アルカディア42 エスズ
アリスと一緒にセイレン学園に戻るとそこにはミューダと騎士団長の他に何故かホークがいた。
「派手にやったみたいだね。」
「なんでいるのよ。」
「君のいるところなら、どこにでも僕はいるよ。」
キメ顔でそう言ったホーク。そして少し離れたところで見ていた生徒たちから黄色い悲鳴が上がる。
「はいはい。そういうのいいから。」
いつものように流すとプクッと頬を膨らませるホーク。
「むー。少しは反応見せてよー!」
その様子に少し小動物のような雰囲気を感じてしまった。
「あら、随分可愛い仕草もできるようになったじゃないの。」
ホークの膨れた両頬を片手の指で挟んでムニムニしてやる。すると最初は大人しかったホークだったが、私に顔を触られているという事実と可愛いという言葉がようやく理解できたようで急に赤くなった。
「エ、エスズ!?」
慌てて私から離れるホーク。そんなホークは置いておいてアリスの方を向く。
「これから王城に戻るけどすぐには来れないわよね?」
「はい。片付けもありますし。あと記録にもつけないといけませんし。」
「そう。じゃあ片付けだけ終わったら王城に来なさい。記録はそこでやればいいわ。」
そこで区切るとアリスの耳元に顔を近づける。
「そうすれば、書きたいこと書けるでしょ?」
恐らくアリスの心配していることの一つだろうと思いそういうとバッと私の方を見た。かなり近い距離でお互い見つめあっているとホークに引き剥がされてしまった。
「何よ。」
急に腕を引っ張られ、ホークを軽く睨む。
「なんでもないです。」
相変わらず顔は赤いがその表情は怒った子供のようでやはり可愛らしい。
「まぁいいわ。ホークも王城来るでしょ?」
「もちろん。君の口から何があったか聞きたいからね。」
その答えを聞いて私はホークの手を引っ張り馬車に乗り込む。
「僕を連れ込むのかい?嬉しいね。」
馬車の中に押し込まれるように乗らされたホークが嬉しそうにそう言った。
「その冗談、本当にしてあげようか?」
座っているホークに身を乗り出して顔を近づけ、右手を胸に左手を左足の太ももに置き、私の膝をホークの股の間に置く。
「えっ、いや、そんな急に・・・」
真っ赤になって慌てるホークをしばらく観察してからニコッと笑って馬車を降りる。代わりに騎士団長が乗り込んだことを確認してから扉を閉める。
「ミューダはどうする?」
馬車が王城に向かったことを確認してそう聞く。
「このまま王城に向かおうかと。」
「そう。じゃあ先に行ってなさい。少し屋敷に顔を出してから向かうわ。」
「かしこまりました。」
ミューダはそう言って軽く礼をすると、ザッと言う音だけを残して消えた。そして遠くの建物の上に目立つ黒い服を着た人の姿が見えた。
「さすがに制限がないと早いわね。」
屋外という邪魔される心配のない場所でならミューダも本来の力を出せる。そんな姿に感心しながら私も力を纏わせて浮かぶ。
「それでは、また王城で。」
ミューダの姿の消えてから唖然としているアリスさんにそう言って私はグンッと高度を上げて屋敷に向かって飛び始めた。
「エスズ嬢、今回は感謝申し上げる。」
屋敷に顔を出してから王城に到着次第応接室で待っていた国王がそう言って頭を下げた。
屋敷では久しぶりに顔見知りのお手伝いさんと再会できた。お母様やお父様は知らせを聞いてすぐにでもこちらに出発しようとしていたそうなのだが、モミジさんにまだやることがあるでしょうと捕まっているらしい。なんともモミジさんらしい。
「頭をあげてください。やるべきことをやっただけです。それに将来的に解決しなければならない問題だと認識していましたから。」
「そうか。そう言って頂けると助かる。」
私の言葉に顔を上げる国王。
「恐らく、行く意味があるのかという意見は消えるかと。ただ、人選に関してはもうしばらくは消えないと思われます。
「分かっている。・・・聖女か。」
国王が悩むようにそして呟いた。
「彼女はどうだ?その、力の使い方については。」
国王が言葉を選ぶ相手。間違いなくエリィのことだろう。
「まずは血になれるところという感じでした。その後は食堂で顔を合わせる程度で進捗は把握していません。」
「そうか。」
国王はそう言って黙ってしまった。周りで聞いている大臣達も気まずいらしく目を逸らす。
「・・・ここからは独り言ですが、」
このまま黙っていても何も変わらないだろう。そう思い、目を閉じて話し始めた。
「彼女には私やミューダのように向こうの学院の生徒がついていません。その代わり、彼女にはとある先生がついています。そしてその先生はあのサリスさんが段違いと表現するほどです。」
少しザワっとした室内。片目で見るとそれを国王が手を挙げて落ち着かせる。
「さらに言うと向こうの人はある程度の傷であれば力を使い治癒能力を高めることが出来るので使う必要がないとの事。なのでエリィがこの留学を通して私やミューダのような変化がするとは思えません。」
私の独り言はそこで終えた。そして何事も無かったように紅茶を飲む。
「ん?皆さんまだ居たんですね。」
「・・・すまないな。疲れているところ。今日はゆっくり休んでくれ。」
「ありがとうございます。」
飲み終えた紅茶を置いて応接室を出る。
「お疲れ様でした。」
外にはミューダとホーク、さらにアリスさんもいた。
「もう着いていたんですね。」
「はい。手伝おうとしたら王城に呼ばれているんだろうと学園の馬車で連れてこられました。」
まだ状況を把握しきれていない様子のアリスさん。
「とりあえず私の王城の部屋に行きましょうか。」
みんなを連れて王城の廊下を歩く。その間アリスさんはキョロキョロと見渡しながら歩いていた。
「ここです。」
ガチャと扉を開けて入る。そしてホークが横を抜けて入ろうとするのを手を出して止める。
「あんたはまだダメ。」
何を話すか把握しているミューダがホークを連れていってくれた。
「入って。」
アリスさんを中に入れ、外に誰もいないことを確認して扉を閉めて鍵をかける。
「あとは念の為」
私と向かいに座ったアリスさんを覆うように水の膜で覆う。
「これで外に会話が漏れることは無い。しばらく経って色々聞きたいこと出てきたんじゃない?いいわよ。答えられることなら答えるわ。」
そういうとアリスさんは私のことをまっすぐ見ながら聞いてきた。
「エスズさんは今、ゲームの世界と実感できることはありますか?」
アリスさんが聞いてきたことは少し想像と違っていた。
「ゲームの世界として実感できること・・・、この世界そのものがゲームの世界になるから難しいわね。だけど無いとは言えない。」
そう答えるとアリスさんが1冊の本を取りだした。
「この本は私がこの世界がゲームの世界だと実感できるものです。中を見てください。」
アリスさんに言われ、本を開く。そしてそこに書かれている物に私は目を見張った。
「これ」
驚いてアリスさんを見るとゆっくりと話し始めた。
「私の登場するゲームは育成ゲームでした。そしてその本は育成の画面で開かれる本です。1ページ目には私の育成数値が載っています。そちらの紙のはさんであるページを見てください。」
アリスさんに言われ、そのページを開く。
「・・・なるほど。」
開いたページには私の顔と名前、そしてズラっと並んだ数値が載っていた。
「確認だけど、あなたの登場するゲームに私は出てくるの?」
「いいえ。出てきません。」
「つまり、この本はありとあらゆる人の名前と数値を記録することができると。」
「恐らく。しかし、私自身がその人を直接見る必要があります。」
アリスさんがそう言って今度はノートを取り出した。
「私が調べた結果ですが、私自身がその人と対面で会話をした人物が記載されるようです。」
つまり、調べられる相手に制限はないということだろう。会話というのが課題になるが問題ない程度だろう。
「本当に、エルドラドに連れて行けないことが悔やまれるよ。」
アリスさんに本を返して私たちを覆っていた水の膜を解いた。




