アルカディア33 エスズ
村を出発して少したった頃、私はミューダを抱えて木の上の高さで飛んでいた。
「見えたわよ。」
先の方に城壁で囲われた街が見えてきた。
「お嬢様は来たことあるのですか?」
ミューダが、見えてきた街と私を交互に見てから聞いてきた。
「無いわね。誘われていたけど、その前に留学行くことになったから。ただ、絵では見せてもらったから。」
見えてきた街は一見すると普通の街並みだが、一際目を引く大きな木が街の中心に見える。
「なるほど。さすがは水の街レライアといったところですね。」
「アルカディアで知らない人は居ないだろうしね。」
街に向かう街道沿いには並行して川が流れている。陽の光を反射して光る水面を横目に見ながら徐々に高度を下げて街の入口が見えるぐらいで着地した。
「さて、手紙によると入口で待ってるって事だけど。」
今日の朝受け取った手紙にはホークが街の入口で待つと書いてあった。なので、ホークとその護衛が待っていると思っていたのだが。
「まぁ、あれですよね。」
ミューダが引き気味にそういった。私自身も呆れて何も言葉が出てこなかった。
「あんなに要らないでしょ。」
街の前には遠くから見ても分かるぐらいの人が整列していた。
「ホークさんらしいですが。」
「はぁ。」
切り替えて鞄からディーネさんが作ってくれたドリンクを取り出して飲みながら歩いていく。
「そういえば、お嬢様が飲んでるディーネ様が作っているそのドリンクですが、水はどこで取っているんでしょうか。」
「?どうしてそう思ったの?」
「紅茶は水が変わると味が変わると言うじゃないですか。なので効果も変わるのかと思いまして。」
ミューダの話を聞いていると急に空間に穴が空いてディーネさんが顔を出した。
「呼んだ?」
「いえ、呼んでは無いです。名前出ましたが。」
「そう?どんな話題?」
「水が変わるとドリンクの効果変わるのかって。」
私が話していた内容を簡単にまとめてそういうと、ディーネさんが少し考えこむ。
「ふむ。確かにその検証はしてなかったわね。ちょうどいいから試してみましょう。」
「それなら、あそこの街行きませんか?私の出身国の中で水の街と呼ばれているんですよ。」
そう言って目線で街を指す。
「なるほどね。それで水の話題が出たの。」
空間の穴から出てきたディーネさん。どういう原理か分からないが、フワッと浮かんで隣を移動し始めた。
「そういえば、どうして私たちがディーネさんの名前出したの気づいたんですか?」
「簡単な話よ。聞こえてるから。」
「私たちの会話がですか?」
「正確に言うとエスズの周りの音とか声だけね。それ以外は聞こえないけど。」
「つまり変な事言うと丸聞こえと。」
「安心しなさい。大体聞いてないから。」
「それはそれで問題ある気がします。」
いつも通りのディーネさんとそんな話をしていると整列している人達の先頭にホークがいることに気がついた。そして、ホークも私のことに気がついたのだろう。近づいてきた。
「久しぶりだね、エスズ。」
私のことを見て笑ったホークだったが、隣にいるディーネさんには警戒している様子。
「ホークも久しぶり。・・・背伸びた?」
以前から私よりも背は高かったが、何となく見上げる角度が上がったのでそう聞いてみた。
「わかるかい?気づいてくれて嬉しいよ!」
「でも、こっちは全然ね。」
そう言ってホークの胸にペタと手を置く。
「僕には不必要だよ。」
肩ぐらいの長さの髪を後ろで小さく一つにまとめた髪型に、低音の声。一見すると男のように見えるが、ホークは私と同じ女性だ。
「それで、えっと彼女は?」
ホークさんがディーネさんを見ながらそう聞いてきた。
「紹介するわね彼女は「ディーネよ。」・・・自分でやります?」
「警戒は解いておかないとね。改めて、私はディーネ。水の精霊と呼ばれることもあるわ。」
ディーネさんの自己紹介が終わったようなので私の方から補足をしようとホークを見ると、何故か唖然とした顔でディーネさんを見ていた。
「えっと、大丈夫?」
心配になりそう聞いてしまった。私の声でハッとしてホークが私の方に聞いてきた。
「あぁ、エスズ?彼女が精霊というのは、本当かい?」
「ええ。間違いないわよ?何かあったの?」
一度深呼吸をしたホーク。そこで気がついたのだが、後ろに並んでいる人もザワザワしている。
「エスズはその辺あまり詳しくなかったから知らないかもだが、ディーネ様といえば我々レライアで生まれ育ったもの達にとって知らないものは居ないだろう。」
「ディーネさん、そんな有名だったんですか?」
「さぁ?セイの次に生まれたくらいしか認識してないから。」
私自身があまりその辺の歴史に興味が無い影響か、よく分からなかった。ミューダに関しても同じらしい。ということでホークに聞いてみることにした。
「色々伝えたいことがったんだけどね。一先ず僕の屋敷に行こうか。」
少し悩んだ後そう言って歩き始めた。
「伝えたいことってなんだったの?」
少し歩く速度を上げてホークの横に並ぶとそう聞いた。
「うーん。今話しても上手く伝えられないと思うんだけど、聞く?」
「聞く。ホークがわざわざ出てきたということはそれだけ急ぎで伝えようとしてたわけでしょ?」
そういうとホークが嬉しそうに私の方を見た。
「そこまでわかるの!?エスズは本当に僕のことよく見てるよね!」
「はいはい、そう言うのいいから。」
適当に流すと不貞腐れたようにそっぽ向くホーク。
「つれないな。みんなこうやって言うと嬉しそうな顔してるのに。エスズは本当に僕に堕ちないよね。」
「勝手に堕ちられた私の気持ちを考えて欲しいものね。」
ホークに向かってそう言ってやるが、嬉しそうに私のことを見てくる。その反応にため息しか出なかった。
「まぁ、あの時のホークはとても可愛かったけど。」
フフっと笑ってやるとホークの顔が一気に赤くなった。
ホークはレライアを統治する家の長女として生まれ育ったそう。兄が3人いて家としては初めての女の子だったせいか大分きっちりとした教育を施されたらしい。そんな時に逃げ場になったのが兄たちのところでそんなことを続けていたら今のホークが完成したそう。大分女誑しの兄がいたものだ。とホークに言ったことがあったが、ホーク自身が言うには立ち振る舞いは兄から学んだが、性格は昔から変わっていないとの事。
「あれは、その・・・」
「何?別にあれがきっかけじゃないでしょ?」
「・・・完全に堕ちたのはあれが原因。」
先程から出ている「あれ」というのは学園でホークが私を堕とそうと頑張っている時のこと。魔力の授業中、同じ授業を受けていた子のひとりが制御に失敗してホークに向かって暴走した魔力が飛んでいく事故があった。その頃の私はサリスさんや、モミジさんから手斧の攻撃方法や身体強化の方法など色々教わっていたのでホークに向けて飛んでいく魔力を手斧を投げて防ぐことは簡単だった。
「だって、飛んでくる魔力に恐怖で動けなかったんだよ?それを防いだうえに呆然とする私に一言『大丈夫?』だよ?しかも、座り込んだ私に目線合わせて。堕ちないわけないじゃない。」
話している途中から一人称が変わっていたが、気にしないでおく。
「はいはい。それで?本題から大分ズレたわよ。」
「・・・そうだった。」
一度深呼吸をしたホークが歩きながら話し始めた。




