アルカディア38 アリス
「さて、皆様落ち着いたところで質問のある方は手を挙げてくださいませ。」
何事も無かったように手を合わせたままそう聞いたエスズ様。
「では、私から聞かせてもらおう。」
そう言って出てきたのは生徒会長さんだった。
「どうぞ?」
「君から見てエルドラド皇国とアルカディア王国の差がどれくらいあると感じた?」
生徒会長が聞いたことは講堂にいる生徒全てが気になっている内容だろう。その質問を最初にするという行動ができるのは生徒会長さんらしい。
「差ですか。そうですね。」
少し言葉を選ぶように考えるエスズ様。
「まず、国民の生活の面でいえばアルカディア王国とエルドラド皇国では同じと言えるでしょう。皆が飢えることなく、学習をし、病の際は適切な治療を受けることが出来る。」
エスズ様の答えが予想通りだったのか満足そうな顔をする生徒が多くいた。
「しかしながら、あらゆる面で技術はエルドラド皇国とは埋めることの出来ない差があるでしょう。」
しかし、その後に続いた言葉に生徒達は言葉を失った。
「埋めることの出来ない差とは?」
「皆様の中に空を飛ぶ方法について知識のある方はいらっしゃいますか?」
エスズ様がそう聞いたが、正解を提示できそうな人はいなさそうだった。それならばと袖から出て答えた。
「現在アルカディア王国が所持している方法は飛行船を使う。または、騎士団に少数いる空を飛ぶことが出来る方の協力を受けると言ったところでしょう。」
「ありがとう、アリスさん。そこに追加するならば、飛ぶことの出来る亜人と契約を結ぶなのでしょう。つまり、アルカディア王国の国民が空を飛ぶことは出来ないと言って良いでしょう。」
「何が言いたい。」
生徒会長さんが少し不機嫌そうにそう聞いた。その様子を見て少し笑ったエスズ様。
「私が初めてエルドラド皇国に降り立った時、飛行船を移動方法として確立し、アルカディア王国では1隻のみの飛行船を何隻も保有しているということ。既に技術で差がありますが、今後の発展でこちらは追いつくことは可能でしょう。しかしながら」
エスズ様が壇上を歩き生徒会長さんを見下ろせるぐらいまで近づく。
「エルドラド皇国の人々は当たり前のように空を飛びます。」
エスズ様は凛とした声でそう言い切った。
「・・・それは、本当ですか?」
思わず聞いていた。
「ええ。本当です。エルドラド皇国に暮らす全ての人の中で空を飛ぶ手段を持たないものは全体の3割程。しかしながらその3割程の人々は空を飛ぶ必要が無いという人がほとんどです。ちなみに、この全ての人には我々よりも歳の低い子供たちも含まれております。」
嘘のような話だが、エスズ様が嘘をついているようには見えない。
「とはいえ、日常的に空を飛ぶという行為を移動手段にしている方は空を飛べる方の半分も居ないでしょう。」
エスズ様の言葉に安堵したのかホッとした顔をした人もいたが、隣にいる騎士団長は青ざめた顔をしている。
「では、エルドラド皇国の人々はどうやって空を飛んでいるのだ?そういった道具でもあるのか?」
そう聞いたのは生徒会長の隣にいた男子生徒。副会長だ。
「道具?そんなものありませんわ。空を飛ぶほど方法はただ1つ。自身の力ですわ。」
そう言ってエスズ様が両手を皿のように合わせて胸の前にあげた。すると両手の皿の上に水の球が生まれ、どんどん大きくなっていく。
「皆様ご存知のようにこの世界には魔力、エルドラド皇国では外力と呼びますが、今回は魔力と呼びましょう。このような力が存在します。皆様の中にも使える方はいらっしゃるでしょう。」
エスズ様の言葉を聞いてエスズ様を見つめる人が数多くいた。
「魔力は道具と同じです。使い方を学べばあらゆる面で有利になります。例えば」
エスズ様が生み出した水球を手の平で押し出す。ゆっくりと飛んでいく水球に生徒だけではなく先生まで見つめていた。すると突然水球が震え始め、壇の下に落ちた水溜まりを作った。
「え・・・」
落ちて広がった水が突然動き出して意志を持つように形を作っていく。
「このようなことも出来るようになります。」
作り出されたのは水の階段。エスズ様はその水の階段を使って壇を降りていく。
「さて、騎士団長さん?現在この国において今のような力を操ることが出来る騎士はいらっしゃいますか?」
壇の下に降りたエスズ様が振り返り騎士団長に聞いた。
「居ないな。」
迷いなくそう言い切った騎士団長。その答えを予想していたのかフッと少し笑うエスズ様。
「この力は、私が王立学園で学んだ力ではありません。エルドラド皇国に留学に行ったことで身につけた力と言って良いでしょう。」
そう言うと再び水の階段を使って壇の上に上がった。
「本題に戻りまりましょう。エルドラド皇国で暮らす人々は空を飛ぶことが出来る人が多い。そのため、街の作りもその影響を色濃く反映していましたわ。例えば街道に面するお店は全て多層建てとなっていました。そして全ての層にバルコニーのような構造がございました。皆様には何故あるのかお分かりになりますか?」
エスズ様の問に頭の中で想像してみたが全く理由は思いつかなかった。
「分からないと思います。わたくしもその光景を目にするまで思いつきませんでしたから。」
しばらく講堂内を見渡していたが答えが出てこないと判断したエスズ様が話し始めた。
「エルドラド皇国で暮らす人々は街道からそのバルコニーまで上がるのです。自身の跳躍力を使って。」
跳躍力、つまりジャンプで目的の階まで上がるということ。それがどれだけ異次元かは想像しなくても分かる。
「そんなこと、本当にできるのか?」
講堂からは多くの疑いの声が聞こえた。
「ええ。ミューダ。」
エスズ様に突然呼ばれて少しビックリしていたが、すぐに表情を作ってエスズ様の隣に立ったミューダ様。
「何をいたしましょうか。」
「そうね。天井に捕まればわかるんじゃないかしら?そこの床は強化してあるわよ。」
エスズ様がチラッと見た方に視線をやると床が濡れていた。
「かしこまりました。」
ミューダ様がその床の上に立って軽く膝を曲げたと思ったその瞬間、ミューダ様の姿が消えた。どこに行ったのかと見渡しているとエスズ様が講堂の天井を見つめていることに気がついた。その視線の先を見てみる。私の様子に講堂にいる生徒達も同じように講堂の天井を見つめ、そこに片手で掴まるミューダ様の姿を見つけて唖然とした。
「どうでしょうか。かなり速く動けるようになったかと思うのですが。」
天井に掴まったままエスズ様に向かってミューダ様がそう話しかけた。
「集中していれば影を捉えられる、といった感じね。悪くないんじゃない?」
ミューダ様の問にそう答えたエスズ様。
「そうでしたか。少し成長しましたね。」
体で反動をつけてエスズ様の隣に向かって飛び降りたミューダ様。これだけの高さから飛び降りたというのにその音はコッという乾いた音だけで着地した。
「今お見せしたのがエルドラド皇国にて学んだもうひとつの力の使い方。体の外に出すだけが力の使い道では無いという証明ですね。」
会が始まってから全てにおいてエスズ様の行動や発言に異次元さを感じていた。そして、私のように客観的な視点を持つことが出来ている人間は今エスズ様が披露しているのは持っている力のほんの一部に過ぎないと理解出来た。だが、最初からエルドラド皇国という国を見下していた講堂に集まる多くの生徒にとっては受け入れ難い事実だろう。
「でらめだ。」
そんな生徒が無意味な反論を始めることは想像しやすかった。




