エルドラド8
翌朝、カーテンを閉め忘れていた窓から入る光で目を覚ました。
「んー、よく寝た。」
ボーッとしたあと、私は自分の口に指を当てた。昨日の感触を未だに忘れていなかった。
「勢いとはいえ、大分思い切ったことしたな。」
思いっきり伸びをしたあとベッドから降りた。服を着替えていると、部屋をノックしてリャナが入ってきた。
「おはようございます。お嬢様。」
驚いたことに入ってきたリャナは目の下に隈をつくり明らかに寝不足なことが分かる。
「お、おはよう。その隈どうしたの?」
「あ、いえ。昨日のあれが何故か気が付かれてたみたいで。」
リャナはそう言うと自身の口に指を当てた。
「えぇ、どこで気づいたのよ。」
「さすがに分かりませんね。ふわぁ。」
明らかに眠そうなリャナをこのまま行かせるわけに行かないので、ススっと近づいてリャナを抱えるとベッドに寝転がした。
「お嬢様!?」
慌てるリャナの横にモゾモゾと潜り込む。
「少しくらい寝坊しても大丈夫だよ。」
私が優しくリャナの頭を撫でていると、だんだん目がトロンとしてきた。そこから眠りにおちのにそこまで時間はかからなかった。
「ふふ、おやすみ。」
寝息を立てるリャナを起こさないようにベッドから出る。ゆっくりと部屋を出た私は、冷たい笑顔を浮かべながら食堂まで歩いた。食堂のドアをノックし中に入ると予想通りお母様がそこにはいた。
「おはよう。サリスよく眠れ、た・・・」
「ええ、”私”はよく眠れましたよ。」
私の笑顔を見て冷や汗を流すお母様。まぁこれで伝わっただろう。いつも通りの笑顔に戻すとちょうどお父様たちも入ってきた。
「ああ、そうだ。サリス、今日午後にあの子が来るそうだ。」
「そうなんですか?」
「昨日、書状が届いてな。夜渡そうと思ったんだが、それどころじゃなかっただろ?」
若干お母様の方をチラチラ見ながらそう言うお父様。
「わかりました。じゃあお母様、そちらには行けそうにないですね?」
「大丈夫よ。またの機会にしましょう!」
おそらくお母様は私と2人になるのが怖いのだろう。別に何もしないのに。
「それじゃあ、みんなに伝えてくおくから。」
お父様はひと足早くご飯を食べ終え、食堂を出ていった。お兄様もやることがあるからと出ていった。それに続いて私も食堂を出ようた立ち上がった。
「あぁ、そうだ。お母様?今後は程々にお願いしますね?」
食堂を出る前にお母様に向かってそれだけ言っておいた。
「わ、わかっていますよ。」
少し焦ったような反応を見せたお母様。
「それでは。」
軽く頭を下げたあと、私はリャナが寝ているであろう自室に戻った。部屋に入るとリャナが掃除をしている真っ最中だった。
「あっ、お嬢様。先程は失礼しました。」
「大丈夫だよ。それよりも、体調は?」
「お陰様で、眠気も無くなりましたよ。」
「それは良かった。」
私はベッドに腰掛けてリャナの邪魔にならないようにした。
「そうだ、今日の午後にラースナー様が来るそうですよ。」
「えっ?そうなんですか?」
多少驚きながらも、掃除の手を止めないのはリャナらしい。
「昨日、の夜伝えようとしたみたいだけどね。あんなことがあったから、いえなかったんだって。」
「・・・あの状況じゃ仕方ないですね。」
どんどんと掃除を進めていくリャナ。その手を見ていた時ふとリャナがご飯を食べてないのではと思った。
「ねぇ、リャナってご飯食べた?」
「いえ、まだです。これが終わったら、食べに行きますよ。」
「そっか。じゃあ、持ってくるよ!」
私はそう言うと、部屋の外まで一瞬で移動した。
「止められる前に動いちゃえば問題なし。」
ササッと調理場まで来た私はひょこっと中の様子を確認してみた。すると、料理の仕込み中をしている料理長がいた。
「おや?どうしたんだ?お嬢がここに来るなんて、珍しいな。」
「リャナの分のご飯余ってないかなと思って。まだ食べてないみたいなんです。」
「リャイヤナ嬢か。確かに今朝は見てないな。」
「昨日の夜、お母様と色々あったみたいで。そのまま仕事させるのも申し訳ないから少し寝かせたんです。」
「そういうことだったか。うーむ。作ってやりてぇが、余ってたのはほかの嬢達が食っちまったし、食材も買い出しに行ってもらってて丁度よさそうなのも無いんだよ。」
「そうなんですか・・・」
料理長と一緒に食材の保管庫を除くと、朝に食べるのは少し重いものばかりだった。
「んー・・・。仕方ありません、私がつくります!」
ある分の食材を見繕っていると、料理長が驚いた顔をした。
「作るって、お嬢料理出来るのか?」
「一通りは。多分出来ると思います。それに、作ろうとしてるのは昼まで待たせるだけの簡単な料理ですしね。」
取り出してきた食材を机に並べると、前世の記憶を思い出すように深呼吸をした。
「よし・・・。」
気持ちを落ち着かせた私は慣れた手つきで料理をし始めた。
しばらくした後。机の上にはドライフルーツを記事に練りこんだパンが載っていた。
「うん!焦げもないし、綺麗に焼けてる!」
「俺もお嬢も頑張ったからな!持っててやりな。」
料理長がカゴに焼きたてのパンを入れてくれた。そのカゴをもって部屋に戻ると、掃除を終えたリャナが椅子に座っていた。
「お疲れ様。掃除終わったの?」
「はい。先程終わりました。」
リャナの前にカゴに入ったパンをスっと置いた。
「余ってたのだけどね。貰ってきた。」
パンをカゴから取り出して、少しかじるリャナ。その様子を見届けたあと、私は棚に隠してあった今まで調べてきたことが書いてある紙を取り出した。リャナの向かいで調べたものを整理していると、視線を感じ顔を上げた。
「何か気になることあった?」
「あ、いえ。改めて前世の記憶があるんだなーと思いまして。」
「?」
リャナはそう言うと私の手元にある紙を指さした。
「文字、違いますよね。前世に頃の文字ですか?」
そう言われて気がついた。適当にまとめた紙には乱雑だが、日本語が書き記されている。
「・・・完全に無意識だよ。」
日本語が書かれた紙ををこのまま置いておくのは危険だろう。そう思い私は新しく取りだした紙に、この世界の文字で書き写した。
「よし。あとはこれを。」
一通り書き写したあと、私は日本語が書き記されている紙を手に取ると、紙に向かって力を流した。すると、紙は一瞬で凍りついた。
「お嬢様、何を?」
リャナがそう聞いてきたが、答えるよりも見せた方が早いだろう。持っている紙に再び力を流すと、氷にヒビが入り、粉々に砕け散った。破片は一つ一つがどんどんと細かくなり、目に見えなくなった。
「処理完了。」
「すごいですね。もう、そこまで使いこなせているんですか。」
私のやった事に少し驚いているリャナ。使いこなすと言ってもこれなら流すだけなので、簡単だろう。
「これくらいならね。」
リャナも私が書き写している間にパンを食べ終えたようで、片付けをしていた。ふと、外を見ると日が真上付近まで昇っていた。意外と、時間がたっていたらしい。
「もうそろそろお昼になりそうだし、リャナも行こうよ。」
パンの入っていたカゴを持つと、リャナの手を取って部屋を出た。食堂に行けば、予想通りご飯の準備が進められていた。そのお手伝いをしていると、お母様達も入ってきていつも通りのお昼ご飯になった。