エルドラド46
お互い武器を構えない状態で睨み合っている。その様子に付近のヴァーナの軍隊員が動きを止めていた。
「一つ、聞いてもいい?」
「話すことは無い。」
「いいじゃないの。どうせ私か貴方、どちらかが死ぬまでこの戦いは終わらないんだもの。こっちも聞きたいことには答えるわよ?」
そう言うと渋々と言った感じで頷いた。
「どうして攻めてきたのよ。もう少し時期を待てばもう少し戦いやすかったんじゃないの?」
エルドラドとヴァーナを挟んでいる川。元々あった川はそこまで大きな川ではなく、エルドラド側が力を使ったり、地下水が川に流れやすくなるなどして現在の大河に変わっているのだ。そのため、川の上流の降水量が極端にへる期間が定期的にあるため、その期間中は川の幅が通常よりも狭くなる。その時期を待てばどちらの国からも攻め込みやすくなるのだ。そして、次の期間は予想では数十日以内となっている。
「・・・待てなかった理由があるんだよ。」
悔しそうにそういった。
「ふーん、そんなに大切にしてんだ。あの女のこと。」
私がそう言うとリフターの目の色が変わった。
「お前か!あの女を殺したのは!」
「ええ、そうよ。ああ、そうだ。聞きたいことは1つにしてちょうだいね。」
余裕のある態度でそう言ってやると、リフターは悔しそうな顔をした。
「目的はなんだ。」
「特に何も無いわよ。」
「なに?」
リフターが動揺したのがわかった。
「なんか面白いことしてるって情報手に入れたからちょっと刺激してみようくらいの感覚よ。そこまで大きな目的は無かったわ。」
実際には理由があったが、今の状況でわざわざそれを話す必要は無いだろう。
「そうか。」
諦めたようにそういったリフター。だが、攻撃を仕掛けてきたのはリフターではなかった。
「ありがとね。」
私の背後から斬りかかってきた顎を覆う兜をつけた騎士。しかし、その騎士の剣は一本の剣により防がれた。
「うぅ、ごめんなさい!サリス様が怪我されると隊長が怖いんです!せっかく攻撃したのに防いじゃってごめんなさい!」
何故か泣きながらそう言っている相対する騎士とは真逆の私服のような格好で両手に短剣を持っている女性が1人。
「私じゃないんだ。まぁ、いいけど。」
私のことを守ったのはメールの部下のニセス。主に私の隠密護衛をやってくれている。
「止められるか。予想はしていたが。」
特に驚いた様子もないリフター。
「そりゃそうよ。これでも周囲は警戒してるもの。貴方もそうでしょ?」
武器は構えていないが、見る人が見れば武器の下ろし方がすぐにでも構えられるように下ろしているのが分かる。
「ごめんなさい!」
私の背後でニセスが斬りかかってきた騎士の首を切り落とした。根元まで使わないと綺麗に切れるはずがない短剣、しかも首を鎧で防御していたはずなのに。
「さて、次は誰が来ますか?」
切られた騎士の首から溢れ出た血が雨のように降り注ぐ。そんな中で私は氷で作りだした傘を使って血の雨が降る中リフターにそう聞いた。
「消耗させられればと思ったが、難しそうだな。」
そう言ってリフターが剣を構える。
「そうね。消耗戦に持ち込むと不利になるのはあなた達のほうね。まぁ、既に状況は私たちの方が有利だけど。」
そう言うと軽く地面を蹴って浮かび上がる。それと同時に氷の結晶を三つ展開しておく。
「じゃあ御手並み拝見。」
槍を横に振り抜く。それと同時にリフター目掛けて無数の結晶が飛んでいく。
「防がれるよね。」
かなりの量をリフターに向けて放っているが、どれも効果は見られない。
「ただ飛んでくるだけの攻撃など効くわけない。」
どうやら話す余裕もあるらしい。
「みたいね。」
槍を持っていない方の手をスっとリフターに向ける。すると、先程まで完全に防いでいたリフターに結晶があたった。
「じゃあ、これでどう?」
私がやったのは作り出すときの力を増やしてただ結晶の硬さあげただけ。
「あたったね。じゃあ硬さはこれくらいか。次、速度だね。」
そう言うと今度はリフターに飛んでいく氷の結晶の速度が上がった。
「くそ!」
全ては防げず、着ている鎧に傷をつけていく。
「・・・せっかく楽しんでるのに邪魔ね。」
リフターに向けていた結晶の一部を私に向けて攻撃しようとしていた部隊に向ける。一瞬にして飛んできた無数の結晶に体を貫かれ肉片となって戦場に飛び散った。
「ほらほら、早く私のこと殺さないと全滅しちゃうよ?」
リフターに向けて攻撃をしながらも、数個の結晶を操って戦場に肉片を増やしていく。
「させるかぁ!」
リフターが飛んでくる結晶に構うことなく地面を蹴って私に向かって飛び上がってきた。
「死ねぇ!」
私の首を斬り落とす軌道で剣が振られる。
「ふふ、残念でした。」
リフターの剣はしっかりと私の首があった場所を斬った。だが、リフターが切ったのは既に氷の像となっていた私の首だった。
リフターの体を自分の腕と氷で作り出した腕を使いしっかりと捕まえる。
「さよなら。楽しかったわよ。」
結晶を一つだけ作り出すと、リフターの心臓を貫くように放った。リフターの体を貫き、肉塊に変えた結晶はそのまま角度を変えて空に飛んでいく。
「戦場って言葉はあんまし好きじゃないな。」
ポツリと出た言葉。その言葉に反応するように空に飛んでいった結晶が盛大に音を立てて割れた。
「でも、この景色は好きなんだよな〜。」
キラキラと光を反射しながら戦場に落ちていく結晶の破片。戦場にしばらくの静寂が訪れた。城壁からも攻撃が止まり、ヴァーナの騎士たちも落ちてくる結晶片を見ている。やがて全ての結晶片が地面に落ちて戦場には元の景色が広がっていた。
「さて、始めましょうか。」
リフターだったものが地面に落ちていき、鈍い音を立てる。静寂の中によく響いたその音から何が起こったのかをヴァーナの騎士たちは悟ったのだろう。それまでとは戦場を覆う雰囲気が変わっていた。
「あら、意外と心折れる人少なかったわね。」
大体の敵は指揮官を失うと逃げたりその場で絶望したりと適度に散らばってくれるのだが、ヴァーナの騎士達は相当訓練されているようで、指揮官を失ったにも関わらずそれぞれ部隊で固まっている。そして、空中に浮かぶ私を狙っている様子。
「もうちょっと戦場に散らばってれば綺麗にできたんだけどな。」
少し想定とは違ってしまったので残念だが、やるしかないだろう。
「セイ、おいで。」
そう言うと、私の隣にどこからともなくセイが出てきた。
「久しぶりの全力ですね。」
セイが私の手を握りながらそういった。
「そうね。セイと一緒になってからは二回目かな?」
セイを通して戦場全体に散らばった私が散りばめた氷や、私の飛ばした氷が溶けた水の存在が伝わってくる。
「作りましょ〜"赤い氷の花畑"〜」
花歌を歌うような声色でそう呟くと、セイを通して伝わってきた氷や水全てを操り、それぞれの付近にいるヴァーナの騎士達を襲っていく。と言っても目に見えないような結晶片にして襲っているため、ほとんどの騎士たちが気づかずに小さな切り傷を付けられた。けれど、私の目的はその切り傷を作ること。力の纏った結晶片で傷をつけたので傷口から血液に私の力が流入。そうなってしまえばあとは簡単だ。
「相変わらず、母様の作り出すこの景色は綺麗ですね。」
セイがそう言った眼下では戦場のあちこちで氷の花が咲き乱れていた。高さや花の広がりなど統一性はないが、一つだけ。
咲き乱れている花はその全てが赤く染まっていた。




