『竜の息吹』と補助スキル『息吹』
ストレルカの精霊召喚・アクアナイトの準備が整った。
召喚されたアクアナイトは、全身が『水』の体。物理攻撃は通らず、ダメージは与えられない。なので魔法攻撃しか通用しない特性がある。
この精霊なら、メテオドラゴンの攻撃もある程度は耐えられるはずだ
向こうが強烈な魔法攻撃をしなければ――だが。
よし、俺の『壁』も完全に設置が完了した。
「スコルとハヴァマールは、後方支援を頼む」
「了解しました!」
「了解なのだ」
二人はなるべく動かない方がいい。
むろん、俺が守るが、メテオドラゴンが想定外の動きをするかもしれない。
今は岩陰が一番安全なエリア。
「そろそろだな。ストレルカ、まずは試しでアクアナイトを動かしてくれ」
「分かりました」
ストレルカは、精霊アクアナイトに命令を下す。
水の剣と盾を構え、アクアナイト一体は前進した。
崖に近づくと、メテオドラゴンが複数現れた。だが、ストレルカがアクアナイトをうまく操作。引き付けてくれて一体だけを誘導した。
凄い技術だ。
あんな風に狙って一体だけを誘き出すなんて、並みの精霊使いでは不可能だ。
精霊とは、常に膨大な魔力を供給する。消費量も激しいらしいし。更に言えば、精霊を操るというのは、とても大変のようだ。
ストレルカ曰く、目隠しされたまま針の穴に糸を通すようなものだと言っていた。どんだけ難しいんだよ、それ。
だが、彼女はそんなことを簡単にやってのける。
ついにメテオドラゴン一体がこちらに。
「見事!!」
「ラスティ様、ドラゴンの討伐をお願いします!」
精霊を操りながらストレルカは合図を出した。今しかない!
ゲイルチュールを、+10覚醒ヴェラチュールに変更。
この最強の槍なら、メテオドラゴンを仕留められるはずだ。
投げようとしたその時だった。
『――――――!』
メテオドラゴンが反応し、急に視界から消えた。
え……消えたぞ!?
「あ、兄上! メテオドラゴンがいなくなったぞ!」
ハヴァマールが慌てて叫ぶ。
なぜだ。
なぜメテオドラゴンの姿がなくなった……?
まさか透明化の魔法か?
いや、そんな高度なスキルを使えるとは思えない。
他に考えられるとしたら……。
「きゃああ!!」
だが、そんな考えている暇もなかった。気づけばメテオドラゴンは、スコルの背後に忍び寄っていた。
……な、なんで!
気配をまったく感じなかったぞ。
いや、冷静に分析している場合ではない!
くそっ、まさかこんなアッサリと接近を許してしまうとは。
この距離で+10覚醒ヴェラチュールを投げられない。
スコルに当たってしまうからだ。
ならば、無人島開発スキルでいく。
メテオドラゴンがスコルを襲うギリギリで俺は『壁』を生成して、遮った。まだ材料があって良かった……!
『……ガコンッ!』
地面から石の壁が生えて、メテオドラゴンの破滅的な凄まじい『ドラゴンブレス』を一時的に防いだ。
だめだ。もう壊れる!!
「スコル、俺に掴まれ!!」
「……ラスティさん!」
俺は手を伸ばし、スコルの手を取った。そのままハヴァマールも小脇に抱えて猛ダッシュ。一方で、ストレルカは大精霊オケアノスに乗って距離を取っていた。
「気を付けてください、ラスティ様! メテオドラゴンはなにやら妙な移動方法を使うようです!」
「ああ、ストレルカも気を付けてくれ!」
かなり離れ、俺はスコルとハヴァマールを下ろした。
「ありがとうございます、ラスティさん」
「いや、ケガがなくて良かった。ていうか、あのドラゴン……スコルを狙いやがって!」
「た、食べられちゃうかと思いました……」
まさか俺ではなく後衛のスコルを狙われるとは思わなかった。
もしかして、あのメテオドラゴン……知性がかなり高いのか? いや、そんなわけないよな。
分析していると、またメテオドラゴンが現れた。
今度はハヴァマールの背後に!
「なんなんだコイツは!!」
「げっ! 兄上、メテオドラゴンがもうこっちに!!」
とんでもないスピードで移動してるとしか思えない。しかし、あまりにスピードが速すぎる。それこそ瞬間移動のような。まさか、そっちなのか……?
いや、そんなわけはない。
ならドラゴンである意味がないだろう。
じゃない! 考えている暇はない!
「サンダーブレイク!!」
+10覚醒ヴェラチュールからスキルを放つ俺。
しかし、メテオドラゴンは一瞬で消えた。
……なッ!
飛んでいない。これは瞬間的な移動だ。……やっぱり瞬間移動なのか!
「……分かったかもしれません!」
「え、スコル。あのメテオドラゴンのスキルに覚えが?」
「はい。エルフの国・ボロディンでは年に一度の決闘大会があるんです。そこで一度だけ、あの動きを見た事があります」
「なんだって!?」
「あのスキルは恐らく……『息吹』です」
「ブレス?」
「目にも止まらぬ速度で移動する方法です。竜の息吹の発動って時間が物凄くかかるらしいんです。その手間を省くために『息吹』という補助スキルを使い、即座に炎を吐いたりするみたいです」
「マジかよ。てか、エルフの決闘大会でなぜドラゴン系のスキル?」
腕を組み、疑問に思っているとスコルが答えてくれた。
「あ、当時の大会でものすごく強いドラゴン族の方がいたんです。確か、サンダードラゴンの血筋だとかで……世界最強の魔女とか言われていましたね」
それ、物凄く覚えがあるんだが。
轟雷の魔女・スケルツォしかいないじゃないか……!
そうか、彼女は人型だけどドラゴンだ。
エルフの決闘大会に出場していたとはね。
だが、おかげでスキルの正体が判明した。ドラゴンブレスをより効率よく吐くための、最強補助スキルってわけか。




