神器の名を冠する剣聖のエルフ
『――――ギンッ!』
剣と剣がぶつかり合うような、鈍い音が響く。
俺の目の前で誰かが戦っていた。
それは激しい攻防だった。
だが、煙が充満していて何も見えない。
少なくとも気配は二つ。
いったい、ここで何が起きている?
ていうか、ここは島国ラルゴなのか……?
『ガンッ、ガン、ギィィィン……!』
またも火花を散らす。
こんな激しい戦いを、誰が。
「てやあああああああああああッ!!」
誰かが高くジャンプし、煙から姿を現した。
あれは……アルフレッド!?
『さすがレオポルド騎士団の元騎士団長。聖騎士の中の聖騎士! だが、貴様は老いた……!』
またも影が現れ、その気配が煙を吹き飛ばした。剣で。
な、なんて素振りだよ。
一瞬で煙が晴れると、そこから現れたのは――。
なんだ、あの“目隠し”をした剣士。……しかも、エルフだと?
どういうことだと立ち尽くしていると、アルフレッドがそのエルフに剣を向けた。
「なぜ島国ラルゴを脅かすのです。あなたほどの剣聖が元老院へ肩入れなど……!」
「我が故郷、ボロディンを守る為だ」
「ですが、我が主の島を破壊するなど言語道断。なれば、私は本気であなたを倒せねばなりません。……イズアール殿!」
なッ!
なんだって……あのエルフの剣士がイズアール!?
……ああ、そうか。
思い出したぞ!!
以前、トルクァートと戦ったときに一緒にパーティを組んだエルフのひとりだ。
彼はワープポータルを使えたり、妙に高等なスキルが使えるなとは思っていた。まさか、あの時のエルフだったとは!
しかも剣士だったのかよ。
「そうか。ではこちらも本気を……」
剣に莫大な魔力を込めるイズアール。
……ま、まて。
なんて魔力だよ。
大魔法を扱えるほどの魔力が一瞬で溜まっていた。ど、どうなっているんだ。あんな瞬間でなんて普通は不可能だ。
いや。
まてよ。
彼は神器の名を冠しているエルフ。
もしかしたら、なにか特殊なスキルを身に着けているのかもしれない。
なんにせよ、このままではマズい。
俺は召喚武器・ゲイルチュールを取り出し、握った。
アルフレッドの前に立ち、俺はイズアールの剣を受け止めた。
「うおらあああああああ!!」
「……! だ、誰だ……!」
俺の登場に驚くイズアール。
おいおい、一時的とはいえ共にした仲だったんだけどな。もう忘れたか。
「ラスティ様……」
背後でぽつりと俺の名をつぶやくアルフレッド。
「よ、アルフレッド。戻って来たぜ」
「聖戦はよろしいので……?」
「今は第二試練の神器収集だ。ルサルカさんを連れていく」
「そうでしたか。……! では、イズアール殿も」
「ああ。そうだな、彼も“対象”だ」
ゲイルチュールを思いっきり振りかぶって、イズアールの剣を弾いた。
「……ぐっ! なるほど、ラスティさんか」
「やっと思い出したか、イズアール。まさか、お前さんが島国ラルゴにいるとは思わなかったよ。てか、人ん家の庭でバトルしているとはな」
目隠しのせいか、あんまり表情は伺えないが、イズアールは少し困惑しながらも距離を取った。
「本来なら古代魔導兵器インドラによって、この島国ラルゴは消滅していた」
「なぜそのことを!」
「簡単なことさ。元老院議長マルクスがやったことだからだ」
「なに……?」
やっぱりヤツが!
マルクスの野郎、魔王ドヴォルザークよりタチが悪いぞ。
あんなものを使うだなんて……何万と人が死ぬんだぞ。ありえねぇだろ。
「それをボロディンに向けられてみろ。終わりだ……」
「大丈夫だ。今、俺の仲間たちが破壊しに行った。城塞都市コーラングレにあるんだ」
「城塞都市コーラングレ……エルフの国ではないか。そんなところに本当にあるのか?」
「一緒に確かめればいいだろ。そこにオラトリオもいるらしい」
「それが確かなら、マルクスの命令に従う必要はないな。そもそも、古代魔導兵器インドラなどという大量破壊兵器を平然と使う男なぞ信用ならん」
剣をおさめ、冷静にそう言い放つイズアール。どうやら、俺の話を聞いてくれるようだな。
意外にも話の分かる奴で良かった。
直後、スコルやハヴァマール、ストレルカがこっちに転移してきた。
「ただいまです!」
「おぉ、本当に島国ラルゴなのだ」
「さすが世界聖書です」
なにも事情を知らない三人。
まずはイズアールのことを説明しなくちゃな。




