エルドラド43
「結局消したのか。」
ヴァーナ衛星国で召喚された女を消してから数日後。再び開かれた闇の集会で私はクロウと会っていた。
「色々あったのよ。」
お茶を呑みながらクロウと話す。
「それで?あの後どうなったの?」
「お前たちが脱出してから殺されたことに俺が気がつくまで大体半日と言ったところだ。城の周りを飛んでいたのがハーピーだと分かり警戒も解かれた。その後は詳しく知らんが、殺されたって言う情報が俺のところに届いたのは日が昇ってしばらく経ってからだ。」
「ふーん、てっきり隠すかと思ったのに。」
「城の中で人が殺されたんだ。そんなこと言ってられないという判断だろう。」
「犯人にたどり着けそう?」
そう聞いてみると、首を横に振った。
「まず、難しいだろう。怪しい人物に関しても襲われた警備の奴は見ていないと言うし、他の警備していたヤツらも特に不審な人物は見ていないとの回答だ。」
「まだ、城の中を捜索中ってことね。つまり、外から来たやつを調べられるとマズイか。」
「そこは俺が責任もって処理してある。」
「と言うと?」
クロウが言うには入国の際にエスズを確認した警備の男性。実はクロウが変装した姿だったらしい。なのであの日アルカディア王国から来た狼を連れた女はそもそもヴァーナ衛星国に入国するしていないことになっているらしい。
「周りにいた警備の奴は?何か証言するんじゃない?」
「無いだろうな。」
「・・・なんでそう言い切れるのよ。」
「あいつらには狼を連れた女なんて見えてない。」
クロウの言葉を私は理解することが出来なかった。
「どういう意味よ。」
「あそこにいたのは全部俺が作り出した分身だ。」
そう言うとクロウが自分の背後に今のクロウと全く同じ姿の分身を作り出した。
「・・・なるほどね。こうやって直接見ると分かるけど、あの時はぬいぐるみ通してだったし、分からないわけね。」
「これでもあの国では上の方だからな。こんなところに顔出してるとバレないように分身を向こうに置いて、来てる。」
分身を複数体、距離の離れた所の分身を操ったり、しかもそれぞれ違う動きをするように操るのは相当な技術だろう。
「ふーん、貴方ってこの集会どれくらい前から来てるの?」
「ここか?俺がまだ第二騎士団の小隊長だった頃だからな。大体10年ぐらい前か?」
「10年ね。闇騎士はどれくらい?」
「聞くまでもないだろ。生まれてすぐだ。」
そう言った闇騎士。その言葉にクロウは驚いたように闇騎士の方を見た。
「生まれてすぐってほんとか?」
「ああ、本当だ。覚えている限り、初めてこの集会に来たと記憶してるのは俺がまだ喋ることも立つこともできない頃だからな。」
当たり前のようにそう言ったが、私がこの集会に始めてきたのは留学から帰ってきたからすぐ。つまり、クロウよりもさらに短い。そんな私とほとんど同じ歳で生まれた頃からこの集会に来ている闇騎士がどれだけ異質か。
「どうしたらそんな幼い頃から来てんだよ。というか、最初は招待状無いとこの集会に来れないだろ?しかも、その招待状は突然やってくる。」
「家系でしょうね。」
「家系?そんなにヤバい家系なのか?」
クロウの質問に私が答える。
「私たちの国で一番暗躍が得意って言ったら納得する?」
私の言葉にクロウが黙った。
「・・・そりゃ、呼ばれるわな。納得だ。」
はぁ、と大きなため息をついた。
「まぁ、それは置いておく。それよりもあの女が殺されたことで向こうの派閥はかなりピリピリしてやがる。」
「だろうね。しかも殺された犯人に見当がついてないからどこに矛先を向ければいいかわかってない。」
クロウがこの先話すであろう言葉は何となく想像できた。
「近いうちに動くかもな。規模は予想出来んが。」
「でしょうね。派閥の中でピリピリしてても大元に有る目的は同じだろうし。」
クロウは何かを訴えるようにこちらを見続ける。
「出るのか?」
「状況によるわね。戦いになれば犠牲は出る。ヴァーナ衛星国の戦力が皇国の戦力と比べて劣ってるとは思わないし。だからといって犠牲を出さないために私が出ちゃえば一瞬で終わるだろうけど、それが問題の解決にはならないだろうしね。」
クロウの方をちらっと見ながら話す。
「そうか。なら、これだけ言っておく。俺は第二騎士団長として戦うのは反対だと声を上げるつもりだ。」
「そう。」
「恐らく、批判も出るだろうがすぐに捕まって殺されることは無いだろう。」
「・・・何が言いたいのよ?」
「出来れば一瞬で終わらせて欲しいだけだ。それか圧倒的な力でな。」
つまり、反対の立場を派閥のトップに近い立場から発することで戦いに敗れたもう一方の派閥よりも有利にたとうというわけか。
「さっきも言ったけど状況しだいよ。それこそその戦いを仕掛けようとしてる派閥の全軍でも出てこない限り私は出ないわ。」
皇国の戦力は個々の力に依存してる関係上大軍相手だと個々の負担が大きくなる。そうなると消耗戦になるため、私を含めた大軍相手でも問題ない戦力が出ることになっている。
「そうか。なら安心だ。恐らくだが第一騎士団の全戦力が動くだろう。」
「・・・それ本当なの?」
「ああ。俺たち第二騎士団に城の護衛を頼んできやがった。それも、全階層のな。つまり、城の警備に当てる戦力も注ぎ込むつもりだろう。」
「なるほどね。」
「その状態で勝つことが出来れば、反対意見を挙げた俺たちは何も言えなくなり、そして第一騎士団は圧倒的な名声を得る。それだけ本気なんだろ。」
クロウの言葉が本当なら対応をしっかりと考える必要があるだろう。
「考えてみるよ。」
「ああ。それでいい。どう転んでも俺たちの負けは変わらないだろうからな。」
そういうクロウに少しだけ疑問を抱いた。
「私が出なかったら全滅しないわよ?」
「半分は死ぬだろ?その時点で負けだよ。」
クロウはそう言って笑いながら部屋を出ていった。
「なんだか、掴みどころのない人ですね。」
クロウが出ていった扉を見ながら闇騎士がそう言った。
「そうでも無いわよ。根底にあるのは国を守るってことだと思うし。」
「それなのに反対するだけで止めはしないんですね。」
「私と同じ合理的なんでしょ。最適な形にするために不必要なものを切り落とすことに迷いがない。つまり、あいつにとっては今の第一騎士団は残しておく必要のないものなんでしょうね。」
そんな話を闇騎士としながらクロウが出ていった扉を見ながら笑った。
「・・・ヴァーナの第一騎士団なんて言ったら本国から派遣されてきた騎士も多くいる騎士団よ。そんな騎士団に勝てると思ってるの?」
先程から牢屋の中で私とクロウの話を聞いていたノーラがそう聞いてきた。
「そうね。真正面から堂々と戦えば負けるかもね。」
立ち上がりノーラの前に移動する。
「でもね。私たちは真正面から戦うつもりなんて一切ない。卑怯と思う?」
まっすぐノーラの目を見てそう聞いた。
「俺たちエルドラドの軍は基本兵士は前線に出ない。離れた地点から力で攻撃するのが多いからな。まぁ、近接戦に関しても負けるとは思えんが。」
闇騎士が補足するようにそういった。
「気になるなら見てみる?どうせ私も出るだろうし。」
「出るのか?」
「だって、頼まれちゃったし。」
そう言うと呆れたような声で
「どうせまた何かやる気だろ?」
と言われてしまった。また、とはなんだ一度もやってないだろう。
「まぁいいわ。それより、ノーラ。見てみる?私たちエルドラドとヴァーナの戦い。」
私の思いもよらない誘いにノーラは驚いたのか目を開いて固まってしまった。




