聖女を奪い、結婚させてやるッ!!
直ぐにテレキネシスを発動するマルクス。そうくるよな。俺たちの動きを封じる……それが先決だろう。
だが、そんなことは百も承知。
今度はもう対策済みだ。
「もう効かねえぜ、マルクス!」
「……なにッ! 馬鹿な。テレキネシスがなぜ……!」
マルクスは、俺たちが動けて焦る。
当然だろうな。アイツは絶対的な自信をもっていた。しかし、テレキネシスそのものを封じてしまえば、こちらのもの!
「スキル封印さ」
「まさか! いつの間にそんな大技を。しかもスキル封印の習得は困難を極める。そんな世界で数えるほどしか扱えぬスキル……いったい、誰が。――いや、まさか」
ピンときたのか、マルクスは気づいたようだった。
その視線は……ハヴァマールに向けられた。
「そうなのだ。余ならそれが可能だ。スキルの正体さえ分かれば後はお主に“封印”を施すだけ。もうテレキネシスは扱えぬぞ!」
ハヴァマールはオーディンの娘。この世界で長いこと生きてきた神の子。俺の妹でもある。
さりげなく便利なスキルを持っているんだよな。
おかげで動けていた。
あとは俺たち次第ってワケだ。
「古代神話の生き残りがいたとはな……これは驚きだ。まあいい、それでも私にはインビジブルウェポンがある!!」
見えない剣が蛇のように伸びてくる。
まるで鞭のように俺のゲイルチュールを叩く。……こ、これは! なかなか!
「……ぐっ!」
「そらそら、どうしたラスティ! お前の力はこの程度かッ!!」
見えない剣とは、これほど厄介なのか。
どこから攻撃が飛んでくるか予想しかできない。
だけど、こっちは仲間がいる。
ルドミラの勘の鋭さが武器となり、インビジブルウェポンを弾いていた。
「ナイス、ルドミラ!」
「これくらいはさせてください。ですが、マルクスに一撃も与えられないとは……悔しいです」
まったく接近できない。しようもなのなら、あの蛇腹剣で恐ろしいほどのダメージを追うと感じていた。
あの攻撃は避けねばならない。
他のみんなは後方で遠距離攻撃をお願いした。
とてもじゃないが接近戦は厳しすぎる。
そんな中、後方から叫ぶ声がした。
「ここは、わたくしが!」
「ストレルカ! 分かった」
俺とルドミラは直ぐに後退。
すると、すぐに巨大な津波が発生してマルクスの方へ怒涛の勢いで流れていった。これは水属性最強の魔法『タイダルウェーブ』だ。
「素晴らしい。水の大精霊オケアノスと契約していなければ使えぬ最高峰の奥義。しかし『水神の恩恵』を持つ私には効かぬ!! ――むぅん!!」
大津波を超えるハイジャンプをするマルクスは、水の上に乗りやがった。……は!? ウソだろ!?
10メートル以上はある大津波だぞ。
軽々ジャンプして水の上に立つどころか、歩いていた。なんなんだ、アイツ!!
「なんてことだ!!」
「どうした、イズアール?」
「あの『水神の恩恵』はボロディンの古来から伝わり、かつて大神官アルミダが所持していた国宝スキル。なぜ、ヤツが!!」
マジかよ。てか、大神官アルミダ……懐かしいな。確か、処刑されたんだっけ。
「アルミダから奪ったのさ」
「そういうことか!」
許せんと憤慨するイズアールは、マルクスをにらみつける。それもそうか。国宝スキルを好き勝手使われて気分がいいはずがない。
タイダルウェーブから降りてくるマルクスは、余裕の笑みで顎をしゃくる。それどころか、懐からパイプタバコを取り出して吹かしていた。
「――ぷはぁ……。退屈だ」
「なに……」
「元老院議長を甘く見られたものだと言った」
「倒すさ。お前をぶっ潰して聖戦もぶっ潰す。なにもかもを終わらせて平和に暮らす。それでいい……」
「ラスティ。お前は実に単純だな」
「うるせえ、殴るッ!」
「その心をへし折ってやろう。手始めに……エルフの聖女を奪い、息子のグランツと結婚させてやる。共和政ドヴォルザークの祝福の為に」
その野望を聞き、俺はプツンと切れた。
スコルを奪う……だと?
それだけは言ってはならなかった。俺にとってスコルは命より大事な存在。それをコイツは! マルクスは!
「お前は元老院にも皇帝にも相応しくない」
「皇帝はこの私だ。古代魔導兵器インドラで世界を支配する。愚民はひれ伏せればよいのだ。所詮、人間は駒でしかないのだから――」
違う、完全に間違っている。
その歪んだ思想をぶっ壊す……!




