嫁を増やしたい男
聖戦の参加をどうするべきか悩む俺。
スコルと共に外へ出歩くと騎士団が目についた。そうだ、ルドミラに相談してみよう。きっとテオドールもいるだろうし。
騎士団の中へ入ると、素振りをする騎士達の姿が見えた。あそこにルドミラの姿はない。恐らく建物の中だろうな。
向かおうとすると丁度ルドミラが出てきた。こちらに気づき、慌て向かってきた。
「ラスティくんではありませんか! スコル様も」
「立ち寄ってみた。相変わらずやっているようだな」
「ええ、この島国を守るために騎士を育成中です」
「その調子で頼む」
「はい、この島国ラルゴを守れるよう、しっかり指導して参ります」
丁寧に頭を下げるルドミラ。
今の俺にとって彼女の存在は大きい。右腕的存在だ。なのでルドミラを聖戦に参加させるわけにはいかない。
だが、情報は共有しておかねば。
「ルドミラ、話しがあるんだ」
「話ですね、分かりました。ではこちらへ」
建物内へ向かい、空き部屋へ入った。
椅子に腰かけてさっそく俺は『聖戦』について話した。
「これから皇帝を決める戦いが始まる」
「……聖戦ですね」
「さすがに知っていたか」
「ええ、長いこと生きていますからね。ただ、実際に見たことはないのです」
彼女がいた時代ではすでに聖戦は停止されていたようだ。ということは少なくとも百年前から止まっていたわけだ。
「あの、ルドミラさん」
「なんでしょう、スコル様」
「ルドミラさんの知り合いとかで皇帝になりたい人とかいませんか?」
「難しい質問ですね。う~ん……少なくとも、私の知り合いではいませ――」
言いかけたルドミラだったが。
「いまーす! います! ここにいるぜ~!」
突然の“謎の声”にさえぎられた。
「「「うわッ!?」」」
ニョキッと生えてくるようにテオドールが出現して俺たちは驚いた。
「いつの間に部屋にいたんだよ!!」
「驚かせるつもりはなかったんだがね。すまんすまん」
俺はともかく、ルドミラが一番驚いていたぞ。
「テオドール! あなた、私の後ろから!!」
「あはは! ルドミラ、君は聖騎士のクセに油断しすぎだぞ――がはああああああああッ!?!?」
笑ってからかうテオドールだが、ルドミラが珍しくブチギレていた。目にも止まらぬパンチを繰り出し、テオドールを沈めていた。ご臨終だなこりゃ。
「……当然の報いです」
「ひ、ひどいなぁ、ルドミラ」
「どうせ死にはしませんよ。神器エインヘリャルがあるんですから」
ひょいっと起き上がるテオドールは、椅子に腰かけて足を組んだ。
「一理あるな。だけどね、聖戦が始まると我々の力は一時的に失われる。ルドミラ、それは承知かい?」
「…………そ、それは」
な……そうだったのか!
神器エインヘリャルにそんな制約があったとは知らなかった。
「で、テオドール。俺になにか用があったんじゃないのか?」
「あ~、そうだった! スコル様にお願いしていたんだった。ラスティ、私は聖戦に参加したいんだ!」
「そ、その話だったのか!?」
「ああ、そうだとも。ダメかい?」
「理由は……? 不純な動機なら却下だぞ」
「そりゃもちろん、嫁を増やしたいからだ!」
場の空気が死んだ。
これは酷い。テオドールには三人の嫁がいるのに、まだ増やしたいのかよ。確かに、この島国ラルゴは一夫多妻を認めてはいる。同性婚だって自由だ。
だが、物事には限度ってモンがある。
「……却下だ」
「んな!?」
「そんな理由で皇帝になられたら困るってーの」
「そ、そんなぁ……! あと七人は増やしたいと思っていたんだが!」
そんなにかよ!
さすがに嫁の間で戦争が起きそうな気がするけどな。
「……あぁ、テオドール。ラスティくんが引いているではないですか」
「そうか? それよりルドミラ。お前はどうなんだ? 数百年ずーっと相手がいないようだが」
「…………は?」
ブチッと鳴ってはならない音がした。
そして、直後……テオドールはボロ雑巾のようにズタボロにされ、騎士団から放り出された。
……ルドミラがあんなにガチギレしたところを見たのは始めてだ。
怖すぎて宥めるのが大変だった。
スコルがルドミラの怒りを鎮めてくれたので、いなかったら最悪だったぞ……!
「ルドミラも怒ることがあるんだな」
「も、申し訳ございません。取り乱してしまいました。大変失礼を……」
ぺこぺこと謝るルドミラは、土下座する勢いだった。けどまぁ、テオドールには一度反省してもらわないとな。
……しかし、候補が見つからないなぁ。どうしたもんかね。




