先延ばしにし、俺は先にドヴォルザーク帝国各地の建物を立て直すことにした。
元第一皇子ワーグナー、元第二皇子ブラームスのせいで皇帝となった俺自らが働かねばならなくなるとはな。
本来なら、他の建築士だとか大工に頼むべきなのだろう。だが、事は緊急なのである。
なぜなら“厳冬”が到来してしまうからだ。
スケルツォが断言していたし、俺の人生経験もそう語っていた。
……まずい。このままでは凍死者であふれかえることになるぞ。
俺はスコルとルドミラを連れて都中を歩き回った。
「良かったです、ラスティくん」
「なにが?」
「帝国の為に動いていただけることです」
「ああ、当然だよ。皇帝なんだし」
「普通は皇帝陛下の仕事はないのですが……」
「気にするな。俺は皇帝とか地位は気にしない。そもそも島国ラルゴも俺自身が作り上げた国だからな」
だからこそ最後まで面倒を見たい。
島国ラルゴもドヴォルザーク帝国も今や俺の国。元父アントニンや元老院議長マルクスのような適当な政策ではいかない。
「みなさんの為に素晴らしいです!」
スコルは嬉しそうに声を弾ませる。
聖女としても嬉しいのだろう。スコルが喜んでくれるのなら、俺も嬉しいよ。
「ただ、材料が足りなくてな」
「すべて直すのは難しいのですね……」
「そうなんだ、スコル。兄貴たちが建てた建物が予想以上に多くてな」
十、二十なら良かったが、まさか百棟もあるとはな。俺が不在の間に欠陥住宅だとか屋敷を作りすぎだ。
元老院も止めなかったのだろうか。いや、マルクスのことだから黙認していたに違いない。
「それなら安心してください、ラスティくん」
「んぉ? ルドミラ、材料のアテがあるのか?」
そう聞き返すとルドミラは自信満々の表情で「こちらへついてきてください」と言った。俺とスコルは、彼女の背中を追っていく。
街中を歩く度に俺に注目が集まり、大変なことになりかける。しかし、ルドミラが圧をかけて近寄れないようにしてくれたので助かった。
おかげでスムーズにその場所へたどり着いた。
「ここは……?」
「こちらは伝説のキコリが住む家です」
そこには立派すぎる家というか『塔』が建っていた。……こんなの建っていたんだ、知らなかったぞ。
「伝説のキコリか。てか、そんなキコリが建てた塔なのか?」
「そうです。中は一部家になっており、一部はダンジョンになっているそうです」
「ダ、ダンジョンだって!?」
「ええ。外見はそれほどではありませんが、中は魔法によって広大なダンジョンだそうです」
すげえなそれ。こんな街中にダンジョンがあったとは。しかし、利用者がいないようにも思える。そのキコリの家だからだろうか。
「なんだか凄い家ですね、ラスティさん」
スコルはちょっと不安がっていた。そりゃそうだ。こんな塔みたいな建物は不気味だ。しかし、キコリなら確かに『木材』を大量に持っていそうだな。
ルドミラの案内で中へ向かう。彼女が扉をノックしてしばらくすると中から人が出てきた。
「誰だ」
そこには少年がいた。俺と同い年くらいだろうか。
銀髪の青年は背中に剣を携え、歴戦の戦士かのような顔つきをしていた。こ、これがキコリのする表情なのか……?
「私です。ルドミラです」
「……騎士団長! なぜここに」
少年は、ルドミラのことを“騎士団長”と言った。まさか、このキコリの少年は元騎士なのか……?
「久しぶりですね、ナハト」
彼の名は『ナハト』と言うらしい。やはり、キコリって感じはしないな。むしろ剣士って感じだ。
「ルドミラ騎士団、聞きましたよ。そこの彼が皇帝になったとか」
「そうです。ラスティくんは聖戦をクリアして皇帝の座につきました。ですが、噂の通り家が次々に倒壊していましてね。あなたなら材料を持っているのではないかと思いまして」
「なるほど。それで僕を頼りに来たのか」
ナハトは納得しながらも、背中の剣を抜く。……な、なんだあの真っ黒な剣。儀式めいた赤い模様も走っているが、かなり奇妙だぞアレは。
「いけません、ナハト。“魔剣ヘルシャフト”を抜かないでいただきたい」
「そこの自称皇帝に用事がある。謁見が敵わなかったからな……そっちから来てくれて好都合だ」
な……コイツ、昨日来ていたのか。俺に話があったのだろうか。あの時の俺は体力的に限界で一名に絞ってしまった。それがカーチャさんだった。
さすがに数百人もいたんだ、全員の話を聞くなんて無理だった。
ていうか、魔剣って……!
このナハトという少年は、ただのキコリではないようだな。
警戒しているとナハトは魔剣を俺に向けてくる。そして、物凄い勢いで向かってきた。……やる気か!
俺もまたゲイルチュールを武器召喚し、応戦する。
「このッ!」
「武器召喚か……! さすが元第三皇子ラスティ・ヴァーミリオンだ」
「俺のこと知っているんだな」
「当然だ。しかしなぜ元老院を解散させなかった……!」
「なんの関係がある?」
「それに、そこの聖女スコル。世界聖書を所持しているな」
「なぜ、それを!」
聞き返すとナハトは魔剣にとんでもない魔力をこめていた。……なに、コイツ只者じゃないぞ。
いったい、コイツはどうなっているんだ――?
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