悪逆非道の男
スコルたちに起きたことを話した。
三人とも終始ビックリしていた。
まさかこの数分の出来事でイズアールが襲撃に来るとは思いもしなかったようだ。俺もだけど。
「イズアールさんって、その、神器の方ですよね」
「そうだ、スコル。だが、彼は自国のボロディンを守るために行動しているようだ。あのマルクスに脅されてな」
「……そんな」
元老院議長マルクス……アイツは悪逆非道だ。
人の心すら操るというのか。
そんな奴が帝国のトップに君臨したらと思うと恐ろしい。
一刻も早く神器を集め、俺が勝つしかない。
「イズアール。こっちの三人が俺の仲間だ」
「知っているさ。ラスティ、君とは以前にパーティを組んだからね。スコル様はボロディンの聖女だし、みなさんのことも存じている」
それもそうか。
ボロディンとは友好関係が続いている。俺たちの情報が自然と広がっていてもおかしくはないだろう。
でも、国を守るためにラルゴへ襲撃にやってくるとはな。
「俺たちとは手を組むという認識でいいのか?」
「……仕方あるまい。少なくとも聖女スコル様を前にしては……私はなにも言えぬ」
その場で膝をつくイズアールは、スコルに対して非礼を詫びていた。
「あ、あの……イズアールさん?」
「スコル様。勝手な行動をお許しください。もうひとつ理由があったのです」
「……そ、その理由とは」
「ドヴォルザーク帝国の元老院議長マルクスに父を人質に取られてしまいました」
「え……」
スコルも俺たちも驚いた。
イズアールの父親が人質に?
それでは国を守るどころの話ではないじゃないか。
「まてまて、イズアール。それを先に言えよ」
俺は思わずツッコんだ。
するとイズアールは申し訳なさそうにした。
「すみません。人質のことはマルクスによって口外禁止でして……ですが、スコル様にはボロディンの民としてウソをつけない」
「そういうことか」
「……でも、国の為であることも確か。古代魔導兵器インドラの光が落ちれば、国そのものが消滅する。それは最近になって明らかになった」
「そっちも見ていたのか」
「もちろん。あんな恐ろしい光景を目の当たりにすれば誰だって危機感を抱くさ」
理由が分かってみんな納得した。
マルクスが全ての元凶なんだ。アイツを止めないと!
俺はイズアールを改めてパーティに誘った。
すると彼は承諾してくれた。
一緒に『城塞都市コーラングレ』へ行ってくれることになった。
だが、その前にルサルカさんも連れていかねば。
「アルフレッド。ルサルカさんは家にいるのか?」
「はい。彼女は以前と同じ家で母親と暮らしているようです」
「分かった。行ってくる」
「お気をつけて」
アルフレッドに再び留守番を頼み、俺たちは城を後にした。
◆
島国ラルゴの街から離れた僻地。
森と湖に囲まれた大自然の中……そこにルサルカさんの家がある。
彼女はこういう静かな場所を好んでいる。
もしかしたら、ドワーフ族だからかもしれないが。
のどかな畑道を歩いて家を目指す。
やがて大きな丸太で出来た家が見えてきた。
一軒だけポツンとあるものだから、すごく目立つ。
あれこそがルサルカさんの家だ。




