エルドラド52 エスズ
エルドラドの周期休みが始まって数日。
「さて、ミューダ?準備はいい。」
「はい。いつでも出発できます。」
学院の正門前に空が明るくなり始める位の時間に集まった私とミューダ。
「それにしても、まさかこの時間なのに見送りがあるとは。」
私とミューダ以外に1人サリスさんのメイドであるリャナさんがいた。
「本当はお嬢様が来る予定でしたが、急用が入ったとのことで急遽私が。」
そう言ってリャナさんが手のひらサイズの箱を渡してきた。
「これは?」
「私のアンカーとサリスさんの結晶です。何かあれば知らせて欲しいとの伝言です。」
「わかりました。」
箱を受け取ると荷物の中にしまう。
「行ってらっしゃいませ。」
リャナさんが少し離れたことを確認してフウカを呼ぶ。
「よろしくね、フウカ。」
「お任せ下さい。」
バサッと羽ばたくとフウカがミューダの持っていた棒を掴む。棒には縄で結ばれた簡易的な椅子が着いていた。そこにミューダが座る。
「それでは。」
ミューダと私の荷物2つを持ち上げると力を使い浮かび上がる。そのまま高度を上げていき、アルカディア王国に向けて飛び始めた。
「どれぐらいで到着する予定なんですか?」
飛び始めてから少し、ミューダがそう聞いてきた。少しスピードを落としてミューダの隣に移動する。
「大体3日。今日中にアルカディア王国内の村に入る。その後、国境から近い街に移動してから王都に手紙を出して帰っていることを伝える。多分聞きたいこともあるだろうから反応あると思うから、そこで1日待機。反応なければ、そのまま家に帰る予定。」
「国境から近い街と言うと、学園でよく一緒にいらした、ホーク様の街でしょうか。」
「ええ。帰るという連絡をしていない以上滞在できるかは分からないけど。」
日に照らされながら飛んでいると僅かに力に揺らぎを感じた。
「結界を出たみたいね。私は高度下げるわね。」
「お嬢様だけがですか?」
少し心配そうな顔をしたミューダ。
「ええ。力をもう少し上手く使えれば問題ないんだけど、結界の外は力が分散して高度高いと安定しないのよ。」
そう言っている間にも飛んでいる速度が意図せず変わっていた。
「見える範囲には居るようにするから。」
そう言い残してゆっくりと高度を下げていき力が安定する高さで飛び続ける。時々上空を見るとフウカの大きな影を確認できた。
「エスズさん、前方に川と対岸に村が見えてきました。」
途中で休憩を挟みながら飛び続けた。日が傾き、空が赤くなってきた頃、フウカが高度を下げてそう報告してくれた。
「王国に近づいてきたかな。そろそろ歩いて行こうか。」
近くの街道を見つけると、そこに降りた。
「このまま飛んで入らないのですか?」
ミューダに荷物を渡すとそう聞かれた。
「さすがに王国の貴族とはいえ、別の国の国境から入るんだから、飛んで入ったら騒ぎになるでしょ。」
「その程度であれば特に問題ないようにも感じますが。」
「余計な苦労はしないためよ。」
少し歩けば橋が見えた。そして、その先にある国境を隔てる門も。
「そういえばフウカさんは?」
「フウカは後で合流よ。残念ながら、通るのに必要な書類の用意がないから。」
橋を渡り、王国に入るための検査を待つ人達の列に並ぶ。
「意外と入国する人多いんですね。」
「そうね。ただ、この列に並んでる人は全員王国に住んでいる人よ。」
「そうなんですか?」
「ええ。エルドラドの人が外に出るのは稀だからね。大体国内で手に入るし。外に行く時はわざわざこんなとこ通らないだろうしね。」
そんな話をしていると私たちの番が来た。
「はい。証明書。」
警備の人に書類を渡すと一瞬ギョッとした顔をしたが、すぐに真顔に戻り手続きを進めていく。
「お待たせしました。どうぞ。」
警備の人から書類を受け取ると、村の中に入る。ミューダも無事に通ったのを確認してから私たちは村の宿屋に向かった。
「とりあえず予定通りですかね?」
村の中心にある宿屋の1番広い部屋で休みながら話し合う。
「そうね。来る途中に手紙も出てきたから明日の昼ぐらいにこの街を出られればちょうどいい時間に街に入れるんじゃない?」
持っていた地図を使って大凡の時間を計る。
「では、明日はゆっくりと休めそうですね。」
「そういうことよ。」
早起きの上、まだ慣れていない形で力を使い続けたせいか、かなり疲労が溜まっていた。部屋についているお風呂で体を流して、ベットに入り、眠りにつくまでそう長くはかからなかった。
「ん」
窓から入ってきた陽の光で自然と目を覚ました。
「おはようございます。ご飯できていますよ。」
起きた私に気がついたミューダがそう言って近くの机に朝食を置いてくれた。
「そういえば、先程手紙が届きまして。」
ミューダが届いたという手紙を開いて見せてくれた。
「ずいぶん早かったわね。」
「すぐに返信を欲しいみたいでして、下で持って来て下さった方がお待ちしてますよ。」
「早く言いなさいよ。」
ご飯を食べる手を止めて手紙の内容を読みながら隣で返信を書いていく。
「これ、お願い出来る?」
「かしこまりました。」
書き終えた手紙をミューダに渡すと足早に部屋を出ていった。
「ふう。」
一気に目が覚めた。
服を整えて残っていたご飯を食べ進めているとミューダが帰ってきた。
「髪整えますね。」
ミューダに髪を整えてもらいながら地図を見ながらどれぐらいで目的の街まで到着出来そうかを考えていた。
「宿の方は10時頃までに出ないといけないそうですが、そのまま向かいますか?」
「そのまま向かうと早くつきすぎるのよね。歩くと少し遅くなるし、乗り合い馬車もあまり乗りたくは無いし。」
「それでしたら、こちらのお店どうでしょうか?」
ミューダがそう言って差し出してきたのはお店の広告紙だった。
「カフェ?」
「はい。しばらくゆっくりできそうでしたので貰ってきました。」
メニューと一緒に簡単な地図がのっていたが、そこまで離れた場所にあるお店と言う訳ではなさそうだった。
「そうね。ここでゆっくりしてから出発しましょうか。」
ちょうどミューダが私の髪を結び終えたので服を持って影に移動して手早く寝間着から着替える。
「よし、どう?」
変装用の服にエルドラドで買った髪の色を変える髪留めと貴族のエスズを知っている人から見ても分からないだろう。
「髪の色が変わるとかなり印象変わりますね。」
「普段一緒にいるミューダから見てもそう感じるなら大丈夫そうね。」
鏡に映る自分自身を見ながら変なところがないかを確認する。
「ミューダも似合ってるわよ。」
「光栄です。」
普段はカチッとした服装が多いミューダだが、今日は私に合わせてラフな服装となっている。まぁ、雰囲気までは隠せなかったが。
「じゃあ荷物まとめましょうか。」
2人で手分けして荷物をまとめていき、部屋を出ないといけない時間の15分前に宿を出られた。
「荷物半分持つわね。」
目的のカフェまで歩き始めた時、ミューダが持っていた私の分の荷物を受け取る。
「本当ならば主に荷物を持たせるのはいけないんですよ?」
「わかって言ってるでしょ?いくら変装してるとはいえ、荷物を全部持たせて前歩いてたら怪しまれるわよ。」
「それでもです。」
それだけミューダが私のことを慕ってくれているということなので嬉しくはある。
「こちらですね。」
路地に入ったところにある小さなカフェだった。
「結構混んでるかと思ったけど空いていて良かったわね。」
「そうですね。」
広告紙に載っていたメニューを想像しながら扉を押して私たちは中に入るのだった。




