不可能を可能にするかもしれない聖女
第二試練の説明が終わると同時に、各々は神器を求めて直ぐに出発。
あっと言う間に参加者は散り散りとなった。
そりゃ、そうだよな……。
それにしても、一次試練では何千といた参加者があそこまで減るとは。それほどメテオドラゴンの討伐が難関だったということか。
それもそうか。俺ですら皆の力を借りなければ無理だった。
皇帝になるということは、そう簡単ではない道のりということだ。
「……どうしましょう、ラスティさん」
不安気に俺を見つめるスコル。
もちろんこの先は決まっている。
「まずは島国ラルゴへ向かい、ルサルカさんと合流する。それから、城塞都市コーラングレへ向かい、オラトリオを探し出す。最後にイズアールだ」
「では、急いで向かわないとですね……!」
「ああ。だが、聖戦中は転移スキルが禁止されて使用不可能。……となると船か飛行だ。この場合はシャイネンドラゴンの方が確実だな」
一度、世界ギルドを去り――再びレオポルド騎士団へ向かうことにした。
アルトゥールに交渉し、もう一度借りれないか聞いてみないと。
恐らく、他のヤツ等も同じことを考えているはずだ。
移動手段としてドラゴンはもっとも最適。世界を飛び回れるからな。
みんなと共に騎士団に辿り着く。
だが、門の前は物々しい雰囲気に包まれていた。
「――レオポルド騎士団は封鎖中だ! ドラゴンの貸し出しもしていないッ!」
そう叫ぶ騎士がいた。
……ま、まて。
騎士団が閉鎖だって?
「あ、兄上! これはどういうことなのだ!?」
頭を抱えるハヴァマールは、信じられないと目を白黒させる。正直、俺も分からん。
なぜ突然、騎士団が封鎖され……ドラゴンも貸し出ししなくなったんだ?
周囲を見渡すと見覚えのある顔がこちらを見ていた
ア、アイツ……!
「…………フッ」
「マルクス!」
ニヤリと笑い、奥へ消えていく元老院議長マルクス。……そうか、野郎が妨害を! ヤツも聖戦の第二試練は突破している。
だからこそ、俺たちや他の参加者を優位に立たせないために、元老院の権力を使ってこんな横暴を――!
「やられましたね、ラスティ様」
「ああ、ストレルカ。ヤツ等は本気ってことだ……」
「こうなってはドラゴンは期待できません。わたくしの船で移動しましょうか?」
「そうだな。それしかないかもしれない」
船の移動では最速で二日は掛かる。
ドラゴンなら一日……まずいな。
もし、マルクスが動き出せばルサルカさんを連れ去られてしまうかもしれない……! しかも、ヤツは彼女の存在を知っている。母親のことも。
「ですが、ラスティ様。お察しの通り、ドラゴンの移動速度には及びません」
「分かっている。けど、船しかないよな」
唇を噛んでいるとマルクスの叫ぶ声が聞こえた。
「ラスティ! 貴様の島にある神器はいただく! 所在は分かっているし、他の神器も大体の見当がついている」
「……くっ!」
「いいか、皇帝にはこの私がなる。お前ではない……私だ」
勝利を確信したかのような表情でマルクスは、今度こそ騎士団の奥へ消えた。
あの野郎。
ドヴォルザーク帝国を本気で乗っ取る気だ。
以前、共和政がどうとか言っていたが、それも怪しいところだ。結局、アイツは世界を支配したいのではないだろうか。
「このままでは……」
焦っているとスコルが俺に声を掛けてきた。
「あ、あの……ラスティさん。わたしが転移スキルを使ってみます」
「え……? スコル、なにを言っているんだ。聖戦中では転移は無理なんだぞ」
「もしかしたら出来るかもしれません」
「な、なんだって!」
俺が驚くとハヴァマールとストレルカもビックリしていた。
「スコルは聖女……もしや」
「ハヴァマールさんの言う通りです。スコルさんには『世界聖書』もありますし」
そうか!!
世界聖書の存在をすっかり忘れていた。
あの万能の本なら、可能性がある!




