冥界の狭間と真の魔王
妖刀はテレジアとなったので、グランツは武器をひとつ失った。
ヤツはバスタードソードを背から抜き、それを構えた。
バカデカイ剣だ。以前もあの大剣には苦戦させられた。だけど、あの時はもう状況が違う。
俺はいざという時にとっておいた『聖槍・グングニル』を構えた。
魔力バカ食いだから、最近は使用を避けていた。だけど、今はその時だ。
「……ほう、ラスティ。聖槍とはな」
「きっと本当の敵はマルクスではないと思っていた。こういう場面を想定し、俺は温存していたんだ」
「しかし、膨大な魔力を消費するぞ。一瞬でケリがつくと思っているのか」
「アイテムの使用は禁止されていない。魔力回復ポーションくらいあるさ」
「だが、それで持つかどうか……!」
俺はテオドールから貰った『魔力回復ポーション改』を飲む。
[魔力回復ポーション改]
[効果]
魔力を大幅に回復する。
しばらくの間、少しだけ魔力回復速度アップ!
これで一発なら聖槍を使える。
「くらえッ!!」
「させるか!!」
高速移動で俺の上に現れるグランツは、そのままバスタードソードを振り下ろしてきた。なんて跳躍力だ。だけど――!
「聖槍――」
「遅いッ!! フェイタルブラスト!!」
紫の粒子が落ちてくる。こ、これは危険すぎる。まともに受けたら“死ぬ”と理解した。すぐに回避行動に移行して、グランツの放ったスキルを避けた。
「――――っりゃあああああ」
回避と同時に、地面が大きくえぐれた。
な、なんだこりゃ……!
地面に大穴があいてやがる!
ウソだろ……。
「我がフェイタルブラストを避けるとはな」
「地面に大穴を開けるとは、とんでもない技だ」
「魔王ドヴォルザークやその幹部を討伐する為に開発された闇属性スキルさ」
なんてスキルだ。そんなもの帝国は開発していたのかよ。……いや、そりゃそうだよな。もともと世界は魔王に支配されていた。
勝つためにあらゆる手段を講じていたと聞く。
その手段のひとつがスキル開発だった。
だが、今はそんなことはどうでもいい。勝つ、それだけだ!
「そうかよ! これでッ!! 聖槍・グングニル!!!」
タイミングを見計らい、俺は大技スキルを穿つ。
大魔力の塊、光の槍が瞬間でグランツに到達した。
「こ、これが聖槍か! 素晴らしい……! だが!!!」
イズアールと戦っていたはずのテレジアが変形して『妖刀』となった。それは一瞬でグランツの手元に。……な、なに!? テレポート、か?
「もう俺の聖槍を受けるしかないぞ! グランツ!」
「それはどうかな!」
バスタードソードを捨て『妖刀テレジア』に赤と青の炎を纏わせるグランツ。……な、なんだ。魔力が爆発的に増大してやがる!
「いけません!! ラスティくん、あの妖刀のスキルは危険すぎます!!」
大声で叫ぶルドミラ。
「これは緊急事態です。みなさんを退避させます」
エドゥが動き出し、スコルたちを転移させていた。ま、まて……そんなヤバいというのか!
だが、俺の聖槍・グングニルがその前にヤツを穿つ!
その自信があった。
だから――!
「ラスティ、お前に“この技”を使うことになるとはな……!」
「な、に?」
グランツはニヤリと不敵に笑い、妖刀から大技らしきスキルを放った。
「奥義! 第六天魔王煉獄殺!!」
たった数秒で聖槍の光が押し返され、赤青の炎が飲み込む。……マジか!
「ぐ、ああああああああああああああああああああああああ…………!!!」
や……焼き尽くされる。
肉体が滅びるような音。こ、これは……地獄、なのか。
手が、足が、消えていく…………。
苦しい、とても苦しい。生き地獄とはこの事なのか。
『……』
(……だ)
『……ラスティよ』
(……な、ん、だ……)
『私だ。お前の父だ』
「お、親父……!?」
暗闇の中から現れるドヴォルザーク帝国の元皇帝アントニン。あの白髪、白いヒゲ……威厳のある顔つきは間違いない……!
なぜ、ここに!
ああ、そうか……俺は『地獄』に落ちたのか。
「久しぶりだな、ラスティ」
「なんだ、俺は死んだのか」
「いいや、まだ死んではおらん。貴様は“冥界の狭間”にいるのだ」
「冥界の狭間? そんな馬鹿な」
「フッ。知らぬのも当然であろうな。神代では冥界の門や冥界の番犬……そして冥界の神が存在した。ここは、その名残だ」
この暗闇が冥界の名残……?
俺はそんなところに堕ちたというのか。なんてこった……。
「てか、親父もこんなところに堕ちていたのか」
「ウム。私は魔王ドヴォルザークである。しかしな、かつては『オーディン』と呼ばれし、雷神の神であった」
「なに!?」
「そう。私は闇落ちした神なのだ」
……そうだったのか。以前話した時はオーディンに汚名を着せたと言っていたな。だが、それは親父自身が闇落ちしたということだったんだ。
「なんで俺の目の前に姿を現した」
「少し話がしたくてな」
「話……か」
「ああ。お前たちは魔王の支配を恐怖し、絶望し、嫌悪した。だが、よく考えてみろ。私がドヴォルザーク帝国を治めていた時代の世界はどうだった……? 戦争は起きなかっただろう。モンスターもそれほど狂暴ではなかったはずだ」
「……そ、それは確かに」
親父を倒してからは、世界の各地でモンスターが暴れたり、連合国との戦争が起きたりした。明らかに世界のバランスが崩れた。それは……事実だ。
「結局のところ世界は支配でなければ成り立たぬということだ」
「だが、それでは真の自由はないだろ!」
「そうかな。これでも人類に譲歩し、歩み寄ったのだ。だが、それでもくだらぬ戦争は続いた。だから私は支配を強めた。すると自然に魔王と呼ばれるようになった。私は受け入れたよ。その方が都合がよく、世界が上手く機能したからだ。この世には善と悪のバランスが必要なのだ」
「なにが言いたい!」
「魔王という存在は必要悪というわけだ。ラスティ、貴様が“真の魔王”になるのだ」
「…………なッ!?」
俺が、真の魔王に……?




