元聖騎士の男
仮面騎士リアンの攻撃を受け流しながら、+10覚醒ヴェラチュールを投げつけていく。
それでも魔法使いには命中しない。
あのマインドという魔法使い……回避力が異様に高い。
単に吸収魔法だけを専門にしているわけではないようだ。ということは近距離も遠距離物理攻撃も対策済み、というわけか。
しかも、俺の体力も魔力も同時に奪われている。
「くっ……」
「どうしたラスティ。表情が優れないようだな」
剣を何度も振るうリアン。
俺はひとつひとつを確実に受け止め、弾いた。
だが、その傍らでマインドが俺のすべてを吸収していく。……クソッ、回復アイテムがもたんぞ。
そんな激闘の中、急にマインドが倒れていた。
「…………きゃあッ!?」
何事かと全員が振り向いた。
「…………クク。クハハハハ! 油断したな、馬鹿どもが!」
マインドの首元に剣をあてがい、人質に取る男の姿があった。
あれは確かヨハネス……!
「なんだ貴様! マインドを離せ」
「久しぶりだなァ~、リアンさんよォ」
「貴様……ヨハネスか」
「そうだ。ずっとラスティを殺す機会を伺っていたのさ。そこの男はストレルカを奪った! いや、それだけじゃない。この私の地位も名誉もなにもかもを奪った! 憎き男だ!」
だからって、マインドを人質にするのは違う。
あの魔法使いとはなんの関係もないぞ。
「おい、やめろヨハネス!」
「無理な相談だ! これは聖戦だぞ! この先は殺し合うしかねぇんだよ! 特にお前は八つ裂きにしてやる!」
ダメだ、コイツ。
ヨハネスは俺に恨みをもっている。憎しみだけで動いているんだ。そりゃ、過去にはいろいろあったが、かなり前の話だぞ。
それにヨハネスのは自業自得が大半を占めている。
だから恨むのは筋違いってモンだ。
「仕方ない。リアン、不本意だが俺とヨハネスの一対一でやらせてくれ」
「マインドを救出するのならば……よかろう」
剣をおさめるリアン。
続き、他のメンバーも矛をおさめた。
イズアールも空気を読んだのか立ち止まっていた。
「おい、ラスティ。あのヨハネスというのはなんだ?」
「詳しい説明はあとでするよ」
俺がそう言うとイズアールはしぶしぶ納得していた。
意外やみんな従ってくれた。
実は話せば分かるのだろうか。
まあいい、それよりも目が血走っているヨハネスだ。
「……ラスティ。ラスティ!! お前をぶっ殺してやるッ!!」
剣を抜くヨハネスは、マインドを抱えながら攻撃を仕掛けてきた。な、なんて野郎だ! コイツ、元騎士としてのプライドもないのか!
いや、ここまで堕ちたからこそ、ヨハネスは卑怯な手を使ってでも俺を殺しに来ているんだ。
俺がもっとも嫌いとする手段で。
「この卑怯者がッ!」
「なんとでも言え。私はお前を抹殺できれば……元老院議長マルクスの駒になってやるさ!」
「なにっ!?」
元老院議長マルクスの駒だと?
コイツ、それを承知の上で……だとしたら、この城塞都市へ来れたのも、マルクスの手引きというところか。
剣を振るってくるヨハネス。
しかし、以前と比べてもほとんど変化はない戦闘力だった。
余裕で回避でき、俺は反撃できた。
+10覚醒ヴェラチュールでヨハネスの右肩を刺した。
「ぐおおおおおおッ!!」
これでマインドを離すかと思ったが、粘り強く掴んでいた。……クソッ!
「マインドを離せよ」
「く、くははは。この魔法使いは敵だろうが! ラスティ、お前は敵に情けをかけるのか……? おめでたい頭をしているなァ」
「今は状況が違うのさ。ヨハネス、お前という悪が人質にとっている限りは関係ない」
「屁理屈だな。こんな魔法使いなんて見捨てればいいんだ」
邪悪にほほ笑むヨハネス。
昔の彼とは大違いだ。
最初に会った頃は騎士としての誇りだとか、技量を肌で感じたほど。しかし今は魔族のような、そんな残念な状態だ。
「お前のようなヤツを皇帝にはさせない!」
「皇帝ぇ? そんなモン興味はねえ! ラスティ、お前をこの手でぶっ潰す! それだけだ!」
もう言葉は不要だ。
俺は+10覚醒ヴェラチュールにスキルを付与していく。
この一撃で決める……!




