エルドラド42 エスズ ヴァーナ潜入編
部屋の隅で何故かクッションを自分の前に持って私を見てくる女。
「なんで警戒してるんでしょうか。」
『見たことない人が見慣れた服着て突然入ってきたら驚くんじゃない?』
「なるほど。」
とりあえず、警戒を解くために掌を開いて両手をスッとあげる。
「安心してください。傷つけるつもりはありません。」
そう言いながら近づくもやはり警戒はしている。こちらの意図は伝わっているが、やはり警戒心が勝っているのだろう。
『何となくだけど、こっちの言葉通じてない気がする。』
先程からぬいぐるみを通して観察していたサリスさんがそう言った。
「その場合、かなり厄介なんですが。」
『別の世界から来てるんだし、仕方ないんじゃない?私たちはこの世界の住人に生まれ変わってるから問題ないだけで。』
言葉が通じないとなればどうしようもない。とりあえず、時間が掛かるだろうしもしもの時を考えて変装でつけていた眼鏡と髪留めを外す。
『少しでも情報は欲しいわね。エスズは何か感じることある?少なくとも私が感じることは無いんだけど。』
「私たちよりも強いといった雰囲気も感じませんし、力に関しても適性は低いような気がします。」
『脅威にはならなそうか。まぁ、それだけ分かればいいと思うわ。消す必要も無いし。』
ポケットに入ったぬいぐるみと話をしていると背後から声をかけられた。
「あ、あの・・・」
その言葉に私は耳を疑った。バッと振り向くと女がビクッとして身体を震わせた。
「あの、あなたは、エスズですよね?」
震えながらも少しづつそう言った女。サリスさんもぬいぐるみの向こうで驚いているのだろう。先程から黙ったままだ。
「驚きました。まさか、私たちの元いた世界、しかも日本からの召喚者でしたか。」
突然日本語で話し始めた私に今度は女が驚いた。
『なるほど、なるほどね!そういうことだったの!』
サリスさんの声がぬいぐるみを通して聞こえてきた。
「サリスさん、聞こえてますよ。」
『ん?あぁ、ごめんなさい?ちょっと興奮することがあってね。』
私とサリスさんの会話は日本語ではなくこの世界の言葉で会話をしているため女に意味が伝わる可能性は低い。
「改めまして、知っての通りエスズです。『あのゲーム』のエスズで間違いありませんよ。そして、私もあなたと同じ世界から来た者です。転生なので詳細は違いますが。ちなみにこの向こうにいる人もそうですよ。」
そう言ってポケットからぬいぐるみを取り出して女に見せる。
『聞こえてる?初めまして、召喚者さん?エルドラド皇国の皇妃よ。よろしくね。』
そういうと女がまた驚いた顔をした。あのゲームを知っていればエルドラド皇国の皇妃がどういう人物が想像するのは簡単だろう。
「じゃあ貴方のこと教えてくれる?まず、貴方のいた日本は何年だった?」
「わ、私は2568年の日本から来ました。」
『2568年か。私の生きていた時代から大体10年ね。』
「私も同じです。時間軸は似ている感じですね。」
「あの、生きていたってどういう事ですか?」
女がそう聞いてきた。
「言葉の通りですよ。私も、このぬいぐるみの向こうにいる人もあなたの生きていた世界の日本では既に死んだ人間です。」
『齢21で死んだ女子大生でーす。』
ぬいぐるみから冗談を言うような声色でサリスさんが言った。
「そ、それであなた達は何をしに来たんですか?」
「あなたの事を観察しに。必要であれば消すために。」
「消す?」
『殺すってことよ。あなたのいるヴァーナ衛星国は私たちエルドラド皇国に対して敵対している。友好的なアルカディア王国にも間接的に敵対してるようなものよ。そんな国に未知なる存在が現れたとなったら確認しに来るでしょ。』
「そ、そんな・・・」
青ざめた様子で私たちを見る女。
「それで?どうします?」
女を見ながらぬいぐるみを近くにあった机に置く。
『力の部分だけ見るなら消す必要も無いけどね。もし記憶の技術を伝えられたり解析されたりしたら面倒だけど。』
「その話の流れから言うとどの世界から召喚された人物でも消す事になりそうですね。」
『そうでも無いわよ?ある程度の力があれば自力で脱出したりしただろうし、力がなければ知識や技術が奪われるだけ。力のない世界の技術や知識なんて上から潰せばいい。』
「でも消すんですか?」
『どっちでもいいわよ?』
「ここで私に振るんですか?」
『未来の女王になるんだしその決断の一つや二つ経験しておかないとね。』
ぬいぐるみを通してサリスさんと会話をしていると女が話しかけてきた。
「やっぱり、私を殺すんですか?あの裏エンドみたいに。」
私と距離を取り警戒する女。
『裏エンド?そんなのあったの?』
「・・・ええ。あのゲームには裏エンドがあります。」
『ふーん、隠してたってことは何かヤバいエンドみたいね。聞かせてちょうだい?』
試すような口調のサリスさん。私は日本語で話し始めた。
「裏エンドは簡単に言うとエスズ闇堕ちルート。エスズを断罪する証拠を十分に集められなかった場合に入るルートです。」
『ん?それが条件ならかなり簡単にそのルート入らない?』
「いえ、グットエンドとノーマルエンドの間に位置している関係上、少しでも証拠が多いだけでグッドエンドに分岐しますし、少しでも足りなければノーマルエンドに分岐します。しかも、ゲームの進行もランダムなので攻略サイトもあまり意味が無い。なので存在は知っていても見た事のある人はあまり多くないはずです。公式が動画とかで公開することも禁止していたので。」
『ふーん。』
サリスさんが納得したところで続きを話始める。
「裏エンドでは私が国を襲うボスとして登場します。そこで主人公と対戦して勝てばグッドエンドに負けれもうひとつのバットエンドに分岐します。もうひとつのバットエンドについては聞きますか?」
『いや、大丈夫。何となく想像できるし。』
「わかりました。以上が私の隠していた裏エンドです。」
しばらく黙っていたサリスさん。
『まぁ、結論から言うわね。』
そう言って一呼吸置いた。
『だから?』
サリスさんはそれだけ言った。
『別にそれはゲームの話。既にゲームのシナリオなんてめちゃくちゃになってるんだし、今更そんなこと言われても関係ない。』
予想通りの回答で少しだけ笑ってしまった。
『でも、そんな性格を王女になる人が持っているってバレるのは後々面倒だね。』
「そうですね。」
『じゃあ殺っちゃって。』
「分かりました。」
振り向きざまに不可視の水で作った細い針を女に向かって投げつける。
「え・・・」
避けることも出来ず心臓を貫かれた女は事態を飲み込むことが出来ず呆然としている。
『一つ言っておくね。』
ゆっくりと膝を着いた女に向かってサリスさんが話しかける。
『この世界で向こうの世界の常識は通用しない。私たちは人を殺すことに躊躇はしないよ。』
床に倒れ動かなくなった女。ゆっくりと床を血で染めていく姿を見ながら私はぬいぐるみをポケットにしまい、部屋の窓から外に出た。
「ここからなら見えそうですね。」
バルコニーから空に向けてサリスさんから貰っていた筒に付いている紐を引っ張る。すると、ポンッと音を立てて赤い光が空に向けて打ち上がった。
「終わったか。」
赤い光を打ち上げてすぐに狼がバルコニーまでやってきた。
「はい。あとは脱出するだけです。」
「あのハーピーは良いのか?」
「夜目はききますから。私たちが脱出するのも見ているでしょうし、先程の光を見てすぐに動くでしょう。」
狼の背中に乗り鞍についた紐を握る。
「お願いします。」
その言葉を聞いた狼が走り出してバルコニーから飛び出した。かなりの高さから飛び降りたはずなのに、地面に着地した時はほとんど揺れなかった。そのまま通りを駆け抜け、国土を囲う大きな運河までたどり着いた。
「ここからは泳いでいくつもりだったが、丁度よくハーピーが居るのでな。運んでもらえるか?」
運河に来るまでにフウカとは合流しており、すぐそばにいる。
「お任せ下さい。」
そう言うとフウカは狼を両足で優しく掴み乗っている私ごと浮かび上げた。
『このまま国まで運んでもらえば?』
冗談らしくそう言ったサリスさん。それに対してフウカはさすがにできませんよと笑っていた。




