エルドラド41エスズ ヴァーナ潜入
メイド服に着替えた私はぬいぐるみをメイド服のポケットに入れて脱出路の最終地点で合図を待っていた。
『さすがにこの状態だといつもみたいにはできないから、エスズ自身が警戒するしかないからね。』
「わかってます。でも見えているんですから監視くらいは手伝ってくださいよ。」
『オーケー。』
小さい声でそんな話をしていると、コンコンと音がした。
「待たせたな。」
目の前の壁が少しだけ開いて依頼者の男性が顔を覗かせた。
「目的の部屋までは行けるか?」
『こっちで地図作ったから問題ないわよ。』
「そうか。ならすぐに向かってくれ。出て直ぐに他の奴と会ったら一大事だ。」
男性が先に部屋の外に出て周りに人がいないことを確認してくれた。
『そうだ、これだけは言っておく。すぐにでも消す必要がある場合はやるから。』
「ああ、構わない。」
男性はサリスさんの言葉にそう頷いた。
「何かあったら介入できるようにはする。」
目的の部屋まで移動を始めた私に男性がそう声をかけた。
『それにしても、この変装でバレないかしら。』
城の廊下を歩きながらサリスさんがそう言った。
「今言わないでくださいよ。しかも変装してるの私ですし。」
『いや、私の感覚だと顔とか雰囲気違うから絶対分かるから心配なのよ。』
「そんな人が沢山いるわけないでしょう。」
実際、先程から何人かとすれ違っているが特に呼び止められることも無い。
「ここから何か雰囲気が違いますね。」
階段を登りきる直前、それまでとは違う空気を感じ取った。
『注意はした方がいいわね。ぬいぐるみ少しだけ覗かせてくれたら偵察するわよ?』
「じゃあお願いします。」
ポケットからぬいぐるみを取り出して角から覗かせる。通路の左右両方がしっかりと見えるように動かしてから、引っ込める。
「どうでした?」
『エスズの感じた通りだね。人の数は少ないけど装備がこれまですれ違った奴とは違う。明らかに戦闘に備えた装備を着てる。』
「ここからはこの服も意味ないかもですね。」
素早く動くには少し邪魔になるメイド服。脱いでしまおうかと思ったが、もし見つかった時の言い訳にも使えるだろうとのことで着たまま動くことになった。
『目的の部屋まではあと少しだけど、そこに行くにはここの廊下を通り抜けないといけないね。さてと、どうしたものか。』
悩んでいるようでぬいぐるみからペンを机にコンコンと叩く音がかすかに聞こえた。
「ディーネさんから困ったら飲みなさいって渡された薬はあるんですが。」
『えー?大丈夫なの?それ。』
「今回のことは話してあるのでド派手に爆発するとかそういう心配はないと思いますが。」
『・・・時間もないし方法もない。やって見るしかないね。』
ディーネさんから貰った薬を一気に飲み干す。
「どうですか?」
『なるほど。初めてディーネの薬に感謝したかもしれない。』
自分の手を見てみようとしたが、そこには何も無かった。
「透明化ですか。」
『しかも、着てる服までとはね。これは驚いた。』
「あれ?ぬいぐるみは透明化してませんね。」
目の前にはぬいぐるみが座っている。
『まぁ、これは気にしないで。移動させる位なら離れててもできるから。』
そういうとぬいぐるみがひとりでにフワッと浮いた。
『一番奥の階段下で待ってるわ。』
そういったぬいぐるみが一瞬だ消えた。
「私も行かないと。効果が切れるかもしれないし。」
再度透明なことを確認して早足で廊下を進んでいく。途中で騎士たちが話していることも聞くことが出来た。
『大丈夫だったみたいね。』
階段を少しだけ登ったところにぬいぐるみが置かれていた。
「意外と効果が長くて安心しました。」
『もうすぐ切れそうだけどね。それで、なにか聞けた?』
「噂程度の話しか聞けませんでしたね。」
『無いよりマシよ。』
ぬいぐるみを再度メイド服のポケットに入れて先を急ぐ。
「召喚されたのは一人。それも若い女性との事です。」
『女が一人か。』
「話し方が『女一人のためにここまでするか?』っていう感じなのでまず間違いないかと。」
『それ以外は?』
「あとは下の話なので意味無いでしょう。」
『あはは、まぁそんなもんでしょ。』
上の階は比較的警備している人の数が少なかったり、物陰が多かったりとすんなり目的の部屋がある階までたどり着いた。
「やっぱり部屋の前は警備が立ちますよね。」
物陰から目的の部屋を見ると、しっかりと装備を着た警備が数人立っている。
『あれだけ装備来てると倒れた時かなり音がするわね。となると排除は最善策じゃ無くなるか。』
「隠密で行こうにもあれだけ警戒されてたら部屋には入れません。」
『打つ手なしか。どうしたものか。』
そう悩んでいると、ふと月明かりの入る窓が目に入った。
「フウカに手伝ってもらう。」
『フウカに?どうやって?』
「城の周りを目立つように飛んでもらうんです。確か、フウカ達ハーピーはこの辺りに住処は無いはず。それならば大きな鳥と見間違える可能性があります。大きな鳥が城の周りを飛んでいるとなれば何かしら動きがあるのでは?」
『なるほど。調べた結果この辺りに住んでいない亜人だったとなれば、たまたま迷い込んできたと思われて攻撃もされないだろうし、警告だけで済む。それでも騎士は動くだろうから部屋の警備が薄くなるか階下の警備が薄くなる。そうすれば倒すもよし、潜入するも良しってなるわけね。』
サリスさんからも同意を得られたので少しだけ警備から離れた窓に近寄り、そこからフウカを呼び出した。
「お呼びでしたか、と言いたいところですが何やらお取り込み中ですかね。」
「察しが良くて助かるよ。この城の周りできるだけ目立つ様に飛んでくれる?可能なら月明かりを上手く使ってシルエット隠しながら。」
「お任せ下さい。」
「適当に騒ぎ始めたら城の中の安全なところに着地して待機してて。私たちの目的が終わったら合図するから。」
「わかりました。では。」
フウカはそう言って窓から飛び出していった。
「では私たちは少しだけ待機ですね。」
目的の部屋を見張れる位置から警備の動きを観察する。
『おっ、バタバタしてきた。』
影から監視してもらっていたサリスさんがそういった。
「部屋の前の警備は動きそうですか?」
サリスさんに確認する。
『まだ動かないわね。でも、注意は逸れてるわね。あとはもう少し警備の数が少なくなればいいけど。』
「下の階からも足音聞こえますし、もう少し待てば何とかできそうですね。」
目的の部屋の方を覗き込むと、丁度廊下を巡回していた警備2人が階段を降りていくところだった。
「見える範囲にはあと3人ですね。」
『見てくる?』
「いえ、強行突破します。あの数なら倒して近くの部屋に隠せば時間は稼げるでしょう。」
『了解。じゃあ頼んだわよ。』
一度息を吐いてから近くにある扉をわざと音が出るようにして開けて中に入る。
「おい、誰かいるのか?」
予想通り警備の1人が釣れた。
「風か?」
部屋の中を調べ始めた警備にそっと近づき、背後の現れた気配から私に気がついた警備の口に不可視の水の塊をねじ込む。
「しばらく溺れててください。」
突然気道を塞がれもがき苦しみ警備。鎧が地面とぶつかり音が出ないよう水のベットを敷いておく。
「残りは・・・」
不可視の矢を2本警備の頭に向けて構える。物陰から放たれた2本の矢はそれぞれの警備の頭に当たり鈍い音を立てた。今回使った矢は先端を球状に圧縮しているので殺害はしないが、かなりの衝撃で気絶はするだろう。
「よし、間に合った。」
膝から崩れ落ちるように倒れる警備を地面とぶつかる寸前で地面との間に作りだした水のベットで受け止める。そのまま水のベットに乗せた状態で近くの部屋に詰め込んで隠す。
「手早く入りますか。」
閉められた鍵穴に指を当てて内部に水を流し込む。
『どう?開けられそう?』
「普通の鍵ですね。これなら問題無いかと。」
ガチャッと音がして鍵が外れた。
「いきなり飛び出てくるとか無いといいんですが。」
慎重に扉を開けて部屋の中に入り、素早く扉を閉めて鍵をかける。簡単に入られないように鍵穴と扉の隙間を圧縮した水で埋めておく。
「これで暫くはもつでしょう。」
独り言のようにそう呟き、私は部屋の隅で私のことを警戒している1人の女に向き直った。




