エルドラド47 エスズ
ヴァーナとエルドラドの戦い。正直、エルドラドの人達の強さと私たちアルカディアの騎士たちの戦力差がかなりあると思っていた。だが、始まってみると攻撃は一方的だが、その効果はあまりないように感じた。
「意外と差は無い。そう思ったか?」
戦場を見ていた私とミューダにエルドラドのキース団長が話しかけてきた。
「今攻撃をしている騎士たちは全員力の半分ほどで攻撃をしている。」
「そうなんですか?」
「ああ。全力でやっても良いがな。サリス様がいる以上我々が全力を出して攻撃するよりもサリス様が全力を出す方が早く済む上にこちらの消耗も抑えられる。」
サリスさんは先程からヴァーナの指揮官と見られる男と対峙している。
「ちなみにだが、サリス様が我々騎士団からなんて呼ばれているか知っているか?」
ちょうどサリスさんがヴァーナの男に攻撃を始めたところでキース団長がそう聞いてきた。
「いえ、あまりそういった話はしなかったので。」
「だろうな。サリス様は特に気にしていないが、とある奴があまり良い顔をしないからな。」
そう言ってチラッと見たのはアルカディアにサリスさんの護衛としてきていた騎士のメールさんの方だった。
「どうせ聞こえてるんだろうがな。」
キース団長が呆れたようにそういうと、メールさんがチラッとこちらを見た。
「まぁ、お前たちなら問題ないだろう。」
そう言うとキース団長はサリスさんの攻撃する姿を見ながら話し始めた。
「あの方はな、かなり合理的な考え方をする。」
「そうですね。それはよく知ってます。」
「そうか。随分信頼されている。」
少しだけキース団長の雰囲気が緩んだ。
「さらに言うと年齢の割にかなり達観している部分も多い。故に周りからは冷酷に見られることも多いがな。」
キース団長の言葉には心配するような雰囲気を感じた。
「しばらく近くにいれば本当のサリス様を知ることが出来るが、それが簡単にできる立場に居ないのも問題だろう。」
「ですね。私は留学中に知った感じです。」
「同年代のそう言う子ができたのは嬉しいよ。これでも子供を持つ父親として子と同じか幼い歳の子があのような状況にいるのは心配だからな。」
余計な心配かもだがと笑うキース団長。
「皇帝の盾と矛について聞いたことはあるか?」
「いえ、初めて聞きました。」
「そうか。皇帝にはな、盾と矛と呼ばれるものに守られている。皇帝を攻撃するにはそのふたつを超える必要があるというのが皇国の常識だ。」
「盾と矛・・・。」
「その盾と矛なのだがな。ある一人の人物を指しているんだ。」
キース団長がそこまで言ったところでその先は察することが出来た。
「それがサリスさんという事ですか。」
そう言うと、キース団長はゆっくりと頷いた。
「『皇妃になるということは皇帝の盾となり、矛となる』これがこの国で皇帝の隣に立つものが持つ覚悟だ。本当はもう少しあるがな。」
「だから皇帝の盾と矛なんですね。」
そう聞いてみるとキース団長は首を振った。
「確かにその言葉入っているが、通常なら皇帝の盾と矛になることは無い。本来は盾と矛であることを隠して皇帝の近くにいることが出来る役職に着くことが多い。実際今の盾と矛もそうだな。」
「そうなんですか?」
「ああ。皇妃が皇帝の盾と矛になったのは長い歴史のあるエルドラドでも過去に1度だけあっただけだ。しかもその記録は何代も前の記録だ。」
そういったキース団長の顔は少しだけ悔しそうだった。
「我々がサリス様よりも強ければあんなふうに呼ばれることは無かったのだろうな。」
その時何かが割れるような音がした。
「始まるな。避難するぞ。」
キース団長がそう言って城壁を降りた。私とミューダもキース団長について行き入ったのは城壁の内部に作られた人が数人入れるぐらいの小さな部屋だった。
「ここは?」
「見張り所だ。」
部屋にある窓からは外の戦場が見えた。
「そういえば、ほかの騎士たちはどこに行ったんです?降りてくる時見えなかったんですが。」
「今は地下に作ってある避難所に全員入っている。」
「避難所?何から避難するんです?」
「見ていれば分かるさ。」
そう言われて私は窓から外の戦場を見ていた。
「始まるぞ。」
キース団長の言葉と同時に戦場にいるヴァーナの騎士たち全員が小さくだが体を震わせた。
「え?」
本当に一瞬の出来事だった。先程までヴァーナの騎士たちが立っていた場所全てが氷でできた花に覆われていた。
「この光景を初めて見たある騎士が言ったのがサリス様の我々からの呼び方だ。」
キース団長は一呼吸置いてから口を開いた。
「緋花姫とな。」
キース団長の言葉の通り、サリスさんの後ろ姿は姫と呼ぶのに相応しいほどとても美しかった。そして、サリスさんの浮かぶその下には赤い花畑が広がっている。
「さて、行くか。こうなってしまえば戦場に降りても問題ないだろう。」
そう言うとキース団長が部屋を出ていく。それに続いて私達も部屋を出ていくと、ちょうど他の騎士達が避難所から出てくるところだった。
「なるほど、これは確かに避難所を作ったのは正解かもしれません。」
先程から周辺を見渡していたミューダがそういった。
「何か見つけた?」
ミューダにそう聞くとある方向を指さした。そちらを見てみると、箱の上に咲いた花が見えた。
「あの大きさだと誰か水筒でも置き忘れたか。避難所の中は力を遮れるが外だとああなるんだ。その辺何とかできないかと聞いたこともあったんだがな。」
慣れた様子のキース団長。恐らくいつもの事なのだろう。
「これよく見ると赤い花じゃなくて染まってるだけなんですね。」
戦場を歩いているとミューダがそう聞いてきた。
「そうね。じゃあミューダ。その赤い液体、なんだと思う?」
私がミューダの方を見ることなくそう答える。
「これをなんの躊躇いもなく一瞬で出来る人と話すことになるけどどう?」
ミューダにそう聞いてみる。
「そう、ですね。正直怖いよりも興味が勝ってますね。」
そう言って笑うミューダ。
「ふふ、貴方も大分エルドラドに染まってきたんじゃないの?」
「そうですかね?」
そんな話をしていると、サリスさんの姿が見えてきた。
「んよっと。」
ふとそんな声が聞こえた。振り返るとディーネさんが丁度空間に空けた穴から出てくるとこだった。
「久しぶりの雰囲気で顔出したけどまた派手にやったわね〜。」
フワフワ浮きながら私の横まで飛んできたディーネさん。
「元気?」
「どう見えますか?ディーネさんとの約束通り欠かさず飲んでますが。」
ディーネさんは観察するように私の周りをクルッと浮かんでまわる。
「問題無しね。」
そう言って満足そうに笑った。
「それで?どういう状況?」
サリスさんは何故かセイさんを膝枕した状態で私たちの方を見ていた。
「私が知りたい・・・」
珍しいサリスさんの困惑顔を見ることが出来た。
「降りてきた瞬間セイが『疲れました、膝枕してください』って言ってきて。言われるがままやったけどやった後に今の状況客観的に見て困惑してる。」
まぁ、戦場だった場所のど真ん中で膝枕をしているのだから仕方ないだろう。
「あー、原因私かも。」
そういったのはディーネさんだった。
「ほら、最近エスズとよく一緒にいるじゃない?その時に色々話聞いてたんだけどその話をセイにする機会あったのよ。」
「なるほど。」
そう言うとまだ困惑してそうな感じだったが、嫌では無いのだろうセイさんの頭を優しく撫でていた。




