エルドラド45
「あれがヴァーナ衛星国の軍隊ですか。」
エスズが城壁の上から見下ろすようにして遠くに見えるヴァーナ衛星国の軍隊を見てそういった。
「答え合わせとしては半分正解かな?」
エスズが予想した地点からヴァーナの軍隊は渡ろうとしていたが、上流で川の水を堰き止めて渡ってきた。
「壊さないんですか?」
エスズがそう聞いてきた。
「壊してもいいけどね。」
騎士さんが堰き止めている地点を偵察してきてくれたが、私が出るまでもなく壊すことは可能だろう。
「でも、それじゃあ意味ないんだよ。」
よく分からないと言った表情のエスズを横目に向かってくるヴァーナの軍隊を見ていた。
「サリス様、少しよろしいでしょうか。」
キース団長がそう話しかけてきた。
「いいよ。何かあった?」
「少し気になる報告がございまして。」
そう言ってキース団長が手を差し出した。私がその手に触れると、頭の中にひとつの景色が浮かび上がってきた。
「今、前線を見張っている者の視界です。見ていただきたいのは敵の先頭です。」
言われるがままそこを見てみると、周りの兵士とは明らかに異彩を放つ鎧を身につけた者が先頭を進んでいた。
「確かに気になるね。どうする?少し刺激してみる?」
そう聞いてみると、キース団長は少しだけ嫌そうな顔をした。
「それはやめて頂きたいな。サリス様の少しは桁が違いますからな。ですが、それも一つの案でしょう。」
そう言うとキース団長が笑った。
「一目見ても強者だと分かる風貌であそこの付近に行けますかな?」
「任せて。」
そう言うと私は全身を結晶化させてヴァーナの軍隊が進んでくる通り道のすぐ側にある岩の上で見た目を変えながら再形成していく。
「あら?意外と早く気が付かれましたね。」
岩に腰掛けた状態で形成したが、ヴァーナの軍隊は私に対して警戒態勢に移っていた。
「ふーん。なるほどね〜。」
足を組んで組んだ足の上に肘を乗せて頬杖をつきながら見下ろす。
「貴様、何者だ?」
先程キース団長の力を使い共有してもらった鎧を着た男がそう聞いてきた。
「何者だと思う?」
「少なくとも味方では無いな。」
「正解。見たところ貴方が指揮官?」
頬杖をついて試すような口調でそう聞いてやる。
「その通りだ。ヴァーナ衛星国第一騎士団、団長のリフターだ。」
そう言って一歩前に出た。
「これはご丁寧に。」
岩から降りるとヴァーナの軍隊とエルドラドの城壁は遮るように立つ。
「エルドラド皇国、防御城壁隊の総司令官サリス。」
そう言うと私の足元から横一線に地面を凍らせていく。一瞬で恥が見えないくらい長い一本の氷の線が地面に刻まれた。
「この線を超えた瞬間から私たちエルドラド皇国は攻撃を開始する。よく考えて行動しなよ。」
それだけ言うと再び全身を結晶化させて城壁の上に戻った。
「どうでしたか?」
「騎士団長だってさ。」
戻ってきた私にキース団長が話しかけてきたので先程のことを簡単に話しておいた。
「なるほど。まぁ、意味無いでしょうな。」
「分かりきったことでしょ。超えた瞬間、川の水堰き止めてる地点壊せる?」
「もちろん。既に破壊要員を待機させてます。」
「流石。話が早くて助かるよ。」
城壁の上から見下ろすとヴァーナの軍隊が線を超えるギリギリまで進んできていた。
「超えたらすぐ攻撃するんですか?」
「ん?いや?ちょっとだけ猶予あげるよ。」
エスズの質問にそう答える。
「色々話聞いてましたけど、一人も逃がすつもりないんですね。」
城壁の上からエスズがヴァーナの軍隊を見ながらそういった。
「まぁね。」
完全な防御態勢を構築したヴァーナの軍隊が慎重に私が張った線を超えてきた。暫くはゆっくりと進んでいたが、攻撃が飛んでこないと分かると防御態勢を解いて城壁に向かって進軍を開始した。
「団長、壊して。」
「もう既に。」
遠くの方から微かに大量の水が流れる音が聞こえる。
「さてと、どう反応するかな?」
水の音は段々と大きくなっている。音に気がついたヴァーナの騎士が足を止めて川の方を振り返っている。
「所謂、鉄砲水ってやつですね。ここまでド派手なのは初めて見ましたが。」
勢いよく流れていく水を見てエスズがそう呟いた。
「これで逃げ道は無くなった。それでも進んでくるかな?」
突然自分達が進んできた道が無くなり、孤立したヴァーナの軍隊。だが、ノーラが言っていたように本国で基礎訓練を受けた者が多いのだろう。これで逃げ出すものはいなかった。
「なんだ、つまんないの。」
「サリス様。これは国同士の争いです。そういったことはあまり言わない方が良いかと。」
思わず出てしまった言葉にキース団長からそう言われてしまった。
「分かってるわよ。でも、ここからは貴方たちに活躍してもらうわよ?」
そう言ってキース団長に笑いかける。
「ええ。分かっております。準備は出来ております。」
その言葉を聞いて城壁の上から進軍してくるヴァーナの軍隊を見る。
「じゃあいくよ。」
その言葉を合図に私が張った線から氷の壁が一瞬で形成された。これにより、ヴァーナの軍隊は城壁と氷の壁で囲われたことになる。
「流石にこの状況は動揺してますな。」
キース団長が冷静にそう判断した。
「さて、我々も動きましょうか。」
そう言うとキース団長がスっと手を挙げた。そしてその手が振り下ろされると同時に城壁から無数の外力による攻撃がヴァーナの軍隊を襲う。
「一人も逃がすな。」
広範囲攻撃がいくつも飛んできたことにより、ヴァーナの軍隊の半分は吹き飛んだ。だが、それでもまだ半分はいる。しかも、それぞれが着弾した跡により細かく分断されているため再び広範囲の攻撃をしても効果は薄い。
「第二部隊、殲滅しろ。」
キース団長の言葉に城壁の上で待機していた騎士たちが空に飛んでいく。
「サリス様。少しだけあれを引き付けておいていただいても?」
キース団長がそう言って指さしたのはヴァーナの第一騎士団長リフターだった。さすがは騎士団長に任命されているだけあり、飛んでくる攻撃に対処出来ている。
「時間かければ私の力も要らないような気がするけど?」
「無駄に消耗させる事になりますから。」
「なるほど。」
キース団長も私と同じ合理的なタイプ。なので波長はかなり合っている。
「じゃあ行ってくるよ。あっ、そうだ。」
ふとエスズに言いたいことができたので声をかけた。
「本気の力見せてあげるよ。」
それだけ言うと空中でギュッと掴む動作をする。すると握られた拳の中に掴んだ状態の槍が現れた。城壁から飛び降りると空中に足場を作り、その足場を踏み台にしてリフター目掛けて突っ込んでいく。
「潔く、指揮官同士でやり合おうか?」
勢いのまま振り抜いた槍とリフターが構えた剣がぶつかり甲高い音が響いた。と同時にリフターの後方に切り裂かれたような跡が地面に刻み込まれる。
「槍に纏わせるのではなく、振り抜いた槍で力を押し付けたか。」
冷静に私のやった事を見抜いたリフター。
「正解。纏わせるのは苦手でね。」
リフターの剣を押し出すように反動をつけて距離をとる。
「流石は第一騎士団長。この攻撃を受け止めるか。」
「元々、殺すつもりもなかったのだろう?あんな簡単に分断される力しか使えないとは思えん。」
確かにいま私がリフターにぶつけようとした外力は本気では無い。だが、普通ならそのまま上半身が消し飛ぶ力を使ったつもりだ。
「殺すつもりではあったわよ?ただ、力を図る目的があったのは事実ね。」
槍を地面についてリフターと対峙する。
「久しぶりに本気で戦えそうだ。感謝する。」
「あら、敵同士ですが一致しましたね。私も感謝しますよ。手加減が必要ない戦いは久しぶりです。」




