幻影ダンジョンのトラップ
なぜ、敵意を向けられているんだ。
意味が分からないが、俺はみんなを守る体勢に入った。
「ラスティくん、これは一体どういうことでしょう……」
困惑するルドミラも身構える。
「さあ、分からん。けど、いざとなれば戦闘もやむを得ん。その時は一緒に戦ってくれ」
「分かりました」
状況を注視していると巨漢戦士が俺の前に。
デ、デケェ……。
こうして目の前に立たれると凄い身長差だ。まるでゴーレムみたいな迫力。息苦しい程の威圧感を感じるが、ここで隙を見せるわけにはいかない。
俺も負けじと殺気を繰り出す。
「……ほう。ガキのくせにレベルは高いようだな」
「いきなりなんだ。俺は幻影ダンジョンに行きたいだけだぞ」
「それが問題なんだ。いいか、小僧。古代の魔法石は誰もが狙うレアアイテムだ。ここにいる者が全員欲しがっている。特に魔法職はな」
「別に独り占めするような代物ではないだろ。分け合えばいい」
そう提案すると巨漢戦士は呆れていた。
「分け合うだと? ふざけるな。古代の魔法石がひとつあれば大金持ちだ。それを分け合えば、取り分が減ってしまうだろうが――!」
いきなり重戦斧を振り回され、俺の頭上に刃が降ってきた。けれど、ルドミラが覚醒アマデウスを抜き、食い止めた。
鈍い金属音が響いて鼓膜が振動する。
この男、躊躇いなく攻撃を……!
「ラスティくんに手を出すな」
「ぐっ……女騎士! 男同士の戦いを邪魔をするんじゃねぇ」
「主を守るのが我が使命。この剣と盾に誓った」
片腕だけで重戦斧を弾くルドミラ。さすが馬鹿火力を持つだけある。あっさりと弾け飛ぶ斧は宙を舞って、やがて地面に突き刺さった。
「……ぬわッ!」
予想外だったのか周囲のギルドメンバーがどよめく。
「お、おい、ウソだろ!!」「アンノウンの斧を弾き飛ばした……」「あのビキニアーマーの女騎士、只者じゃないぞ」「ただの騎士ではないようだ」「あの顔、どこかで見た覚えが……」「私、ドヴォルザーク帝国で見たかも」
薄々とルドミラの存在が気づかれつつある。やっぱり、共和国でも有名人なんだな。
しかし、それよりも重要なことを聞けた。
そうか、この戦士の男の名は『アンノウン』というらしい。
「アンノウンの武器を弾き飛ばすとは、驚いたよ」
今度はフランクが俺の前に。
「あんたも戦うか?」
「いや、今の一撃で十分強さが理解できた。どうやら、アンタたちのレベルは相当高いと見た。となれば、アンタの背後をついていく方が良さそうだな」
「いいのか、優先権を貰っても」
「ああ。もともとは僕たちギルドが一番に入る予定だった。でも、このアンノウンが暴走しやがった。なら、いっそアンタたちに先行してもらう方がマシと考えたんだよ。だから、行ってくれ」
「フランク……とか言ったな。古代の魔法石は俺たちが貰ってしまうぞ?」
「僕は独り占めは考えていなかった。少し分けて貰えればいい」
なるほど、このフランクの考え方は違ったようだ。こっちと組む方が良さそうだな。
「ま、待ちやがれ!!」
そばで膝をついていたアンノウンが声を荒げた。
「まだやる気か? と、言っても俺はまだ指一本も動かしていないけどな」
「お前なんてどうでもいい!! 女戦士、お前が気に入った!!」
アンノウンは、完全にルドミラの方を見ていた。おいおい、マジかよ。
「私に何か」
「女騎士、俺ともう一度戦え! さっきのは油断していたんだ!」
「決着はすでについています。これ以上は不毛でしかありません」
興味ないとルドミラは剣を収めた。
呆然となるアンノウン。
そりゃ、そうだろ。
それよりも、ようやく幻影ダンジョンへ入れるぞ。
「では、私が先行します。いいですね、ラスティくん」
「任せたよ、ルドミラ。よし、スコルたちは俺の背後から離れるなよ」
遺跡の中へ突入していく。
少し歩いた地点でふと振り向くと……フランクが不敵に笑っていたのを目撃した。
……なんだ、この違和感。
それに、あのアンノウンって奴もなぜか冷静にこちらを見ていた。
ま、まさか……これは罠か?
「どうしたのですか、ラスティくん」
「ルドミラ!! 引き返せ!!」
「え……あぁぁぁっ!!」
直後、ルドミラの足元が崩れた。
地面が崩壊して大穴が。
俺も巻き込まれて落下していく。
く、くそ!! はめられた!!




